<ライブレポート>ジョージ・クリントン/DINNER PARTY/SKY-HI & BMSG POSSEらが出演【#ラブシュプ】まとめレポ

2023年6月1日 / 18:00

 イギリス発のジャズ・フェスティバル【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023】が5月12日と13日の二日間、埼玉・秩父ミューズ・パークにて開催された。コロナ禍の影響で2年連続延期となり、昨年ついに日本初上陸を果たしたこのフェスは、“ジャズ=自由な音楽”を体現する多彩で横断的なアーティストのラインアップが特徴的。また、自然豊かなロケーションや地元の飲食店が並ぶフードエリアは、秩父における立夏の風物詩として多くの来場者に都会の喧騒を忘れさせてくれ、今年は「ドッグラン supported by チューリッヒ保険会社」も追加されて、さらに気持ちにゆとりを感じさせてくれる。そんな“ラブシュプ”ならではの魅力が溢れた二日間。その名の通り、至上の愛と至福の音楽体験に満ちた祭典を振り返りたい。

 小雨模様の初日。オープニング・アクトとして登場したのは、ゴスペルやブラック・ミュージックをルーツに持つシンガー、MoMo。「Got It All」や「Lazy Love」といった楽曲を立て続けに披露すれば、ジャジーでソウルフルな歌声に引き寄せられ、芝生エリアの<GREEN STAGE>に早くもオーディエンスが集まっていく。「最後まで楽しんでいってください!」と語りかけ、ラストは最新シングル「Life of the party」でステージを締めくくった。

 一方、芝生エリアに加えて座席指定の砂被り席も設けられている<THEATRE STAGE>、そのトップバッターを務めたのは、“日本一忙しいドラマー”とも称される石若駿によるプロジェクト、Answer to Remember。自身の名義でも出演予定の馬場智章(Sax)、MELRAW(Sax)らを迎えた総勢9名のバンドセットで登場すると、オープニングの「Answer to Remember Theme」を皮切りに躍動感あふれる演奏がスタート。瞬く間にフロアを熱狂させる。後半はゲスト・ボーカリストが次々と招かれ、「Kimochis」の曲中に登場したJuaは、続く「410 feat.Jua」でもスリリングな演奏とせめぎ合うようなラップを熱演。その後もermhoi、HIMIといった若手気鋭シンガーたちが迎えられ、お祭りの始まりに相応しい豪勢なパフォーマンスが繰り広げられた。

 MELRAWこと安藤康平が率いる4Acesは、4月にリリースしたばかりの1stアルバム『4Aces』収録曲「Ascension」からショーをスタート。Answer to RememberやWONK、millennium paradeなど、サポートメンバーとして数多のアーティストに重宝されている安藤だが、4Acesのステージではプロジェクト・リーダーらしく、アグレッシブに演奏をけん引する姿がとにかく印象的。その熱はバンドメンバーにも伝播していて、シームレスに流れ込んだ「S.K.O.」では、安藤に「みなさんに感謝の気持ちを込めて橋本現輝がドラムソロやります」と振られた橋本がダイナミックなプレイで応える。ボーカルにkiki vivi lilyを迎えてからは、彼女の楽曲「Rainbow Town」「ミステリアスキッス」のコラボレーションも。1stアルバム『4Aces』から「あめのひ」のパフォーマンスは、ぽつぽつと降りしきる雨音すらアンサンブルの一部のよう。とりわけハイライト的な印象を残した一幕だった。

 続いて<THEATRE STAGE>には、ドミ(Key)とJD・ベック(Dr)からなるデュオ、その名もずばりドミ&JD・ベックが初登場。ハービー・ハンコックやサンダーキャットといった名だたるアーティストと共演し、先日のグラミー賞新人賞にもノミネートされ、すでにシーンで話題沸騰中の彼ら。ステージ中央に配置された桜の木のセットを挟んで向かい合うように座り、二人が静かに音を奏で始めると「WHATUP」で幕を開けた。その後も「SMiLE」「BOWLiNG」と畳みかけ、怒涛の演奏が続いていく。キャッチーでありながらも変拍子を織り交ぜながら複雑に紡がれるアンサンブルは、とてもステージ上の二人だけで演奏しているとは思えないほど。ジャズへの飽くなき探求心がひしひしと感じられる超絶テクで会場を魅了し、全10曲の演奏を完遂した。

 ピアニストの海野雅威は、国際的に活躍するシンサカイノ(Ba)やジーン・ジャクソン(Dr)とともにトリオで登場。お互いが目を合わせ、その場の雰囲気で変幻自在にボリュームやリズムを変えていく序盤の「Get My Mojo Back」「Enjoy It While You Can」。世界を相手にするプレイヤーたちの巧みな技と音の融合に酔いしれる。しばらくグルーヴィーなセッションを聴かせると、「雨もまたいいですよね。思い出に残ります。みなさん集まってくれてありがとうございます」と海野が挨拶。中盤にはスペシャル・ゲストの藤原さくらを呼び、「わたしの Life」へ。妖艶な歌声と雨のステージが楽曲を引き立てていく。さらにマイルス・デイヴィス「Someday My Prince Will Come」やビートルズ「Ob-La-Di, Ob-La-Da」といった名曲も披露され、口ずさむ観客の姿も見られつつ、ラストは藤原のお気に入りだという海野の「Sequel to that old story」で締めくくった。

 ホストバンドをSOIL&”PIMP”SESSIONSが務め、様々なアーティストが客演として迎えられる企画の初日。社長(Agitator)が「好きなだけ騒いで! 好きなだけ踊って!」と声出し解禁の喜びを叫ぶと、まずはSOILの「SUMMER GODDESS」「初恋の悪魔」をパフォーマンス。「素敵なレディースを呼んで、特別なステージをお送りします」と宣言すれば、ブルーの衣装に身を包んだ家入レオが登場し、原田知世「ロマンス」をカバー、さらに自身の「君がくれた夏」を爽やかに歌い上げる。続いてbirdが登場し、社長と固い握手を交わしたあと、「A Night In Tunisia」「空の瞳」をソウルフルに歌唱した。最後のゲストであるAIは、「Not So Different」「Story」とメッセージ性あふれる楽曲を聴かせ、さらにチャカ・カーンの「Through The Fire」をカバー。個性豊かな3人のボーカルとSOILの演奏が雨をも吹き飛ばしてしまいそうな、そんなエネルギーを生み出す化学反応のステージだった。

 ファンク、ソウル、ジャズ、ラテンなど幅広い音楽ルーツを感じさせるALI。LEO(Vo)の「Let’s go!!」という掛け声で「仁義なき戦い ~ Dance You, Matilda」がスタート。「VIM」「Wild Side」と熱量の上がる楽曲が立て続けに披露され、オーディエンスの手拍子も段々と大きくなっていく。「ハートに火をつけにきたぜ!」「俺ら一番下手かもしれませんけど、一番楽しませます!」とLEOが感情を露にした雄叫びを上げれば、メンバーのCÉSAR(Gt)とLUTHFI(Ba)も演奏しながら飛び跳ね、ノリノリで踊りまくる。その後も「待ってました」と言わんばかりに客席が色めきだった代表曲「LOST IN PARADISE」など、ライブの盛り上げ方を心得たALIならではの巧みなショー運び。最後は「音楽バンザイ!!」と叫び、この後に控えるヘッドライナーに威勢よくバトンを繋いだ。

 初日のトリは、P-FUNKの総帥ジョージ・クリントン率いるPARLIAMENT FUNKADELICが登場。総勢13名のメンバーがステージに現れると、ハウス・オブ・ペインの「Jump around」が流れ出す。総帥が「ジャンプ! ジャンプ!」と煽れば、客席は総立ち状態に。「Pole Power」「Meow Meow」と定番楽曲をノンストップで投下しつつ、ジョージは座ったり立ち上がったりを繰り返しながら、オーディエンスやメンバーを焚き付け踊らせる。そして、シークレット・ゲストとして.ENDRECHERI.こと堂本剛が呼び込まれ、スペシャル・セッションがスタート。颯爽と登場した.ENDRECHERI.は「FlashLight」でギターのバッキングに徹していたかと思えば、ソロパートではすぐ横に立ったジョージに至近距離から煽られながら圧巻のギタープレイで観客を驚かせた。ラストのメンバー紹介では「すでに80歳を越えてるんだぜ!」と紹介されていたジョージだが、その活気と若々しさはむしろ年々拍車がかかっているようである。色褪せないP-FUNKのパワーを見せつけ、多幸感あふれるお祭り騒ぎのままエンディングを迎えた。

 雨が止み、代わりに涼し気な朝靄の幻想的な風景が来場者を出迎えた二日目。この日のオープニング・アクトはsoraya、作編曲を担当するピアニストの壷阪健登と、作詞を担当するベーシスト&ヴォーカリストの石川紅奈によるユニットだ。美しく繊細なピアノの音色、石川の心地いいシルキーボイスが極上のハーモニーを奏でる1曲目「耳を澄ませて」。続く「BAKU」では夢を食べる動物バクをモチーフにした歌詞と、歯切れのいい壷阪のピアノタッチが合わさり、sorayaの世界観を構築していく。最後はユニットの1stシングル「ひとり」を披露し、「今年の夏もいろんなところで演奏する予定」「いま頑張ってアルバムを作っている」と今後の活動について触れつつ、満足げな笑顔でステージを去っていった。

 二日目の<THEATRE STAGE>、トップバッターを務めたのは、6人組バンドのPenthouse。彼らの魅力は大島真帆(Vo)、浪岡真太郎(Vo/Gt)によるツインボーカルだけでなく、角野隼斗(Pf)、矢野慎太郎(Gt)、大原拓真(Ba)、平井辰典(Dr)を含めた一人ひとりの高い演奏スキル。まさしくオープニング「In the Penthouse」では、2分という短時間にそのスキルが凝集されており、誰に焦点を当てても主役になるパフォーマンスだ。今回はゲストとして、ソロステージも控えていた馬場智章(Sax)が登場。サックスソロから始まる「蜘蛛ノ糸」が披露され、絶妙なバランスで構成されるサウンドが耳心地いい。角野とのデュオでコラボするコーナーでは、浪岡がホセ・ジェイムズ「Trouble」、大島がサラ・ヴォーン「I Got Rhythm」を届ける。「こういう青空で同じ音楽を共有できていることをうれしく思います!」と大島が声を大にすると、「恋に落ちたら」から一気にラストスパートを駆け抜けた。退場の仕方も、一人ずつ演奏をストップして抜けていくという洒落たスタイルで、その演出力の高さにも意表を突かれたアクトだった。

 続いて、映画『BLUE GIANT』での演奏も大きな話題を呼んでいるサックス奏者の馬場智章が、佐瀬悠輔(Tp)、デイビッド・ブライアント(Pf/key)、マーティ・ホロベック(Ba)、松下マサナオ(Dr) 、ermhoi(Vo)を迎えたバンド編成でオンステージ。1曲目の「Voyage」から、柔らかくもダイナミックなサックスの音色を響かせ、一気に会場全体を引き込んでいく。秀抜なソロプレイはもちろん、互いへの敬意を表しながら、それぞれの本領が発揮されるアンサンブルを繰り広げ、観客たちは聴き入ったり身体を揺らしたりと、思うがままに音を楽しんでいた。さらには、この日限りの特別バージョンでermhoi「Pine Tree」を披露。広々とした会場が静かなる興奮の坩堝と化した、魂のステージだった。

 ビートメイクを担うNK-OKとマルチ奏者のMr DM、二人が2013年に北ロンドンで結成したBlue Lab Beatsが、今回も日本国内のミュージシャンをフィーチャーするスペシャル編成で登場。演奏には西口明宏(Sax)や黒田卓也(Tp)といった名手たちを迎え、モダンなジャジーサウンドをより華やかに演出して届ける。「LABELS」や「MONTARA」では鈴木真海子(chelmico)が日本語のヴァースを、「ON AND ON」ではARIWA(ASOUND)が伸びやかなボーカルを乗せ、さらに「DAT IT」ではPenthouseとしても登場した角野隼斗がサプライズで呼び込まれるなど、フェスティバルならではの特別感に満ちあふれたムードが終始流れていた。パフォーマンスを終え、演者たちは横並びで客席に向かって挨拶。Blue Lab Beatsの二人も幸せそうな表情を浮かべ、深々とお辞儀をして感謝の気持ちを伝えていた。

 夕方の<GREEN STAGE>に登場したのは、“オルタナティブファンクバンド”を標榜するBREIMEN。フロントマンの高木祥太を筆頭に、メンバーそれぞれの高い演奏技術と抜群のセンスで各方面から熱い視線を集める彼らの1曲目は、軽快なカッティングから始まった「ドキュメンタリ」。思わず身体を揺らさずにはいられないファンキーなサウンドで、会場は一気にハイテンションに。続く「あんたがたどこさ」では、曲中でメンバーを紹介しながら、盛大なセッションを繰り広げ、そのまま「D・T・F」のメロウでグルーヴィーなサウンドで会場を躍らせた。今回はピンチヒッターとしての出演だったが、ラブシュプに相応しく、音楽愛に満ちた堂々たるステージングでバンドの真骨頂を見せつけた。

 SOIL&”PIMP”SESSIONSがホストバンドを務める企画、二日目はSKY-HI & BMSG POSSEがフィーチャーされた。まずはSOILによる「Meiji-Jingumae ‘Harajuku’」で観客を引き込み、楽曲終盤にSKY-HI率いるBMSG POSSEが呼び込まれて登場。SKY-HI「何様 feat. たなか」のジャズアレンジからコラボをスタートさせた。たなかのパートはREIKOが担当し、序盤から力強いボーカルを見せつけたあと、デブラ・ロウズ「Very Special」をMANATOとともにカバー。柔らかい歌声を聴かせたAile The Shotaの「DEEP」では、SOTAがソロダンスでも魅了するなど、SOILのグルーヴに合わせて各々がアピールしていく。野田洋次郎との「ユメマカセ」や三浦大知との「comrade」といった、SOILによるボーカル楽曲をBMSGのスタイルで次々と披露していくなか、2022年のラブシュプでお披露目された「シティオブキメラ feat. SKY-HI」もしっかりパフォーマンス。「今日は誰が一番楽しめるかの勝負をしにきた」と意気込むSKY-HIの言葉通り、ガチガチに動きや立ち位置が決められたステージではなく、ときにはワインを乾杯したりと、観客を巻き込みつつ自由気ままに音楽を楽しむ姿もとても象徴的だった。

 現在、全国ツアーを開催中のKroi。最低気温12度と予報された二日目だったが、「楽しもうぜ!」と内田怜央(Vo/Gt)が熱く煽れば、Kroi特有のサイケデリックなモーションを含みつつ、最高に“ノれる”楽曲「Drippin’ Deser」からスタート、観客の体温も瞬く間に上昇させる。内田がコンガを叩き、関将典(Ba)の高速スラップや長谷部悠生(Gt)の歪んだギターリフが炸裂する「Juden」へ。MCでは「嬉しい気持ちMAXでございます!」と感情をあふれさせつつ、艶やかな歌声と千葉大樹(Key)のキーボードを聴かせる「風来」「Never Ending Story」を続ける。静と動の二面性を交互に見せつけたところで、ラストは「Monster Play」。いよいよフェスティバルのクライマックスが近づく。

 二日間のラブシュプを締めくくったのは、テラス・マーティン、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントンによるプロジェクト、DINNER PARTY。このユニットとしては今回が初来日ということで注目を集めていたが、そもそもこの3人のプロジェクトが話題にならないはずもなく、日曜日の18時半にもかかわらず多くの観客が<THEATRE STAGE>に集まった。ジャヒ・サンダンスのDJプレイから幕を開けたステージでは、すでにほぼ満員の客席が総立ち状態。この日、ボーカルとして参加したアリン・レイが歌う「Breathe」では、キーボードに徹していたテラスもサックスに加わり、カマシとのツインサックスを響かせた。グラスパーの超絶技巧も飛び出したりと、それぞれ圧巻のソロプレイもたっぷりと堪能させながら、極上のグルーヴを奏で続けたステージ。最後は「Freeze Tag」の祝祭サウンドでフィニッシュ。この音の余韻にいつまでも浸り続けたい、そんな感慨を心の内に宿しながら帰路についたオーディエンスも多かったのではないだろうか。

◎公演情報
【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023】
2023年5月12日(土)、13日(日) 埼玉・秩父ミューズ・パーク

【テラス・マーティン】
2023年9月11日(月) 神奈川・ビルボードライブ横浜
2023年9月12日(火) 大阪・ビルボードライブ大阪
2023年9月14日(木)、15(金) 東京・ビルボードライブ東京


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