<ライブレポート>シンディ・ローパー、フェアウェル・ツアーNY公演でサム・スミスとデュエット&MSGから“悪いエネルギー”を追い払う

2024年11月1日 / 17:00

 シンディ・ローパーが、現地時間10月30日に【ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン・フェアウェル・ツアー】の一環として米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で公演を行った。その3日前、この象徴的な会場でドナルド・トランプ前米大統領が人種を攻撃するような報復的な集会を開いていたことから、音楽界のアイコンであり、LGBTQと女性の権利の擁護者としても知られるシンディは、会場の空気を浄化しようとした。

 宵の口に彼女は、「そろそろ(女性たちが)前に出て、自分たちのために投票すべき時が来ています。私たちは平等を必要としていますし、私はもう後戻りはしないってことは確実です」と述べ、日曜の夜のMAGA集会をほのめかした。「ここにあったたくさんの憎しみを払拭するために、今夜はたくさんの愛が必要です。これを言うつもりはありませんでしたが、言っちゃいましたね」と、彼女は謝ることもなく肩をすくめて付け加えた。

 シンディは自分の発言に責任を持って行動している。彼女のツアー・グッズ売り場で販売されたウィッグの収益を、Tides FoundationのGirls Just Want to Have Fundamental Rights Fund(女性が基本的人権を求める基金)に寄付している。この基金は、「安全で合法的な中絶、女性のヘルスケア、出産前ケア、出産後ケア、がん検診など、女性の健康」のための資金を集めている。

 米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100″で首位獲得し、【エミー賞】、【グラミー賞】、【トニー賞】を受賞してきた音楽界のアイコンであるシンディは、政治的にも、創造的にも、音楽的にも率直な発言をためらったことは一度もなく、世界はそれによってより良くなってきた。そのため、シンディのファイナル・ツアーは複雑な思いにさせるものだ。現に彼女が最後の大規模なツアーについて語った際、観客の一人が「ノー!」と強く叫んだ。しかし、音楽的に絶好調の状態で引退したいという彼女の気持ちを責めることはできない。

 71歳となった今でも、シンディは独特のパワフルな歌声を少しも失っていない。「She Bop」では力強く歌い上げ、「I Drove All Night」では時速100マイルの勢いで熱唱し、故プリンスの「When You Were Mine」では繊細でありながら威圧感すら感じさせる美声で見事にカバーした。これらの80年代の名曲については、彼女のバンドが賢明にもオリジナルのアレンジに忠実に演奏し、現代的な視点で再解釈しようとするのではなく、楽曲にニュー・ウェーブなパンチを効かせた。(バンド・リーダーは、シンディがブレイクした1983年のデビュー・アルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』でも演奏した音楽監督のウィリアム・ウィットマンだ。)これらの楽曲を聴くと、浮遊するシンセサイザー、キレのあるパーカッション、軽快なギターが欲しくなる。もちろん、ステージ上でシンディ自身が演奏した「She Bop」の素晴らしいリコーダー・ソロもだ。

 バンドがこれほどまでにタイトで息が合っているおかげで、シンディは声を自由に発揮でき、身体も自由に動かすことができる。それは、彼女が「Money Changes Everything」のサビで、地面を転げ回りながらさまざまなリフを繰り出した曲の終わりの方ではっきりと示されていた。

 シンディのセットリストはヒット曲満載だが、コンサートの楽しみの半分は彼女の飾り気のないブルックリン訛りの即興のトークだ。「I Drove All Night」の後に「私は今でも縦列駐車が下手くそ」と冗談を言い、有名俳優が『グーニーズ』の大ファンだと話したエピソードを披露しながら、観客に「私は絶対に有名人の名前を出さないよ」と断言しつつ、間を置いてから“アンドリュー・ガーフィールド”と明かし、弾むような「The Goonies ‘R’ Good Enough」を歌った。そして、彼女が有名になる前に在籍していたバンド、ブルー・エンジェルで歌っていた、故ジーン・ピットニーの楽曲のカバー「I’m Gonna Be Strong」を紹介する際に、彼女は正しいキー変更を理解するまで苦労したことを、「彼のように歌おうとしたんだけど、エセル・マーマンみたいになってしまって」と冗談めかして語った。目を丸くしたり、顔をゆがめたり、口角から決めゼリフを繰り出したりするシンディは、観客の注目を自然に集めることができる生まれながらのユーモアのセンスの持ち主であることを示している。(彼女は1988年のアドベンチャー・コメディ映画『バイブス秘宝の謎』でジェフ・ゴールドブラムや故ピーター・フォークと共演しており、興行的には失敗だったが、彼女の演技は本当に素晴らしいので、もっと多くの映画に出演してほしかったと思わせる。)

 多くの面白い人々と同様に、シンディもユーモアを駆使して感情に強烈なパンチを繰り出すことができる。「男性が妊娠できるとしたらって想像できます?」と彼女は「Sally’s Pigeons」を歌う前に問いかけた。この楽曲は、死に至る裏通りでの中絶という恐ろしい実話に基づく物語だ。「グロリア・スタイネムは何て言ってましたっけ?それは聖餐となるでしょう」と彼女は述べた。 「True Colors」では、シンディがアリーナ中央の小さなステージで、カラフルなスカーフが宙を舞う中パフォーマンスを行い、観客が涙ぐんでいた。特に歌詞の最後の“Don’t be afraid”(怖がらないで)と歌った後の長めの間は感動的だった。

 そしてもちろん、「Time After Time」では、感極まって目頭を押さえる人が続出。この全米No.1ヒット曲を歌うためにサプライズ・ゲストのサム・スミスが登場した際には、口を大きく開けて驚いている人が散見された。2人は甘美な歌声を響かせ、シンディは抑え気味のエモーショナルな歌声を披露し、インストゥルメンタルのブレイクでとスロー・ダンスを一緒に踊った。サムはその後、ステージの脇でコンサートの残りの部分を完全に魅了された様子で見ていた。

 ライブの最後は、当然ながら「Girls Just Want to Have Fun」で締めくくられ、シンディは草間彌生の赤い水玉模様の衣装を身にまとってこの曲を披露した。「Boys [who] take a beautiful girl and hide her away from the rest of the world」(美しい女性を連れ去り、世間から隠してしまうような男たち)という歌詞を歌い、「I want to be the one to walk in the sun」(私は太陽の下を歩きたい)と叫んだ後、彼女は米最高裁による“ロー対ウェイド裁判”の判決破棄後の時代にふさわしい歌詞のアップデートを加えた。「Everyone wants to have fundamental rights」(誰もが基本的な権利を求めている)と。ファンに最後の大合唱を促す前に、彼女は観客に全力を尽くすよう呼びかけた。「大声で言って、この会場の悪いエネルギーをすべて追い払って」と彼女は笑顔で叫んだ。水曜日に彼女がMSGに持ち込んだ活力、パワー、喜びから判断すると、マンハッタンの有名なアリーナは、彼女のパフォーマンスによって音楽的に聖なるハーブが燃やされ、燻蒸され、再び神聖化されたようなものだったと言えるだろう。


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