Album Review:私立恵比寿中学『金八』 メンバーの成長と楽曲のクオリティがガッチリ噛み合った“2015年のJ-POPのスタンダード”

2015年2月4日 / 19:00

 スターダスト所属のアイドル・グループ、エビ中こと私立恵比寿中学のメジャー2ndアルバム『金八』は、近年活況を呈するアイドル・シーンの中でも抜きん出たクオリティを誇る一枚となった。

 私立恵比寿中学の『金八』。改めて書くとやはり違和感の沸く字面だが、このグループの武器となるトリック・スター性を象徴してもいる。アルバムは全体で69分とかなり長く、各曲に詰められた情報量が非常に多いため、一聴ではとても消化できない。パンク、ロック、ハウス、EDM、ヒップホップ、チェンバー・ポップ、サンバ、フォークなど、“様々”と形容するのも憚られるほど多様なジャンルの楽曲が並ぶうえに、一曲の中でも頻繁に展開が変わる。さらにメンバー8人のヴォーカルが入れ替わり立ち代わり進むので、はじめのうちは展開の把握さえ容易ではない。

 加えて、アルバムの冒頭がしりあがり寿作のコント、さらにヒャダインこと前山田健一が手がけた2曲目のタイトル曲は某歌番組への出演願いを歌詞で強く訴えるもの。と音楽以外の“仕掛け”にも抜かりが無い。ロック色の強かった「バタフライエフェクト 」、「ハイタテキ!」という最近2枚のシングルの印象も踏まえれば、一見へ敷居は低く、しかし、中は奥深く複雑に設計された迷路という感じだろうか。

 ここまでなら彼女たちをJ-POP界のトリック・スター筆頭へ位置づける作品と結論することも出来る。だが、聴きこむうちに明確になるのは、これだけの情報量を孕みながらも全体としては破綻がなく、むしろ、アルバム全体を一つの流れとして楽しませる、しっかりとした起伏とフローを設ける手腕とセンスの方だ。(メンバーもインタビューで応えているように、アルバムは12曲目の「幸せの貼り紙はいつも背中に」までをライブ本編、以降をアンコールと見立てるとメリハリを感じやすい構成になっている。)

 ジャンルの混在する楽曲や数々の仕掛けも、単にシーンの中で目立つこと、一種の逆張りを狙ったものではないことも分かる。端的に言って、そのようなモチベーションではこれほどクオリティの高い楽曲の数々を並べることはできないだろう。本作の楽曲の多くには、鈴木慶一と曽我部恵一による“WK1”、レキシの池田貴史、クリープハイプの尾崎世界観をはじめ実力派の作家/ミュージシャンが作編曲に名を連ねているが、それらの楽曲が一定の作家性を感じさせつつ、全体の流れの中にしっかりと収まり、アルバム全体の物語を後押ししているのも印象的だ。

 もちろんアイドル・グループのアルバムである以上、主役はメンバー8人のボーカル。その点からも本作は2年前のアルバム『中人』から格段の進歩が見える。2014年にはメンバー・チェンジも経験した彼女たちだが、元からのメンバーは軒並み表現力が成長。新メンバーの2人もしっかりと個性を発揮している。特に新メンバー1人の中山莉子は、グループ不動のエースである廣田あいかや、同じく中心格の星名美怜に劣らない引き出しの多さを見せていて、加入1年足らずでグループ全体の底上げに大きく貢献している印象さえあり驚かされる。

 楽曲のクオリティとメンバーの成長という両輪ががっちりと合い、エビ中の作品としては間違いなく最高傑作。“ゴールデン・エイト”という看板に偽りはない。より俯瞰して、たとえばアイドル作品全体の枠組みで見ても傑作の部類に入るだろう。だが、おそらく最も重要なのは、これが2015年のJ-POPのスタンダードなのだという認識がより広く共有されることだ。たぶん、これがラジカルでもサブカルでもない段階に現在のポップスの世界は進みつつある。そのスピード感への橋渡しとしても重要な作品と言えるかも知れない。

Text:佐藤優太


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