SUGIZO、ツアーファイナルでウクライナの国民的バンド・KAZKAとのコラボ曲を初披露

2023年7月11日 / 19:30

7月10日@Zepp DiverCity(TOKYO) (okmusic UP's)

7月10日(月)、SUGIZO(LUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARS、SHAG)が、『SUGIZO TOUR 2023 Rest in Peace & Fly Away ~And The New Chaos is Saving You~』と銘打ったツアーのファイナル公演をZepp DiverCity(TOKYO)にて開催した。

自身5年ぶりとなるソロツアーであり、SUGIZO COZMIC DANCE SEXTET(SUGIZO、MaZDA /マニピュレーター、シンセサイザー、よしうらけんじ/パーカッション、komaki/ドラム、Chloe/ヴォーカル、ZAKROCK/VJ)と名乗る6人編成で実施。東京での最終公演では、ウクライナの国民的バンド・KAZKAとの共演が実現し、共に制作した楽曲「ONLY LOVE, PEACE & LOVE」を初披露。平和への祈りを音楽で捧げた。
MaZDAのサイケデリックトランス・プロジェクトUNIによるオープニングアクトで温まったステージに、まずはKAZKAが登場。KAZKAについて、ここで少し詳しく言及しておく。

軍事侵攻を受けている渦中の今もキーウに在住し続け、音楽活動を継続しているアーティストである。2022年10月、日本に避難したウクライナの同胞たちを励ますため、「ウクライナ心のケア交流センター渋谷ひまわり」と連携して来日し、様々な活動によって在日ウクライナ避難民の心のケアに貢献した。

また、その際に広島の原爆ドームや原爆資料館も訪問。当時の発信からは、核の脅威にさらされているウクライナを故郷とする彼女・彼らだからこその、強い共鳴を感じ取ることができる。難民支援活動に積極的に取り組んで来たSUGIZOもまた、「ウクライナ心のケア交流センター渋谷ひまわり」との強い結び付きがあり、様々な交流や活動の積み重ねの中で、今回のKAZKAとのコラボレーション実現に至った。

本来は3人グループだが、今回はヴォーカルのサーシャ(オレクサンドラ・ザリツカ)とデイマ(ドミトロ・コズリアツ)が来日、2人の女性コーラスを携えた4人編成でパフォーマンス。ハスキーでパワフル、心に強く訴えかけるサーシャのヴォーカルと、哀愁を帯びた情感豊かなディマの笛、前衛的なダンスで目を奪うミステリアスなコーラスデュオが織り成すライヴは、音楽的魅力の宝庫。エレクトロなダンスミュージックとウクライナの伝統的な民族音楽とを融合させ、オリジナルなポップスへと昇華したサウンドに会場は沸き立った。

2018年に世界的な大ヒットとなった代表曲「CRY(原題:プラカーラ)」では、サーシャがSUGIZOを呼び込んでセッション。2018年にShazamの世界チャートでトップ10に入った大ヒット曲で、悲しみの涙で再生していくウクライナ人女性の力、悲しい思い出を振り払うためのレシピ、というメッセージを込めた、女性の運命を歌った曲。涙を流す女性たちがやがて笑顔へと移り変わっていく印象的なミュージックビデオはYouTube再生数4億回を上回っており、2023年の今、ウクライナの人々の不屈の精神を象徴する曲として聴き返したいパワフルなナンバーでもある。
SUGIZOのギター演奏は終盤荒々しく昂っていき、それを受けてKAZKAのメンバーもテンションが上がっていく。フロアには、ウクライナからの在日難民の人々が招待されており、日本のオーディエンスとの垣根なく盛り上がり、音楽に身を委ねて声を上げ、生き生きと踊っていた。この曲を含め後半3曲では、SUGIZO COZMIC DANCE SEXTETからkomakiがドラマーとして参加。サーシャは「Make some noise!」と煽るだけでなく、曲の合間で何度も「アリガトウゴザイマス!」と日本の人々への感謝を述べていた。熱狂的なパフォーマンスを終えて、コーラスの2人がステージに残り、直立した姿勢でアカペラで歌ったのは、Gizlsと呼ばれる民謡。言語を通した理解の枠を超越し、胸に直に響いて来る歌声だった。
続いてSUGIZOのライヴがスタート。ゲストに迎えたピアニストのMAIKOと共に、SUGIZOは鎮魂のバラード「Rest in Peace & Fly Away」をヴァイオリンで奏で、ショウは厳かに幕を開けた。

曲を前半で終え、バンドメンバーとゲストの類家心平がステージに勢揃いしたところでSUGIZOは一言挨拶。“昇天しましょう”と告げて「DO-FUNK DANCE」がスタート。ここからはノンストップで音楽と映像と照明、三位一体のサイケデリアを織り成していく。

「NEO COSMOSCAPE」ではSUGIZOがパーカッションをプレイする見せ場があり、よしうらけんじのジャンベ、komakiのドラムが織り成す打楽器三重奏が圧巻。現代音楽的アプローチのミニマルな電子音楽とジャズの語法を融合させた「Rebellmusik」は、映像でも戦争反対と平和への祈念を表現。

ウクライナの国旗が黄色の花畑と青空のイメージと二重写しになり、平和を表象する様々な映像がコラージュされていく。類家のトランペットソロとSUGIZOのギターが激情を迸らせながら絡み合う場面には目も耳も釘付けに。ここまで4曲、SUGIZOのインストゥルメンタルの“雄弁さ”を改めて実感させられた。
「ARC MOON」は、月、海、遊泳するイルカといった自然界のモチーフを表現した映像と、神秘的な照明、レーザーが曲の世界観を可視化。Chloeという新しいミューズの歌声と呼応して、SUGIZOのギターの音色には温かな表情が加わったように感じられる。「FATIMA」では海のイメージを引き継ぎ、水中でベリーダンサーが舞うファンタジックな映像で魅了。SUGIZOが奏でるヴァイオリンの音色はどこまでも艶やかだった。

全身黒に衣装替えしたSUGIZOが、“3月にあの世へ旅立った人生の師匠であり、最も憧れのアーティスト、坂本龍一さんに捧げます”と想いを述べ、YMOの「PERSPECTIVE」をカヴァー。MAIKOのピアノに乗せてヴァイオリンを奏でた。弓を振り抜いてふと手を止めて天を仰いだり、胸に手を置いてMAIKOのピアノに耳を澄ましたりするSUGIZOの姿からは、言葉を介さずとも多くの想いが伝わって来た。残響音の中、眩い光に溢れたスクリーンには“R.I.P. Mr. RYUICHI SAKAMOTO”の文字が浮かび上がった。
「DELIVER…」は再びChloeを迎え、SUGIZOとツインヴォーカルで披露。類家が高らかにトランペットソロを吹くと、SUGIZOはChloeと背中を合わせるなど、ダンスするように身を揺らしながらギターを奏でた。「DELIVER…」同様1stソロアルバム『TRUTH?』収録の最初期曲「KANON」のパフォーマンスは白眉であり、Chloeの歌声がSUGIZOにもたらすインスピレーションの大きさ、未来に生み出されるであろう新たな音楽の可能性を感じさせた。
ラストは、直前までのボサノヴァやジャズのフレイヴァーを湛えた気怠いムードから一変。逆光の中、SUGIZOがバルカンサリュートの右手を高く挙げると、オーディエンスもそれに倣い、無言の合言葉を交わし合うような時間が流れ、「FINAL OF THE MESSIAH」へ突入。曲が始まると、髪を振り乱してギターを掻き毟ったりドラムセットに駆け上ったり、制御不能であるかのような狂騒状態へとSUGIZOは身を投じていく。

極限の緊張感が快楽を生む「禊」では、ジャンベを叩くよしうらと向き合って、SUGIZOはギターを弾きながら一層激しく髪を振り乱した。本編ラストの「TELL ME WHY?」では、心の奥底から切実に問い掛けるようなシャウトを繰り返した。

アンコールの声を受けて再登場すると、SUGIZOはKAZKAの招聘についてコメント。キーウから陸路でポーランドに渡り、日本へとやってきた彼ら・彼女らを“命懸けで音楽を届けたい、という想いで来てくれた”と讃え、“このステージでお届けできたことを心から光栄に思っています”と感慨を述べた。

“日本在住ウクライナ日難民の方々がたくさん来てくれています”とフロアを示すと歓喜のリアクションがあり、会場は温かなムードに包まれた。ウクライナに限らず「あらゆる国で苦境に立たされている人たちがいる」とSUGIZOはシビアな現状認識を語り、日本で、安全な状態で音楽を楽しめるのは当たり前ではなく、どれだけありがたいかを細胞レベルで痛感していると語った。

アンコールで披露するのは、「今だからこそ、表現しなければならない曲」と“SUGIZOの過去のメロディーをリアレンジして、歌詞を変えた曲”だと告げたSUGIZO。メンバー紹介を差し挟み、KAZKAを呼び込むと、サーシャはウクライナ国旗を手に登場。

まず1曲目にSUGIZOとChloeがKAZKAに参加して披露する「I AM NOT OK」は、“戦争の時にウクライナ人が感じる気持ち”を表していると言い、“早く戦争が終わってほしい、世界中が平和になってほしいとお祈りしています”と語った。スクリーンに投影されたのは、戦禍の実情を生々しくドキュメントした、同曲のミュージックビデオ。SUGIZOはギターを奏でながらメンバーに代わる代わる近付いて、寄り添うようにプレイした。
2曲目は、SUGIZOとKAZKAが音のデータをやり取りして共につくり上げた楽曲「ONLY LOVE,PEACE & LOVE」を初披露し、全員でセッションした。ポジティヴな気持ちに導かれるような主旋律と、力強くピュアなコーラス。SUGIZOのギターが穏やかにコードを奏でていく。スクリーンには老若男女、とりわけ多くの子どもたちの微笑みの写真で溢れていき、出演者とオーディエンスが鳴らすハンドクラップが響いた。音楽ジャンルはもちろんのこと、人種、国籍、宗教の差異が生む境界線をすべて乗り越えて、平和への祈りを共に捧げた温かな時間であり、場所だった。

ラストは「Rest in Peace & Fly Away」の後半を、再びMAIKOのピアノと共にヴァイオリンで演奏。鎮魂の祈りで包み込む形で、ライヴは幕を閉じた。

“素晴らしいファイナルを迎えられました、本当にありがとう!”とSUGIZOが挨拶し、全員でラインナップ。オーディエンスを含めた記念撮影をした後、KAZKAからサプライズでSUGIZOに花束が贈られた。公演の前々日にあたる7月8日がSUGIZOの誕生日だったことを耳にして用意したと明かし、KAZKAメンバーで歌ってくれたのは初めて聴くメロディーだったが、おそらくウクライナのバースデーソングだったのだろう。SUGIZOは少し照れ臭そうだったようにも見えたが、晴れやかな笑顔でKAZKAメンバーとハグを交わし、“ありがとうございました!”と改めて感謝を述べた。

新しい歳を重ねられることは、もちろん当たり前のことではなく、戦時下はなおさら言うまでもない。ライヴ全体がそうであったように、この一幕もまた、平和への祈念を象徴するものに思えた。

また、今回のライヴも楽器演奏の発電に水素燃料電池車を使用。LUNA SEAは水素燃料電池を電源とした世界初のライヴを2017年に成功させており、発案者であるSUGIZOは、自身のライヴやTHE LAST ROCKSTARSのライヴでも同試みを積極的に取り入れて来た。脱酸素の観点から注目されているサスティナブルな電気であるだけでなく、音質も良いとの実感をたびたび語っている。ツアー完走後も立ち止まることなく、LUNA SEA、THE LAST ROCKSTARS、SHAGとしての活動をますます活性化。音楽家として、社会活動家としての活動が相互に作用を及ぼし合いながら、SUGIZOの道程は続いていく。

Text by Tae Omae

Photo by Keiko Tanabe


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