<ライブレポート>屈指の歌唱力に磨きがかかる涼風真世、「歌が大好きで、皆さまに歌で恩返しがしたい」と全身全霊のパフォーマンス

2024年4月30日 / 20:00

 芸歴43周年を迎えた涼風真世が3年連続となるビルボードライブ公演を開催。2024年4月19日の【涼風真世 The Fairy ~LOVE&HOPE~】と題したビルボードライブ横浜公演では、涼風とファンが“愛”を届け合い、新たな“希望”の扉を開くような温かい空間となった。昭和歌謡から舞台【エリザベート】【ベルサイユのばら】のナンバー、想いのこもったオリジナル曲まで、次々と歌い上げたステージをレポートする。

 ミュージカル【モーツァルト!】など数々の作品で群を抜く存在感を発揮。さらに宝塚歌劇団月組トップスターの時代より進化した低音から、伸びやかなファルセットまで、3オクターブの音域すべてを艶やかに放つことのできる涼風真世。アニメ『るろうに剣心』の緋村剣心の声優としても、多くの人の心に“声”が刻み付けられている。一度聞いたら忘れられないその変幻自在な七色の声を、ビルボードライブ横浜という濃密な空間で味わえる日が今年もやってきた。

 1曲目は涼風自ら作詞をした「A-YU-MI(歩み)」。客席通路をゆっくり通ってステージに上がった涼風が、これまでの道のりを振り返るスローなメロディの曲を、優しい声色で歌う。ピアノを奏でるのはこの曲を作曲した音楽監督の三枝伸太郎。“歌手・涼風真世”を支える三枝に感謝の言葉を伝え、春の陽気のような柔らかい空気が会場を包み込む。

 「本日はようこそ。わたくし昔、妖精。今――」と述べると、観客が大きな声で揃って「妖怪!」と、涼風おなじみの自己紹介をコール&レスポンス。涼風にとってコロナ禍以降、初めての声出し解禁となったソロライブでの熱い反応に、「すごい!」と満面の笑みを浮かべる。ライブ配信が行われた夜の2ndステージでは、「みんな見えるかな?」とカメラに手を振る場面も。繊細な白いレースのジャケットに白いパンツというスタイルの涼風は、今も変わらず“フェアリー”の透明感が光る。

 3月の主演舞台【Musical『HOPE』 THE UNREAD BOOK AND LIFE】を体調不良で降板した涼風は「私は元気です! ご心配をおかけしました」と伝え、客席から温かい拍手が。その言葉通り、この後もパワフルかつ情感豊かに全19曲を歌い上げ、体力のブレなど感じさせない。

 まず涼風自ら企画した「懐かしいCMソングメドレー」がスタート。ドラマティックな演奏に、しっとりとした低音ヴォイスと心地よいビブラートが溶けあう「いい日旅立ち」。郷愁誘うギターアレンジから始まる「シルエット・ロマンス」では、恋心をなやましく表現し、波のように揺れるリズムにその声が調和する。シンプルに歌声を押し出したアレンジの「異邦人」は、雄大な空と大地が見えるよう。「聖母たちのララバイ」では、ときに瞳を閉じてじっくりと歌い上げ、母性のような包容力を声ににじませる。

 さらに、メランコリックなピアノの一音一音に、詞を丁寧にあてはめていくように歌う安全地帯の「碧い瞳のエリス」。青春の煌めきを感じさせる明るいトーンの「未来予想図Ⅱ」、豊かに広がる低い声で魅了する「ただ…逢いたくて」、繊細なストリングスの響きに呼応するようにキュートに歌い上げる「赤いスイートピー」と続く。背後のスクリーンにはCMの企業名や放送された年、歌手名まで丁寧に映し出され、懐かしく当時を振り返る人も多かったのでは。メドレーとはいえ、1曲1曲かなりのボリューム。そしてこのコーナーの最後を飾ったのが、松崎しげるの「愛のメモリー」。<美しい人生よ かぎりない喜びよ>と、高らかに歌い上げる涼風の、ぐんぐんと昇りつめていくロングトーンが圧巻。すべて歌い終わると大きな歓声と拍手が沸き起こった。

 全9曲を連続で歌い切った涼風。「昭和の歌、平成の歌は大曲が多いですね!」と本音がこぼれ、鳴りやまない拍手に「照れる~」とはにかんだ笑顔。20代の頃、安全地帯の玉置浩二に憧れ、「どうしたらあんな素敵な声になれるんだろう」と夢中でテレビ番組を見ていたことも打ち明けた。昭和・平成を彩る名曲群は、いずれも涼風の類まれな歌唱力とドラマ性にジャストフィット。これだけの声量で9曲歌い切る人は、そうそういないだろうと感じさせる。観客はビルボードライブという空間を埋めるゴージャスなサウンドアレンジと彼女の声に、ただただ聴き惚れていた。

 次は宝塚コーナーへと移り、今年初演から50周年を迎える宝塚歌劇の【ベルサイユのばら】から、「愛の巡礼」を披露。1991年に月組トップお披露目公演【ベルサイユのばら -オスカル編-】に主演し、当時「劇画から抜け出てきたようなオスカル」と大評判になった。オスカルの切ない恋心を歌うこの名曲を、シックな照明のなか内なる熱情をたたえて届ける。続いて名曲「愛あればこそ」。まるでアンドレと結ばれたときの喜びを表すかのような笑顔を浮かべながら歌い、客席後方へと一端消えてゆく。

 そこから同作品の「愛の面影」「我が名はオスカル」のメロディが、ヴァイオリンやドラムなど重層的なアレンジで奏でられ、ミラーボールが回る幻想的なライティングへと変化。いやがうえにも気持ちが高揚したところで、赤いドレスに黒いグローブを身に着けたエレガントな涼風が現れ、「愛あればこそ」の2番の歌詞、愛を知った後の苦悩を切々と歌う。その洒落た流れが粋。

 歌い終わった涼風は、宝塚歌劇に出会う前から“ベルばらブーム”をリアルタイムで経験していたことを告白。「14、15歳の頃に出会った作品に出演し、オスカルを演じることができたのは奇跡的」と振り返り、今年の5月からOGとして、【ベルサイユのばら50 ~半世紀の軌跡~】に出演することを楽しみにしていると報告。「これからも宝塚歌劇を末永く応援よろしくお願いします」と言葉をつむぐ。

 まさに“愛”づくしの歌が続いた後、甘い雰囲気からガラリと転じる「ミュージカルコーナー」へ。「退団後も奇跡的な出会いがありました」と、2008年・2009年にエリザベート役、2016年からはゾフィー皇太后役で出演しているミュージカル【エリザベート】のナンバーをピックアップ。娼館の女主人が歌う「マダム・ヴォルフのコレクション」をエネルギッシュに熱唱し、観客にも積極的にアプローチ。アップテンポに曲調が変化すると、自然に手拍子が沸き起こった。

 続けて黄泉の帝王・トートの「最後のダンス」。狙った獲物は逃さない、というような鋭い目線と、シャープかつ妖しい色気をまとった低音を存分に響かせて歌い上げる。音のパワーが増幅するサウンドの迫力に負けない声圧。最後のシャウトも驚異的で、歌い終わると「ヒュー! ヒュー!」と観客の興奮は冷めやらず、フロアのヴォルテージは最高潮に。

 宝塚在団時、トートを演じてはいないものの、【ロスト・エンジェル】という主演作で同作の原曲に触れたことがある涼風。「宝塚を退団してから31年。男役は気持ちいいなってあらためて思います」と、大ナンバーを自身も満喫した様子だった。さらに3年目のビルボードライブ横浜で、高揚感を一層感じていることを伝えた涼風は、「(この会場でのライブが)4年目、5年目と続くように、“歌手・涼風真世”は精進してまいります」と宣言した。

 そしてアーティストとしての表現力が際立つオリジナル曲「地球の涙」の壮大なイントロが流れる。演出家・小池修一郎の作詞、SUGIZOの作曲という贅沢なコラボレーションで生まれた、40周年記念アルバム『Fairy ~A・I~ 愛』の収録曲。幻想的な物語が始まるような涼風の“語り”から引き込まれる。ロックの力強いギターチューンに乗せ、地球の痛みや嘆きを全細胞から訴えるような歌声が、観客の心をとらえて離さない。続いて、宮城県石巻市出身の涼風が近年ライブで欠かさず歌っている「花は咲く」を明るい声で届けると、たとえ辛い事があっても“希望”を捨てないという勇気が湧いてくる。「ぜひ一緒に歌ってください」という呼びかけに自然と応じるオーディエンス。幅広い年齢層の観客が埋める会場に、さらなる一体感が生まれた。

 「楽しい時間はあっという間ですね。ラストソングになってしまいました」と、本編の最後に届けた歌がオリジナル曲「空だけはそこにある」。「空って世界中でつながっていますよね。もしかしたら天国に旅立った大切な人ともつながっているのかもしれません」と、毎朝空の写真を撮ってブログにアップしていることを伝え、透明感ある歌声に想いが溢れ出る。間奏では「ありがとう」と口元が動き、客席に何度も手を振り、次第に感極まったような声色へ。盛大な拍手をバックに笑顔で会場から去っていく涼風に、涙をぬぐいながら見送る観客の姿もあった。

 アンコールで再び現れた涼風は、ストライプ柄のアシンメトリーな細身のドレス姿。この登場に合わせた前奏に、大きな歓声が上がる。月組2番手時代にショー【ザ・ドリーマー】で歌った「愛遥かに」。涼風の卓越したヴォーカルの魅力が存分に引き出される、叙情的な美しさに満ちたカンツォーネの大曲だ。アコースティックギターの静かな旋律に始まり、ドラマティックに展開していく涼風のダイナミックな歌声。会場全体が深淵な涼風のカラーで満たされていく。最後は彼女の「ありがとうございます」の声も聞こえないぐらいの盛り上がり。“愛”を届け、“愛”を受け取った涼風は、「いい歳なんだから泣いちゃダメだって……」と自分に言い聞かせるも、目には光るものが。そして震える声で「歌が大好きで、歌で皆さんに恩返しができないかと思っています。皆さんから私は“愛”と“希望”をいつも頂いております。私一人では何もできません」と、周りのスタッフやファンへの感謝を伝え、「皆さんがいるから、涼風真世がこうして立っていられます。これからもずっと歌っていけるように精進します」と、感無量の様子で語った。

 本当のラストソングとして歌ったのは、憧れの玉置浩二が涼風のために作曲を、松井五郎が作詞をした「眠りの果て」。大切にしているこの曲を、胸に手をあてながらしっとりと歌う。カーテンコールに応えて再び登場した涼風が、「これから何歳まで思い切り歌を歌えるか、チャレンジしていこうと思うので……ついてきてくれ!!」と、茶目っ気ある表情で告げると、この日一番の歓声と拍手。初舞台から43年、歌を心から愛し、努力を続けてきた涼風真世の稀有な才能とパワーを、心底実感したライブだった。

Text by 小野寺亜紀
Photo by 小林邦寿

◎公演情報 【涼風真世
The Fairy ~LOVE&HOPE~】 2024年4月19日 神奈川・Billboard Live YOKOHAMA


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