<ライブレポート>ヒグチアイ「元気じゃなくてもまた会いましょう」、ピアノ弾き語りで届けた“あなた”への歌

2025年5月23日 / 18:00

 ヒグチアイのツアー【HIGUCHIAI ALL TIME BEST SOLO TOUR “元気じゃなくてもまた会いましょう”】の国内では最終公演となる追加公演が、5月9日に神奈川・横浜市開港記念会館 講堂にて開催された。

 2014年10月のインディーズ・デビューから10周年を迎えたヒグチアイは、2024年12月14日に東京国際フォーラム ホールCで3ピースバンドと6人のコーラス隊を従えた、自身を含めて10人編成によるスペシャル・ライブ【HIGUCHIAI ALL TIME BEST LIVE “元気じゃなくてもまた会いましょう”】を開催。2025年1月からは同タイトルの全国ツアー【HIGUCHIAI ALL TIME BEST BAND / SOLO TOUR “元気じゃなくてもまた会いましょう”】をスタートさせ、ソロツアーは高松・オリーブホールを皮切りに、演劇界の聖地である東京・北沢タウンホールや地元の長野・長野市芸術館 アクトスペースを含む全国10会場でグランドピアノによる弾き語りライブが行われた。

 国内ツアーファイナルの地となったのは、神奈川県庁のキング、横浜税関のクイーンと並ぶ横浜港のシンボル“横濱三塔”のひとつ、“ジャック”と親しまれている時計塔がそびえる赤レンガ造りの横浜市開港記念会館。国の重要文化財に指定されている趣のある講堂のステージには、1台のグランドピアノと11月生まれであるヒグチアイの誕生花である青と紫の菊の花が飾られていた。

 開演時間となり、場内がゆっくりと暗転すると、ヒグチが入場。開演直前のBGMとして流れたクラシックのピアノ曲(フジコ・ヘミング演奏のリスト「ハンガリー狂詩曲 第2番」)で背筋を伸ばし、厳かな雰囲気となっている観客に大きな拍手で迎えられた彼女は、首を捻りながら「自分で選んだ曲なんだけど、想定と違うんだよな」といきなり話し始め、「もうちょっと楽しげな感じで始めたいのに……」と不満を吐露。「すみません。追加公演の最終日にこういうことを言うのがヒグチアイのライブです。よろしくお願いします!」と挨拶し、インディーズの1stアルバム『三十万人』に収録されていた「かぞえうた」で弾むようにピアノを弾き始めると、場内から自然とクラップが鳴り始め、「1」「2」というコールに加えて、ラララの大合唱も発生。「途中でリズムが変わるけど、自分を信じて手拍子して」と呼びかけた「不幸ちゃん」でも観客のクラップは途切れることなく、Huluオリジナルドラマ『おとなになるまで』の主題歌として書き下ろされた最新曲「恋に恋せよ」は、逆に観客による裏打ちのリズムが先行する形で歌唱して明るく楽しい一体感を生み出し、冒頭からステージとフロアの距離をグッと縮めてみせた。

 思い出がもたらす甘さと淋しさを感じるバラード「かぜ薬」の後のMCでは、ここ2か月くらい悩んでいた奥歯の痛みが、虫歯ではなく知覚過敏だったことが分かったことを明かして笑いを誘い、スペシャル・ライブからの半年間を振り返り、「すごくいい時もあれば、うまくいかないこともあって。今日最高だなと思う日もあれば、自分なんてダメな人間だなと思う日もあって。でも、真っ直ぐ上には育たない植物のように、私も上から見たら同じところにいるように見えて、横から見たら螺旋階段のように登ってる最中なのかもしれない。悩んだり、うまくいかなくても、上り続けてるのかもなと思いながらここまできました」と率直な心境を吐露。「自分の昔の曲に励まされながら」と語り、インディーズ2ndアルバム『全員優勝』から「まっすぐ」を演奏。〈君の道は/分かれたり 下ったり それでも/ゴー ストレート 間違いじゃない〉というフレーズを確かな説得力を湛えて朗々と歌い上げた。さらに、「悲しい歌がある理由」では〈あなたはずっと強くなった〉〈もう許していいんだよ〉と心を込めて優しく語りかけるように歌い、「わたしのしあわせ」では〈わたしのしあわせ〉は、誰にも計れないし、奪えないし、誰のものでもないと凛とした強さを発揮。彼女のバラードは観客一人ひとりの“私”が“私”に戻れるような響きがあった。

 「もっと大きな夢を口にしろと言われていた過去もあったけど、そうではなく、目の前に今あるものをすごく大事にしてこれたような気がする。どうしてそうなれたのかはわからないけど……」という言葉からメジャーデビュー・アルバム『百六十度』収録の「備忘録」へ。いじめを受けていた中2から“うた”に辿り着いた10代やシンガー・ソングライターとしての活動を始めた20代を振り返りながら、好きになれない自分を好きになってくれた人たちに〈どうか元気でいてほしい〉と願いを込めて熱唱。古典クラシックのトリルのようなフレーズを最初から最後まで弾き切った演奏後、手を止めてふっと顔を上げたときの表情が忘れられない。「わたしのしあわせ」「備忘録」は、観客の脳裏に自身の家族を想起させる曲だが、彼女は誰の顔が浮かんでいたのだろうか。

 ここで雰囲気は一変。インディーズ1stアルバムの収録曲を続けたのだが、激しく重い「黒い影」には心の闇に引き摺り込まれるような力を感じ、未来のない恋愛模様を綴った「ココロジェリーフィッシュ」では逆に全ての音が消えてしまうような瞬間があった。この流れのせいだろうか。「『ラジオ体操』(『猛暑ですe.p』収録曲)が好きな友達に聴いてほしい曲」と語った日替わり曲の「ラブソング」はじわじわと心を内側から温めてくれるような優しさと切なさがあり、涙を誘われた。悲しい曲ではないのだが、友達や家族、もう会えない恋人に対して〈思い出すことは想うことだよ〉と語る、あなたを想うわたしの歌。“あなた”も“わたし”も〈決してひとりじゃない〉というフレーズに、楽曲の内容と反するかもしれないが救われた人は多いはずだ。

 「やめるなら今」「前線」「大航海」「わたしはわたしのためのわたしでありたい」と、メジャー2ndアルバムから5thアルバムに至る4枚のアルバムのオープニング・ナンバーを繋いだメドレーをダイナミックにパワフルに演奏し、〈続けよう〉と高々と歌い上げると、力強いラストノートとともに立ち上がって笑顔をみせると、場内からはこの日一番と言っていい大きな拍手が沸き起こった。そして、“元気じゃなくてもまた会いましょう”というツアータイトルについて、「ずっと言い続けてきてるけど、元気じゃなくても来てもいい場所、行ける場所があればいいなと思って。いつもそういう言葉を発しながらライブをしてるつもりです」と解説。「でも、次の曲は元気じゃないとできないかも」と笑いを誘い、最新アルバム『未成線上』収録曲の「祈り」へ。〈心はいつも君のもの〉というフレーズで観客に向けて指ハートを送ると、盛大なクラップに加えて、曲の終盤ではシンガロングが起こり、彼女が観客のコーラスに乗せて〈離さないで〉〈見失わないで〉〈夢の続きを 共に描こう〉というフレーズを重ね、どんなときでも〈きみのそばにいたい〉と約束した。

 「みんなの声がめっちゃ聞こえました。10年前はこういう曲を作るとは思ってなかったな。変わっていくことを肯定していく人生でありたいし、変わらないものを愛せる人でありたい」という言葉から、本編のラストナンバーは4枚目のアルバム『最悪最愛』の収録曲「劇場」。〈ステージの上 一本のスポットライトがさす〉という歌詞を体現し、無音でひとりではなく、満員の劇場で<さみしいけど孤独じゃないの/愛してくれて ありがとう〉というフレーズを届けた彼女は、「元気じゃなくてもまた会いましょう」と映画の最後にタイトルが出るような挨拶を口にして、走ってステージを後にした。

 アンコールでは「やんなきゃなっていう曲をやりますね」という言葉を添えて、TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part 2のエンディング・テーマとして世界中のランキングを席巻した「悪魔の子」をプレイ。アニメのタイアップ曲だが、〈帰る場所が なければ/きっとどこへも行けない〉というフレーズは、ヒグチアイのライブを指しているようにも聞こえるし、正しさとは自分を信じることだという思いは誰もが自身を重ねることができる。また、大きな手拍子と笑顔で楽曲を共有した「縁」も、TVドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』の主題歌としてヒットした楽曲。親と子の関係性を想起させるのはもちろんだが、〈あなたがいたから/わたしがいるのよ〉と観客一人ひとりを見渡しながら歌うと、ライブという場所ではオーディエンスに向けた言葉のようにも感じることができた。

 最後に彼女は「楽しみに“自分”の人生を生きてください。その中に私のライブやイベントが楽しみなものになったらうれしいです」というメッセージを送った。自分が自分じゃなくなってしまったとき、ヒグチアイのライブは私を私に戻してくれる場所になる。なお、彼女は本ツアーの追加公演として、海外での単独ツアーとしては初のバンド編成となる深セン、上海、台北でのライブを開催する。また、夏にはヒグチアイのピアノとヴォーカルに6名のコーラス隊を迎えた【HIGUCHIAI Billboard Live Tour 2025 “合唱”】を行うことも決定している。

Taxt:永堀アツオ
Photo:垂水佳菜

◎公演情報
【HIGUCHIAI ALL TIME BEST SOLO TOUR “元気じゃなくてもまた会いましょう” 追加公演】
2025年5月9日(金)
神奈川・横浜市開港記念会館 講堂
<セットリスト>
01. かぞえうた
02. 不幸ちゃん
03. 恋に恋せよ
04. かぜ薬
05. まっすぐ
06. 悲しい歌がある理由
07. わたしのしあわせ
08. 備忘録
09. 街頭演説
10. ココロジェリーフィッシュ
11. ラブソング
12. メドレー
13. 祈り
14. 劇場
En
15. 悪魔の子
16. 縁

◎公演情報
【HIGUCHIAI Billboard Live Tour 2025 “合唱”】
2025年7月12日(土)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場14:00 開演15:00
2ndステージ 開場17:00 開演18:00
2025年8月3日(日)
神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場14:00 開演15:00
2ndステージ 開場17:00 開演18:00

<メンバー >
ヒグチアイ(Vo/Pf)
倉品翔 from GOOD BYE APRIL(Cho)
Ema(Cho)
タテイシユウマ(Cho)
Haruna(Cho)
パーマ大佐(Cho)
松田ナオト(Cho)

https://www.billboard-live.com/


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