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2023年12月、いつまでも鳴りやまない盛大なスタンディングオベーションの中で、【billboard classics Mai Kuraki Premium Symphonic Concert 2023】が幕を下ろした。それは倉木麻衣にとって2023年の締めくくりであり、デビュー25周年イヤーの始まりを告げる特別なツアー。オーケストラの贅沢な響きと、各会場で日替わり選曲を含むヒット曲、代表曲を散りばめたセットリストで魅せた4公演の全貌を、ツアー3本目、12月10日の東京・国際フォーラム ホールA公演を中心に振り返ろう。
二部構成のコンサート、第一部は、音楽監督と指揮者をつとめる藤原いくろうの編曲による「Mai-K’s Time Machine」で幕を開ける。タイムマシンのように現在から過去へ遡る、数々のヒット曲を詰め込んだメドレーは、ここから始まる日常を離れた豊かな時間へのプレリュード。東京フィルハーモニー交響楽団の演奏は、優雅さとキレの良さを兼ね備えた、威風堂々と呼びたい安定感あふれるもの。福岡は九州交響楽団、仙台は仙台フィルハーモニー管弦楽団、そして大阪は京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ。同じオーケストラでもそれぞれに個性が異なる、倉木麻衣のシンフォニックコンサートは、各会場で違った音の表情が楽しめるのも大きな魅力だ。
万雷の拍手を受けて登場した倉木麻衣は、純白に輝くドレスと銀のジュエリーを身にまとう、完璧なプリンセススタイル。まずは「Secret of my heart」から「Secret, voice of my heart」へ、アニメ『名探偵コナン』シリーズの新旧エンディング主題歌(「Secret, voice of my heart」はスピンオフ作品『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』)を、2曲続けて。美しく繊細なウィスパーボイスを、特別参加のピアニスト・榊原大のハートフルな演奏が支え、藤原いくろうの指揮するオーケストラが力強く包み込む。譜面台に置かれた小さなライトの灯りが、星を散りばめたように輝いて見える。客席では七色のペンライトが揺れる。それはシンフォニックコンサートならではの、ちょっとフォーマルな、心地よい緊張感の漂う素敵な雰囲気。
「たくさんの皆様にお越しいただいて、とても嬉しく思います。今日はゆったりとじっくりと、フルオーケストラの美しい響きを楽しんでいただきたいと思います」
和風情緒をたたえたメロディと、オーケストラとの相性が抜群の「渡月橋 ~君 想ふ~」は、赤い照明と赤いペンライトでぐっと艶やかに。ピアノが導くもの悲しい旋律と、憂いを帯びたメロディをなぞる歌声が沁みる「冷たい海」は、青と白の世界の中でよりドラマチックに。倉木麻衣のシンフォニックコンサートは、照明など最小限の演出で、歌と演奏だけをまっすぐに届けるコンサートだ。イントロに素晴らしいバイオリンソロを配した、「Time after time ~花舞う街で~」の照明が、白いドレスを鮮やかな桜色に染める。あらためて聴くと、倉木麻衣のバラードには和やアジアの情緒を感じるメロディが多い。藤原いくろう作曲の「儚さ」もその一つ。オーケストラの広がりと、倉木麻衣の柔らかな歌声が、古き良き和歌を聴くように懐かしく胸を打つ。
大阪公演での「儚さ」には、特別ゲストの二胡奏者、霍暁君(フォ・シャオジュン)が参加して、実に味わい深い演奏を聴かせてくれた。シンガポール、中国、香港の合作映画として制作された『画皮 あやかしの恋』(2008年)の、日本版主題歌だったこの曲に、二胡の響きが合わないはずがない。東洋の旋律が国を超えて一つに溶け合う、素晴らしいシーンを目撃した大阪の観客はとても幸運だ。
第一部の最後を飾るのは、倉木麻衣お気に入りの洋楽カバーのメドレーだ。デニース・ウィリアムスの「free」と、チャールズ・チャップリン作曲の「smile」の英語詞による歌唱は、倉木麻衣のソウルミュージックや映画音楽への敬愛を感じさせる、深く気持ちのこもったもの。映画のクライマックスを盛り上げるように、打楽器が活躍するオーケストラアレンジも素晴らしい。
20分の休憩をはさみ、第二部は藤原いくろう作曲、倉木麻衣に捧げる「Prelude for Mai-K」の壮麗な響きで始まった。白から赤へ、より躍動的なイメージに衣装チェンジした倉木麻衣が、観客に手振りを求めながら笑顔で歌う「Stay by my side」は、東京公演だけの特別な選曲。福岡公演ではここで「Be Proud ~we make new history~」を歌い、頼もしいオーケストラの支えを得て、バラードを超える力強い応援歌を聴かせてくれた。大阪では「明日へ架ける橋」を歌い、明るいムードの中で、希望のメッセージを伸びやかに響かせてくれた。各会場ごとのお楽しみあり、それも倉木麻衣のシンフォニックコンサートに欠かせない魅力。
中でも、仙台で歌った「あなたがいるから」は、特に印象深く心に刻まれるものになった。東日本大震災の復興支援、チャリティとして制作されたこの曲で、津波で流された木材で作られた、通称・津波バイオリンを弾くのは、現在プロを目指しバイオリンの修行中、自身も被災を経験した高校2年生の須藤悠太郎。言葉の代わりに奏でるバイオリンに込めた、深い感情には心を動かさずにはいられない。このツアーの中でも屈指の、とてもエモーショナルで美しいシーン。
東京公演にも、素敵なゲストが駆けつけてくれた。東京ハンドベルオーケストラと共に奏でる「白い雪」の、クリスマスが近い冬の空気に良く似合う、澄み切ったハンドベルの音色にうっとりと聴き入ったあと、ラストの盛り上げりに向けてコンサートはぐっと躍動感を増してゆく。「Reach for the sky」は客席のあちこちで、色とりどりのペンライトが振られる。「Love, Day After Tomorrow」は、お馴染みの「L.O.V.E.」のハンドサイン、手振り、クラップで観客を巻き込む。「みんな一緒に!」とコーラス参加をうながし、ステージを歩きながら歌う「ひとりじゃない」。そしてラストを飾る「chance for you」の、クリスマスムードをたっぷりと織り込んだ、華やかで心躍るエンディング。歌い終えた倉木麻衣の朗らかな笑顔に、ベストを出し切った充実感がにじむ。満場一致の拍手が鳴りやまない。
アンコールの「always」はリズミックに勇壮に、温かい手拍子と共に。たとえ2階のてっぺんから見たとして、客席にマイクを向け、手を振り、歌う倉木麻衣の姿から、この場にいることが楽しくてしょうがないという空気は伝わったはずだ。シンフォニックコンサートだけで味わえる、特別な楽しみと充実感が、ステージから溢れ出して広い会場を大きく包み込む。
「あらためて、素晴らしいオーケストラのみなさんに拍手をお願いします。榊原大さん、藤原いくろうさん、コンサートチームのスタッフ、そしていろんなことを乗り越えてここに集まってくださった、みなさんお一人お一人にも大きな拍手をお願いします!」
これまでリリースした全439曲のサブスク解禁、そして12月22日に新曲「You & I」(TVアニメ『名探偵コナン』エンディングテーマ)のリリース。カーテンコールに何度も応えながら、新しい情報を伝える声がはずんでいる。12月8日のデビュー記念日をもって、倉木麻衣はデビュー25周年イヤーに突入した。2024年はきっと、もっとたくさんの幸せなニュースでファンを喜ばせてくれるはずだ。笑顔と喜びにあふれた、アニバーサリーイヤーの幕開けを共に祝おう。お楽しみはこれからだ。
Text:宮本英夫
Photo:達川範一
◎公演情報 ※終演
【billboard classics Mai Kuraki Premium Symphonic Concert 2023】
セットリスト
M1 Mai-K’s Time Machine
M2 Secret of my heart
M3 Secret, voice of my heart
M4 渡月橋 ~君 想ふ~
M5 冷たい海
M6 Time After time ~花舞う街で~
M7 儚さ
M8 free~smile
M9 Prelude for Mai-K
M10 白い雪
M11a【福岡】Be Proud ~we make new history~
M11b【宮城】あなたがいるから
M11c【東京】Stay by my side
M11d【大阪】明日へ架ける橋
M12 Reach for the sky
M13 Love, Day After Tomorrow
M14 ひとりじゃない
M15 chance for you
EC always
11月19日(日)福岡シンフォニーホール
11月23日(木・祝)東京エレクトロンホール宮城
12月10日(土)東京国際フォーラム ホールA
12月17日(日)フェニーチェ堺 大ホール
出演:倉木麻衣
音楽監督・指揮:藤原いくろう
管弦楽:
【福岡】九州交響楽団
【宮城】仙台フィルハーモニー管弦楽団
【東京】東京フィルハーモニー交響楽団
【大阪】京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ
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