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2023年13回目の満月の夜となった12月27日(水)、ムーンライダーズが東京・EX THEATER ROPPONGIにてライブを開催した。最近のムーンライダーズは、2022年12月にアルバム「マニアマニエラ」&「青空百景」完全再現、10月にはファンハウス・レーベル在籍時代とテーマを設けたライブを行っている。この日のテーマは「80年代のムーンライダーズvol.1」。1980年8月のアルバム「カメラ=万年筆」から、1986年11月にリリースした「DON’T TRUST OVER THIRTY」までの期間をフィーチャーした構成で、ムーンライダーズの代表曲と呼ばれる楽曲が数多く生まれた時期でもあり、古参ファンの期待は否が応にも高まる。
会場内に流れていたBGMが鳴り止むと、ステージの真っ赤な緞帳が左右にゆっくりと開かれ、純白を基調にした衣装に身を包んだメンバーが表れる。下手後方に立つ鈴木慶一が歌い出すや「待ってました!」とばかりに満員の客席が沸く。オープニングはアルバム「アニマル・インデックス(1985)」に収められた「悲しいしらせ」。続いては、象の咆哮のようにトランペットとギターがうなりを上げるイントロで始まるアップ・チューン。曲に合わせて客席では色とりどりのペンライトが揺れる。演奏したのは6枚目のシングル「エレファント(1981)」。オリジナル・アルバムには収められてないマニアックな選曲で、この先、どんな珍しい曲が演奏されるのかと、集まったファンも嬉しい悲鳴をあげる。
鈴木慶一から『40年前の曲やります』と紹介されたのはアルバム「アマチュア・アカデミー(1984)」収録の「30 (30 AGE)」。30歳の誕生日になる4分前からを時系列に歌った鈴木博文の曲だ。前半にこの曲を演奏することが後半に意味を持ってくる、いわば伏線。ここからサックス奏者の矢口博康が加わる。鈴木慶一が1983年にプロデュースした水族館レーベルのコンピに矢口博康のリアル・フィッシュが参加して以来の盟友だ。ここまで80年代にリリースした楽曲はオルタナティブなアレンジで演奏してきたが、矢口が入ることで80sの色彩を帯びてくるのが面白い。6曲目の「霧の10m²」では、白井良明のギターと矢口のサックスが激しく応酬し合うプレイも披露した。
中盤で演奏したのはインストゥルメンタル・ナンバー2曲。最初の曲「ロシアン・レゲエ」は故・かしぶち哲郎と白井良明、鈴木博文の3人で1981年に結成したアートポートの曲。かつてライブ・ベスト盤「THE WORST OF MOONRIDERS(1986)」に収められたことはあるが、殆どのオーディエンスは覚えていないレアな楽曲だ。幻想的なスモークが焚かれる中、ロシア民謡とレゲエという地理的には真逆の音楽をひとつの曲にぶち込むという荒技に、観客も大喜び。続く「渚のアンビエントミュージック」は武川雅寛のソロ・アルバム「とにかくここがパラダイス(1982)」に収められた曲。鈴木博文がキーボード、佐藤優介がベースと楽器パートを交代し、残響音が響き、場内はダブ空間に転じる。このインストゥルメンタル・パートが終わるとコンサートは後半に。「Y.B.J. (YOUNG BLOOD JACK)」では矢口博康のサックスが炸裂し、佐藤優介のユニット「カメラ=万年筆」の由来となったアルバムに収められた「無防備都市」では佐藤がキーボード・ソロを披露と、後半はアグレッシブなナンバーが続く。
武川雅寛から『年末だから皆んなで歌うか!』とメンバーがアカペラで歌い出したのはベートーベンの第九!鈴木慶一が日本語詞をつけた映画「東京ゴッドファーザーズ(2003年公開)」のサウンドトラックに収められたムーンライダーズ版の「No.9」。メンバーの歌に続き場内も一緒になって大合唱。ステージと客席が一体化したところで、蛭子能収が詞を書いた脱力感満載の「だるい人」に突入。エンディングでは慶一とギターの澤部渡が足を上げてのコザックダンスも登場し、場内もいい感じで熱を帯びてくる。この勢いをそのままに慶一から『かしぶち君の曲やりましょう!』と「Frou Frou」になだれ込む。
続いての「GYM」は1984年2月にリリースしたシングル「M.I.J」のB面曲。慶一が『よくぞ見つけてくれた!』と舌を巻き、熱心なファンですら覚えていなかった隠れた名曲。この夜のコンサートの選曲を担ったのは、キーボードの佐藤優介とギターの澤部渡。ヤング・ムーンライダーズのふたりが前回(10月25日の恵比寿ザ・ガーデンホール)に続いてセットリスト選曲の重責を果たした。このふたり、いずれも80年代生まれでアルバム「DON’T TRUST OVER THIRTY(1986)」が発表された時にはまだ生まれていない。それゆえ”80年代のライダーズだったら、この曲はマスト!”といった既成概念がない。メンバーですら忘れていたアルバム未収曲や、ソロ・プロジェクト曲なども、80年代というお題の元に”普通”に並んでいる。あくまでもコンサート全体の構成をみながら選曲した結果だそうだが、長らくライダーズを聴いてきたファンにとっても実に新鮮だ。もうひとつ新鮮な部分をあげると、演奏曲の殆どで即興=インプロビゼーション・パートを入れているところだ。最初が何の曲を演奏しているか判別できないまま、気がついたらお馴染みのフレーズに入っていた、とか。中盤に各奏者が即興演奏を重ね、再び元の楽曲に戻ってくる、とか。変化自在でオーディエンス側からすると気が抜けないが、心地よい緊張感も楽しめる。何よりも演奏しているメンバーが楽しそうなのだ。昨年末の「マニアマニエラ」「青空百景」再現ライブもそうだったが、実は”完全再現”していない。ノスタルジック方面には向かわず、今のサウンドと今の感覚で、今の世に再現させている。ドラムの夏秋文尚を除けばメンバーは今や、前期高齢者の世代だが、ここに佐藤優介、澤部渡のヤング・ムーンライダーズが加わることで絶妙なケミストリー効果が生まれている。
さてコンサートもいよいよ佳境。白井良明が『何十年ぶりかなぁ、この曲やるの…』と演奏されたのは「アマチュア・アカデミー(1984)」に収められた「NO.OH」。後半のコーラスの掛け合いで場内を盛り上げ、ライダーズ屈指の人気ナンバー「Kのトランク」へ。サビに入ると良明の『皆さん、ご一緒に!』のかけ声を合図に観客全員が大声で口ずさむ。ラストは、色とりどりのペンライトが光る中、アカペラでみんなで歌い大団円。ただし、これでは終わらない。まだもう1曲ある。本編ラストは、ライダーズ流の大ファンク抒情詩「DON’T TRUST ANYONE OVER 30」だ。「30(30 AGE)」では30歳になる前の不安や期待を歌ったが、ここでは30歳以上を信じるな!と突き放す。メンバー全員がOVER30になった頃に書かれた曲だ。サビの”Don‘t trust Over30″は徐々に”Don‘t trust Over 50,60,70″と年齢が上がっていく。佐藤と澤部が30代、夏秋が50代、他メンバーが60,70代。要は俺たち信用すんなよとのメッセージだが、このパートは客席も一緒になって何度も何度も繰り返され、場内を熱狂の渦に叩き込み、本編が終了。
本編でのホワイト系衣装から、アンコールでは黒のTシャツで登場。胸にはフジオ・プロダクション謹製の各メンバーのイメージ・イラストが描かれている。鈴木慶一が『今年は、なかった事にしたいぐらい、たくさんの方が亡くなりました』と話し『岡田徹の曲で、高橋幸宏がよく歌ってくれました』とアルバム「DON’T TRUST OVER THIRTY(1986)」収録の「9月の海はクラゲの海」を演奏。続いては『この曲もPANTAが何度も歌ってくれてました。自分の持ち歌にしたいぐらいだと』と歌ったのは、ムーンライダーズの不朽の名曲「くれない埠頭」。歌詞は鈴木博文〜鈴木慶一〜澤部渡の3人で歌い継ぎ、観客も大合唱。最後はアカペラで締め、今年亡くなった高橋幸宏、岡田徹、PANTAを悼んだ。
2時間超、全20曲にも及んだ「80年代のムーンライダーズvol.1」コンサートは終了。タイトルに「vol.1」とあるので、きっと近いうちに「vol.2」も開催されるのであろう。そんな期待を胸に抱きながら、会場を出ると夜空には、薄曇りの中からコールド・ムーンが光り輝いていた。また、この日は、昨年12月のライブ盤「moonriders アンコールLIVEマニア・マニエラ+青空百景」のCD,DVD,BDも発売。本作品は、1月17日(水)に新宿ピカデリーで特別上映会の開催も決定しており、本日10日(水)22時よりシアターサイトにて上映チケットが販売される。
text by 石角隆行
【セットリスト】
01.悲しいしらせ
02.エレファント
>6th シングル(1981.4.25)曲
03.G.o.a.P. (急いでピクニックへ行こう)
04.30 (30 AGE)
05.真夜中の玉子
06.霧の10m²(注:²は二乗の”2″)
07.ロシアン・レゲエ
>アルバム「ARTPORT(1981)」収録曲
08.渚のアンビエントミュージック
>アルバム「とにかくここがパラダイス/武川雅寛(1982.06.21)」収録曲
09.Y.B.J. (YOUNG BLOOD JACK)
10.無防備都市
11.A FROZEN GIRL, A BOY IN LOVE
12.僕はスーパーフライ
13.だるい人
14.Frou Frou
15.GYM
>シングル「M.I.J.(1984.02.05)」カップリング曲
16.NO.OH
17.Kのトランク
18.DON’T TRUST ANYONE OVER 30
ENCORE
19.9月の海はクラゲの海
20.くれない埠頭
M 10=アルバム「カメラ=万年筆(1980.08.25)」収録曲
M 05, 06, 12, 20= アルバム「青空百景(1982.09.25)」収録曲
M 17=アルバム「マニア・マニエラ(1982.12.15)」収録曲
M 01, 14=アルバム「アニマル・インデックス(1985.10.21) 」収録曲
M 03, 04, 09, 16=アルバム「アマチュア・アカデミー(1984.08.21)」収録曲
M 11, 13, 18, 19=アルバム「DON’T TRUST OVER THIRTY(1986.11.21)」収録曲
出演:
moonriders(鈴木慶一/武川雅寛/鈴木博文/白井良明/岡田徹/夏秋文尚)
澤部渡(Skirt)/佐藤優介
【イベント/ライブ情報】
■moonriders アンコール LIVE 「マニア・マニエラ+青空百景」特別上映会
会場:新宿ピカデリー
日時:2024年1月17日(水)18時30分※終映後トークイベントも開催
<チケット>
1月10日(水)22時よりシアターサイトにて販売開始
https://www.smt-cinema.com/sp/site/shinjuku/day.html
■No Lie-Sense(鈴木慶一+KERA)ライブ
日時:2024年3月31日 開場17時00分 開演17時30分
場所:東京キネマ倶楽部
<チケット>
2F最前列指定席 ¥9,800/1F指定席 ¥6,500
https://eplus.jp/nolie-sense
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