<ライブレポート>Ave Mujicaが鳴らす音楽による世界の“破壊”と“創造”【Ave Mujica 1st LIVE「Perdere Omnia」】

2024年2月13日 / 19:00

 Ave Mujicaが1月27日、神奈川・横須賀芸術劇場にて【Ave Mujica 1st LIVE「Perdere Omnia」】を開催した。

 次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」より、2023年2月に誕生したばかりのリアルバンド、Ave Mujica。同年6月に東京・中野サンプラザホールにて【Ave Mujica 0th LIVE 「Primo die in scaena」】を開催した後、9月にはミニアルバム『Alea jacta est』をリリース。同時期には、TVアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』最終話にキャラクターが初登場し、鮮烈な印象を残したが、その全貌はいまだ謎多きところ。

 彼女たちの人物像やバンドとしてのコンテクストが未知数なぶん、今回の“マスカレード”をどのように理解していくべきか、会場全体に漂う手探りな空気感がやけに初々しく、同時にとても印象的だった(最も、“黒ミサ”のように重たく、禍々しさや緊張感を備えた雰囲気の方が、初々しさよりも大きかったのは事実だが……)。

 ライブの全体像は、次の通り。まずは『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』最終話より、Ave Mujicaによる舞台のアニメ映像が投影されると、同シーンを起点に物語の続きを演じるべく、舞台上のメンバーたちが捨てられた人形に扮する。彼女たちが立つのは、月明かりの影にある“ロフトムーン”と呼ばれる場所。月が沈むまでの時間、仮初めの名前と命を宿され、復活を遂げるという設定だ。

 夜明けまでの限られた時間で、Ave Mujicaはなにを残すのか(あるいは残さないのか)。“捨てられた”と書くと言い方は悪いが、境遇としてはかつて、MyGO!!!!!のメンバーと共にバンド活動に勤しんでいた豊川祥子(オブリビオニス/CV:高尾奏音/Key.)の立場とも重なって思えてしまうばかりだが、それすらもまだ想像の域から出せないのが口惜しい。

 また、今回は幕間に挟まれる舞台パートにて、声優ながらも声は発さず、いわゆる“プレスコアリング”の手法を導入。事前収録のセリフを流し、メンバーがそれに合わせて身振り手振りを加えるといったものだ。人形は、言葉も発せず、口も動かせない。このあたりは、近年のメディアミックスらしい表現力が求められたように思えたし、『バンドリ!』におけるライブの価値観をさらにアップデートするような意味合いがあったといえる。

 前談が長くなったが、ライブ本編の振り返りを始めよう。アニメの流れに則り、ライブは「Ave Mujica」から幕開け。2曲目「ふたつの月 ~Deep Into The Forest~」からが、オリジナルの物語となる。ライブ全体を通して感じたところだが、サウンドの荒廃ぶりや、バンド演奏ではなく打ち込みの音楽と間違えそうになるほど重厚な音圧は、これまで『バンドリ!』に登場するどのリアルバンドも持ち合わせてこなかった表現。座っていて、椅子がものすごく揺れる。

 あわせて、メンバー全員で清涼な味わいのコーラスを入れるなど、プロジェクト全体のスタンダードを大切にしながらも、歌詞に並べられるのは恨みつらみ。MyGO!!!!!のライブや物語にも人間臭さがあったが、Ave Mujicaにはそれ以上の執念を見出されてしまった(そんな表現をしているのが、人間ではなく人形という設定も一種のアイロニーか)。

 さて、Ave Mujicaは7弦ギター、5弦ベース、ツーバススタイルのドラムを操るなど、いわゆる“技巧派バンド”としての側面にも期待感が高いとはすでに知られている通りだが、実際に目の当たりにして特に驚かされたのが、ティモリス(CV:岡田夢以/Ba.)による、ボコボコとした質感のスラップ奏法と、オブリビオニスによるオルガン&キーボードの二刀流奏法。3曲目「KINGS」をはじめ、自身の左右をキーボードとオルガンに挟まれての両手弾きは、目に見えて素人技ではなく、かつオルガンの荘厳さがバンドの鳴らすゴシックサウンドの深淵をさらに深くしている。

 と、3曲を歌い終えたところで、1度目の舞台パートに。アモーリス(CV:米澤茜/Dr.)がドラムを離れ、ステージに集合するあたり、このパートにかなり力を入れていることも感じられた。メンバー(=人形たち)から、前述の荒廃した世界観について語られ、かつての持ち主である“お友だち”との理想などはなく、目の前には彼らから捨てられた、ただの空虚な現実しかないと突きつけられる。

 だからこそ、この哀れな現実を破壊し、刹那的な享楽を味わうほかない。ライブタイトルの“Perdere Omnia”が示すところは、ラテン語で“すべてを破壊する”だ。新曲「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」をこの直後に披露したのは、ライブのコンテクストを意識した流れとして、ベストタイミングだったと思える。

 その後、「Choir ‘S’ Choir」では、イントロから間もなく、客席から届く歓声の大きさで、この楽曲の浸透具合を体感させられたが、ドロリス(CV:佐々木李子/Gt.&Vo.)の歌が始まればすぐさま、我々の現実世界を突き放し、忘れさせるかのように、シリアスな世界観が戻ってくる。ほとんど交互浴である。

 約束通り、Ave Mujicaは音楽によって世界の破壊を終える。舞台パートの際、破壊された世界が安らぎを覚えていると涙を流すメンバーもいたが、とにかく歪んでいる。だが、この愛と憎しみの物語は、我々が彼女たちの人物像などを把握できていない以上、今回のライブが始まった時点ですでに想像を超えているものだったわけで、これが彼女たちの世界での正義だったのだろう。

 そこから、メロコア調な「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」、原曲にかなりのアレンジを加えて、スカパンクに仕上げたCreepy Nuts「堕天」のカバーと、やや雰囲気が変わったところで、9曲目「神さま、バカ」ではまたしても崩れ落ちそうな雰囲気が帰ってくる。アウトロでは、ドロリスがステージ前方のお立ち台に座り、まるで小説の読後感を堪能するかのように思い耽る場面も。夜明けまでの残り少ない仮初めの命。きっと、感傷に浸っているのだ。

 それでも憂いはなく、なぜだか清々しさ……そして自由を覚えてしまう。そんなドロリスの意見に、アモーリス、モーティスが順に同調。もしかしたら、頭上に浮かんでいた月すら、自分たちの力で新たに“創造”してしまえば、この世は自分たちが作り上げた新たな世界になるかもしれない。破壊の裏には常に、創造や再生がある。Ave Mujicaが作り上げるのは、新しい世界であり、新しい時代だ。

 この一言を告げるために、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』での初登場シーンはあのように制作され、今回のライブも開催されたのだろうか。セットリストの楽曲もすべて、今日、この日に向けた当て書きのようにも思えたくらい。こうして、我々はAve Mujicaの“共犯者”となったわけである。

 終幕まで、残り2曲。「黒のバースデイ」は、嘆きよりも喜びのニュアンスが多く混じり、「Angles」ではアウトロと共にステージにゆっくりと幕が降りてくる。そこにバンドロゴが映し出されて、【1st LIVE】の物語が完成した。次の展開として、1stシングル『素晴らしき世界 でも どこにもない場所』が4月24日に発売されること。そして、6月に神奈川、7月に愛知にて【Ave Mujica 2nd LIVE】が開催される情報解禁がなされたが、気になったのは、彼女たちが今後、どのような道を歩んでいくのか。

 “Ave Mujicaらしさ”の一要素として“救いがないこと”をこの日のライブで感じたが、今後なにを彼女たちに向けた“救い”とするのか。その救いを掴んだ後、彼女たちの“らしさ”をどのように担保するのか。サウンド的な意味では、なかなか表現幅を持たせるのが難しいゴシックなサウンドで、どこまでアレンジを切り替えられるのか。「バンドリ!」の“キラキラドキドキ”とは対極の作り込まれた世界観に対して、キャラクターたちが持つキュートさをどのように中和させていくのか。そして、ライブごとにまったく異なる内容のマスカレードが繰り広げられるのか。本当にポジティブな意味で、たくさんの疑問が浮かんできた。

 が、破壊と再生が表裏一体なように、それも裏を返せば期待感の表れ。我々の心をとてつもないエネルギーで掻き乱したAve Mujica。次のステージでは間違いなく、“再生”の意味を込めて、また新たな世界を見せてくれるに違いない。

Text by 一条皓太
Photo by ハタサトシ

◎公演情報
【Ave Mujica 1st LIVE「Perdere Omnia」】
2024年1月27日(土)
神奈川・横須賀芸術劇場


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