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MONO NO AWAREが1月19日、東京・恵比寿LIQUIDROOMにて【天下一舞踏会】を開催した。
【天下一舞踏会】は、MONO NO AWAREによる対バン形式の自主企画イベント。2017年12月に東京・渋谷WWWで開催した第1回の同イベントにはゲストにミツメを迎え、以降も東京キネマ倶楽部や渋谷WWW X、大阪・心斎橋BIGCATなど場所を変えながら、踊ってばかりの国やNo Buses、BREIMENなどを迎えてコンスタントに開かれてきた(ZAZEN BOYSをゲストに迎えるはずだった2020年は、コロナのため開催中止となっている)。
タイトルは、いうまでもなく漫画『ドラゴンボール』に登場する架空の格闘大会『天下一武道会』が由来。この日、MONO NO AWAREの玉置周啓がMCで語っていたように、「キックやパンチよりもダンスのほうがずっといい」という信念のもと、一癖も二癖もあるバンドを集めての同イベントは、回を重ねるごとに注目や反響も大きくなっている。
定刻となり満員のオーディエンスが待ち焦がれるなか、今夜最初に登場したのはラッパー /トラックメイカー / DJのKID FRESINO(以下、フレシノ)。この日は三浦淳悟(Ba)、佐藤優介(Key)、斎藤拓郎(Gt)、石若駿(Dr)、小林うてな(Key、スティールパン)、西田修大(Gt)を率いたバンド編成でのステージである。
青白いバックライトを浴びた彼らのシルエットが浮かび上がり、三浦による地響きのようなベースラインが会場に響き渡るとフロアのあちこちから歓声が上がる。そこにエッジの効いた斎藤のギターが加わり、石若のドラム、小林のスティールパンが徐々に重なっていく。2018年にリリースされた3rdアルバム『ài qíng』の冒頭曲「Coincidence」からライブはスタートだ。
レイドバックしたリズムが腰を揺らすヘヴィファンクチューン「come get me」、一転して浮遊感たっぷりの「Arcades」と人気曲を畳みかけ、会場のボルテージをじわじわと上げていくフレシノ。さらに、石若のソロプロジェクトAnswer to Rememberにゲスト参加したカオティックなジャズトラック「RUN」と、スティーヴ・レイシーにインスパイアされたという8ビート曲「CNW」をミックスアップ。この曲のエンディングでは石若が千手観音のような超絶ドラミングを披露し、阿鼻叫喚となったフロアは最初のピークに達した。
西田のサーフギターが炸裂する「lea seydoux」を経て「Winston」は、ザ・プラターズばりのドゥーワップを冒頭につなげて演奏。セクションごとにガラリと景色を変えていく、プログレッシヴかつサイケデリックな展開に圧倒されていると、ハナレグミの名曲「家族の風景」をおもむろに歌い出すフレシノ。そのまま「that place is burning」へと傾れ込み、ステージ右手から登場した玉置が、そのメロディを情感たっぷりに歌い上げる。それを引き継いだフレシノが怒涛の高速ラップを繰り出すと、フロアは大歓声に包まれた。
「【天下一舞踏会】へようこそ! MONO NO AWAREでございます」
フレシノに続き、玉置の力強い挨拶とともに始まったのは、もちろんホストバンドであるMONO NO AWAREのライブ。オープニングを飾ったのは、2017年リリースの1stアルバム『人生、山おり谷おり』から「イワンコッチャナイ」。柳澤豊が繰り出す歌心たっぷりのドラミングの上で、玉置のソリッドなバッキングギターと加藤成順の変幻自在なリードギターが組んず解れつのアンサンブルを展開する。曲の途中、玉置がギターを用いたパントマイムを披露したり、エンディングではスキャットマン・ジョンの大ヒット曲「Scatman (Ski-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop)」の一節を引用したり、遊び心を随所に忍ばせていく。
続く「夢の中へ」は、音数を絞り込んだミニマルなアンサンブルが心地よい……と思うのも束の間、奈落の底へ落ちていくようなブレイクや、予測不能のテンポチェンジなど脈絡のない展開が、まさに夢の中へと迷い込んだ気分に。通算4枚目のアルバム『行列のできる方舟』(2021年)から「異邦人」は、ディック・デイルの「Misirlou」を彷彿とさせるトレモロギターが気づけばヴァンパイア・ウィークエンドのような、トライバルかつ高揚感あふれるマーチングリズムを導き出す。
そう、MONO NO AWAREの魅力は彼らが吸収してきた過去の音楽、上記以外にも例えばフランツ・フェルディナンドやバトルス、トーキング・ヘッズ、オレンジジュースなど様々な要素がまるでタペストリーのように編み込まれているところにある。
「“これとこれは似てるな”と思ったら、つなげていくヒップホップ的な感覚。映画を観ているときも“あの本のここと言ってることが同じだ”と思ったり、“この曲のリフが、時代もジャンルも全く違うこの曲のリフと似てるのは何故だろう?”と考えたり。自分の音楽の中でも、もはや元ネタが分からなくなるくらいそういうマッシュアップをたくさんやっているんです」
以前のインタビューで玉置はそう話してくれたことがあった。まったく別のモノやコトの中に共通点を見つけ、新たな文脈を作っていく“エディター的な視点”が、MONO NO AWAREの摩訶不思議な音楽性の軸になっているのは間違いない。
ボーカルやギターにダブっぽいディレイ処理をほどこした“人力ダンスミュージック”とも言うべき「me to me」のライブアレンジでフロアを沸かせ、歌詞の中に早口言葉を盛り込んだ「かむかもしかもにどもかも!」へとなだれ込む。再びステージに登場したフレシノとともに、ミニマルでファンキーなアンサンブルの上で早口言葉の応酬を始めると、フロアからは歓喜の声が上がる。次第にテンポアップする演奏に合わせ、二人の早口言葉も凄まじい勢いで加速し、この日の盛り上がりは最高潮に達した。
ライブ後半は、新曲「アングル」を披露。さらに、八丈島に古くから伝わるという「高速でマイムマイムを踊る奇祭」にインスパイアされた「水が湧いた沸いた」では、玉置と加藤、そしてサポートベースの清水直哉が柳澤柳沢を囲み、全員でいっせいにドラムを叩き始めると会場はお祭り状態に。割れんばかりの拍手と歓声が響き渡るなかイベントは幕を閉じた。
「分かりやすくなくても思わず踊ってしまう、そういうバンドを【天下一舞踏会】では集めています」とMCで話していた玉置。フレシノもMONO NO AWAREも、まさにそのお手本のようなパフォーマンスを見せてくれた一夜だった。
Text:黒田隆憲
Photo:Hayato Watanabe
◎公演情報
【天下一舞踏会 2024】
2024年1月19日(金)
東京・恵比寿 LIQUIDROOM
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