<ライブレポート>堺正章、“生涯最後のバンド”MAGNETSが奏でた青春と情熱──ビルボードライブ・ツアー最終日

2025年10月12日 / 18:00

 歌手、俳優、司会者と幅広く活動し、日本を代表するエンターテイナーである堺正章。彼が”生涯最後のバンドがやりたい”という思いで、2024年にミッキー吉野、シシド・カフカと「堺正章 to MAGNETS」を結成したのは記憶に新しい。今年2月にビルボードライブ東京で開催されたお披露目ライブは、満員御礼の中熱気と感動に包まれて幕を閉じたが、今回は、ハマ・オカモト(Ba)、澤竜次(Gt)を加えた5人編成で、大阪、そして横浜を巡るビルボードライブ・ツアーを開催。会場にはマチャアキ世代のファンから20代前後の若い音楽リスナーまで、驚くほど幅広いオーディエンスが詰めかけている。この顔ぶれの多彩さ自体が、彼らの音楽が持つ懐の深さを物語っていた。

 筆者が観たのはツアー最終公演となるビルボードライブ横浜の2ndステージ。暗転したステージに5人が登場すると、堺が手で合図を送り、いきなりメンバー全員によるアカペラで「Zip-A-Dee-Doo-Dah」を歌い出す。1946年に公開されたディズニー映画『南部の唄』の挿入歌で、1947年のアカデミー歌曲賞を受賞した楽曲として知られる。突然、カフカのスネアが鋭く一発入ると、バンドの演奏が一気に弾け飛んだ。ハマはフライングVのベースを抱え、澤のギターはブギーに炸裂。堺の声はソウルフルで圧倒的な声量を誇り、ミッキーが奏でるピアノとの掛け合いも緊張感がみなぎる。オープニングから観客の熱を一気に奪い去った。

 間髪入れずにアニマルズの「I’m Crying」へ。ミッキーのピアノバッキングが走り出し、ハードなシャッフルビートを満面の笑顔で叩くカフカ。全員で声を重ねるコーラスが厚みを増し、2番では堺がさらに1オクターブ上のメロディに挑む。ギターソロからオルガンソロへとバトンが渡される瞬間、会場の熱気はさらに高まった。

 「マグネッツは1年ちょっと前に結成された新人バンドです。芸歴は60年以上ですけど(笑)、新鮮な気持ちで挑んでいきたいと思います」と、堺がMCで笑いを誘う。肩の力を抜いたユーモアに観客もリラックスし、ビルボードライブならではの親密な空間が作り出されていく。

 「Twist and Shout」のカバーは、アイズレー・ブラザーズバージョンの荒々しさとビートルズバージョンのポップな躍動感をミックスしたような、独自のアンサンブルを展開。続く楽曲はカフカがドラムを叩きながらリードボーカルをとる。オリジナルはベネズエラの作曲家ホセ・マンソ・ペローニが作詞作曲し、彼の甥でアルパ奏者のウーゴ・ブランコ(のちに作曲者としてもクレジット)が世界的にヒットさせた「Moliendo cafe(モリエンド・カフェ)」は、日本では西田佐知子の歌唱による「コーヒールンバ」の名で知られた曲だ。ニューオリンズビートに乗せて、カフカの艶やかな歌声が会場に響き渡る。

 続く「タイガー&ドラゴン」は、堺が愛してやまないクレイジーケンバンドの中でも、特にお気に入りの楽曲。こぶしとビブラートを効かせながら「俺の話を聞け~」と熱唱すると、澤のギターが歌心あふれるソロを奏で、ハマのベースがグルーヴを強烈に引っ張る。途中、「俺の!俺の!俺の!」とメンバー全員で「掛け合い」した部分をオーディエンスとも共有。女性客と男性客に別れ、声量を競わせるなどして一体感を高めていく。最後に全員で「俺の話を聞け~」とシンガロングするや否や、一斉に演奏が再開。笑いと熱狂が交錯するこの空間こそが、堺正章というエンターテイナーの真骨頂だろう。

 バンドの紹介を兼ねた「マグネッツのテーマ」で場を整え、ステージはいよいよ中盤戦へ。ミッキーがハモンドオルガンを弾きながらメインボーカルをとるプロコル・ハルムの「青い影」は、バッハの「G線上のアリア」を彷彿とさせる厳かなナンバーだ。堺は「歌はあんまり上手くないんですけどね」と茶化すが、ミッキーの声には円熟した味わいがあり、フロアは深い感動に包まれる。

 続いて披露されたのは、ミッキーがかつて在籍したザ・ゴールデン・カップスの「銀色のグラス」。澤とハマが互いに火花を散らすような掛け合いを繰り広げ、堺はアカペラでブレイクを決める。そこからゴダイゴの「Monkey Magic」へ。堺が赤い如意棒を振り回しながら、孫悟空よろしく「あちょー!」と叫ぶと、場内は一気に沸騰する。

 70年代、まだ大きなヒットに恵まれていなかったゴダイゴが、堺主演の『西遊記』主題歌にこの曲を書き下ろし、ドラマも楽曲も大ヒットしたあまりにも有名なエピソードは今さらおさらいする必要もないだろう。この日の演奏では堺中心に澤とミッキーがオクターブユニゾンで絡み、カフカとミッキーが中盤を支える。堺は「久しぶりに(如意棒を)回しました。いつもより多く回しました」とおどけながら、「人間から猿になったのは初めて。ダーウィンの進化論ではなく退化論ですね」と会場を笑わせる。

 「まだスパイダーズが出てきてないじゃないですか。1曲くらい歌わないとかまやつ(ひろし)さんに申し訳ない」そう堺が言って歌ったのは、堺が若き日の記憶を抱えながら歌い上げた一曲だった。

 「早いもので、あと1曲となりました」と堺が告げると、会場のあちこちから「えー!」と惜しむ声が。「その声を待っていました。でも本当にいいんですか? 明日までやりますよ(笑)」と茶目っ気を見せながら、「でも残念なことに、曲がないんだ」と落とす。そんな親密なやりとりを経て、本編ラストは「カンサス・シティ」。堺の「ヘイ、ベイビー!」の掛け声に応えて再びシンガロングが巻き起こった。

 アンコールの声に応えて披露されたのは、かまやつの洋楽的センスが炸裂したスパイダース屈指の名曲「ノー・ノー・ボーイ」。ミッキーと堺が寄り添うように歌い、しっとりとしたバラードでフロアを包み込む。長いキャリアの中で、何度も一緒にステージに立ってきた二人の関係性が、そのまま歌声に宿っていた。そしてラストは「バン・バン・バン」。ガレージロック的な荒々しさを残した演奏に、堺が若かりし頃と同じ勢いで声を張る。カフカの激しいドラミングの上で、ハマがバイオリンベースを、澤がギターをドライブさせる。笑顔と歓声に溢れる中、ステージは大団円を迎えた。

 堺正章が「生涯最後のバンド」と語るMAGNETS。その時間は、懐古や総決算ではなく、むしろ瑞々しいエネルギーと遊び心に満ちたものだった。拍手に応えながら「もう思い残すことはありません」と冗談混じりに語った堺の姿は、しかしエンターテイナーとしての矜持と、観客への深い感謝の気持ちを映し出していた。レジェンドと若手ミュージシャンがともに紡いだ唯一無二の夜は、同じく世代を超えたオーディエンスの胸に、いつまでも刻まれ続けるだろう。

Text:黒田隆憲
Photo:SHUN ITABA

◎セットリスト
【堺正章 to MAGNETS World Tour 2025】
2025年9月2日(火)神奈川・ビルボードライブ横浜
1. Zip-A-Dee-Doo-Dah
2. I’m Crying
3. Twist and Shout
4. コーヒールンバ
5. タイガー&ドラゴン
6. マグネッツのテーマ
7. 青い影
8. 銀色のグラス
9. Monkey Magic
10. あの時君は若かった
11. カンサス・シティ
En1. ノー・ノー・ボーイ
En2. バン・バン・バン


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