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ニール・ヤングの人気を決定付けた名曲揃いの傑作『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』。名盤という言葉に似つかわしくないその魅力とは?

わずか2年の活動の間に3枚のアルバムを残したバッファロー・スプリングフィールドを経て、1969年にソロデビューしてから45年。68歳になった現在も無垢な心を追い求めロックシーンの第一線で活躍しているニール・ヤング。今回、取り上げる『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』は当時25歳の彼がシンガーソングライターとしてその才能を一気に開花させた代表作。ソロアーティストとして人気を決定付けたという意味でも、彼の活動の原点となったと言える作品だ。

その昔、観光地で使われていたという1947年製の簡易録音ブースでレコーディングした超ローファイな音質にとらわれすぎると、作品の本質を聴き逃してしまうかもしれないが、ニール・ヤングが若い頃に聴いていたというフォークソングの数々を弾き語りでカバーした目下の最新アルバム『ア・レター・ホーム』は、彼の赤心の歌心を堪能できるという意味で傑作と言える作品だ。御年68歳になった今もこんな青臭い歌が歌えるなんて、これほど素敵なことはない。
もっとも、2012年にリリースした『アメリカーナ』とCD2枚組の『サイケデリック・ピル』はともに最強のバックバンド、クレイジー・ホースと組んで、爆音を轟かせたロックアルバムだったから、「今度は弾き語りですか?!」と意表を突かれたが、グランジロックのゴッドファーザーと謳われる激烈ロッカーも確かにニール・ヤングだし、鼻にかかったか細い声で、フォーク/カントリーに根ざした歌を歌う繊細なシンガーソングライターもまたニール・ヤングだ。彼はこれまでそのふたつの顔を使い分け、いや、気まぐれに行ったり来たりしながら、我々凡人の理解を超越したところで、実にさまざまな作品を、誰よりも精力的に作り続けてきた。
現在まで、彼がリリースしてきた作品はソロアルバムだけで40枚を超えるが、中でもフォーク、R&B、テクノ、ロカビリー、カントリー、ニューウェイヴと作品をリリースするたびスタイルを変え、周囲を翻弄した80年代はレコード会社から「わざと売れないレコードを作っている」と訴えられたこともあったほどだ。そんなエピソードが物語るように熱心なファンでも首を傾げてしまうような問題作が多いアーティストだが、今回、取り上げる『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』は、シンガーソングライターとしてのニール・ヤングを代表する名盤中の名盤。『ア・レター・ホーム』も含め、賛否が分かれることが多い彼の作品の中で、誰もが認める数少ない(?!)作品の一枚だ。
現代のロックの救世主、ジャック・ホワイトの協力で完成させた『ア・レター・ホーム』をきっかけにニール・ヤングのことを知ったという若いリスナーに、まず薦めるなら、この『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』か、全米ナンバー1ヒットになった「孤独の旅路(Heart Of Gold)」を含む次の『ハーヴェスト』(’72)かどちらかだと思うのだが、作品が持つ緊張感に加え、世界の終末を歌ったようにも思える表題曲が今の時代に相応しいような気がして(ええ、僕はペシミストなので)、今回は『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』を選んでみた。
25歳のニール・ヤングがリリースした3作目のソロアルバムである。CSN&Yのメンバーとして、ツアーしている真っ最中にスケジュールをやりくりしながら、クレイジー・ホースのメンバーやニールをCSN&Yに誘ったバッファロー・スプリングフィールド時代からのライバル、スティーヴン・スティルスらとレコーディングしたという。アコースティックギター、あるいはピアノの弾き語りに若干の演奏とハーモニーを加えただけのシンプルなアコースティック作品ながら、そのシンプルなサウンドがニール・ヤング節とも言える曲の魅力を際立たせているところが最大の聴きどころだろう。
何かと語られることが多い「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」や「サザン・マン」をはじめ、名曲揃いという評価が今ではすっかり定着している。実際、シンプルな演奏とあいまって、どの曲も胸にじわじわと染みるのだが、名曲だ名曲だと繰り返すよりも、「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」をレディオヘッドのトム・ヨークが、「バーズ」をポールウェラー、エヴリシング・バット・ザ・ガールが、「アイ・ビリーヴ・イン・ユー」をリンダ・ロンシュタットとチープ・トリックのロビン・ザンダーがそれぞれにカバーしていると言えば、このアルバム(の収録曲)が世代を超えて、愛されていることがわかってもらえるのでは。
アコースティック作品だからって、決して穏やかな作品ではないし、もちろん、いわゆる癒し系のアルバムでもない。そこも重要なポイントだ。アコースティックナンバーが並ぶ中、「サザン・マン」と「アイ・キャン・リアリー・ラヴ」で鳴る狂おしいエレクトリックギターのフレーズが聴く者の気持ちを掻き乱し、ちょっとうわずったようなニールの歌声が神経を逆撫でするようなところがあるせいか、前述したように緊張感に満ち、ある意味、名盤に似つかわしくない陰鬱さや寂寥感も感じられ、単純に「いいアルバムだね」のひと言に落ち着かないところがいい。
それはアルバムを作った当時の若者の敗北感や無力感を反映したものなのかもしれないが、聴く者の気持ちをざわつかせる何かがあるからこそ、このアルバムはリリースから44年経った今も風化せず、多くの人を惹き付けるのかもしれない。そういう意味でも、ニール・ヤングというアーティストの本質的な魅力が凝縮された作品なのである。

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