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1980年代にもんた&ブラザーズで一世を風靡し、俳優、シンガーソングライターとしても活躍した、もんたよしのりが10月18日に亡くなったことが報じられた。訃報が報じられる度、枕詞のように“ヒット曲「ダンシング・オールナイト」で知られる”と説明されていたこともあろうが、ここ数日、「ダンシング~」のメロディーと、あのハスキーな歌声は頭から離れない。本文にも書いたが、発売された当時、積極的に聴いたわけでもないのに、これほど頭の中で流れ続けているのは、同曲が大ヒットした証しである。今週はもんた&ブラザーズの1stアルバム『Act1』の紹介で、もんたよしのりを追悼したい。
1980年最高最大のヒット曲
もんた&ブラザーズの「ダンシング・オールナイト」が昭和後期の大ヒットシングルであったことは認識している。1番までなら今でも歌詞を見なくても歌えるように思うし、何ならそこにもんたのモノマネを加えてもいい。そのくらいよく覚えている。忘れ得ぬ楽曲のひとつである。ただ、そうは言っても、筆者はもんたよしのりの大ファンだったわけでもないし、「ダンシング~」にまつわる思い出話があるわけでもない。同時期、熱心に聴いていたのはYMOだった。なので、自分自身でも“こんなにもしっかりと「ダンシング~」を覚えているのは何でだろう?”と思っていたのだが、今回調べてみて腑に落ちた。大ヒットどころではなく、特大ヒットだったのである。
以下は「ダンシング~」のチャート順位をWikipediaからの抜粋である。
[週間第1位(10週連続、オリコン)。1980年6月度月間第1位(オリコン)。1980年7月度月間第1位(オリコン)。1980年8月度月間第1位(オリコン)。1980年度年間第1位(オリコン)。オリコン歴代シングルランキング第69位。第1位(通算7週、ザ・ベストテン)。1980年度年間第2位(ザ・ベストテン)]。
1980年の音楽シーンを席巻していた楽曲であったことは疑いようがない。同年6月から8月までは月間1位だったということは春の終わりから夏の終わりまで、巷に「ダンシング~」があふれていたと言っても良かろう。自然と耳に入ってきたし、目にしたはずである。年間チャート1位となったことも充分に頷けるが、そこも調べてみたら、さらに同曲の凄さが実感できた。以下は1980年の総合シングル・ランキングのTOP10である。
[1位 もんた&ブラザーズ:「ダンシング・オールナイト」。2位 久保田早紀:「異邦人 -シルクロードのテーマ-」。3位 クリスタルキング:「大都会」。4位 シャネルズ:「ランナウェイ」。5位 長渕剛:「順子/涙のセレナーデ」。6位 海援隊:「贈る言葉」。7位 五木ひろし:「おまえとふたり」。8位 ロス・インディオス&シルヴィア:「別れても好きな人」。9位 オフコース:「さよなら」。10位 田原俊彦:「哀愁でいと (NEW YORK CITY NIGHTS)」]。
集計期間は[1979年12月3日付 – 1980年11月24日付]なのだが、「ダンシング~」が驚異的なのは、他のTOP10曲の発売が概ね1979年だったのに対して、1980年4月とリリースから約8カ月で年間チャート1位を制していたということだ。長くジワジワ売れ続けたわけでも、1カ月だけドカンと売り上げたのでもなく、中期に渡って売れ続けたのである。そこにどういう構造があったのかは分からない。おそらく、「ダンシング~」がヒットしたことによってそれまで知らなかった人が“あら、いい歌ね”なんて気付いてレコードを購入。そこから、音楽にそれほど興味のなかった人までもがそれに気づいて…という連鎖があったのだろうけど、それで累計の売上が200万枚に到達したのだから半端じゃない。特にファンじゃなかった筆者みたいな者でもそらで歌えるわけである(しかも、アクション付きで)。「ダンシング~」は軽く社会現象と言ってもいいくらいの特大ヒット曲だったのである(ちなみに、1980年の総合シングル・ランキングのTOP10の「順子/涙のセレナーデ」と「哀愁でいと」は共に1980年6月で、これも充分過ぎるほどに立派な成績であったことを付記しておく。加えて、ここまでの[]はWikipediaからの引用)。
歌唱力とアレンジの奥深さ
「ダンシング~」は『Act1』の8曲目に収録されている。[当時、もんた本人は「売れるわけないやん」とすっかり弱気になっており、これが最後のレコーディングになるだろうと思っていた]という有名なエピソードもあるが、ヒット曲とは得てしてそういうものなのだろう([]はWikipediaからの引用)。とりわけ特大ヒット曲となると、狙って出せるような代物ではないのだ。ただ、今回改めて同曲を聴いてみて、本人はヒットしないと思っていたとはいえ、いろいろとよくできた楽曲であることは理解できた。歌メロに派手さはない。Aメロとサビで構成されており、サビはタイトルのリフレイン。キーはやや高めだが、レンジはそれほど広くはない。実は案外シンプルだ。癖がないメロディーという言い方ができるかもしれない。だが、それだけにシンガーの力量が問われる旋律という見方もできる。もんたよしのりの、あのハスキーな声で歌われるからこそ、旋律がなまめかしく聴こえるし、シンプルがゆにハスキーヴォイスがより強調されたところもあったと思う。「ダンシング~」は海外の歌手を含めて多くの人にカバーされている。髙橋真梨子、鳥羽一郎、島津亜矢、中森明菜、松崎しげる、JUJU──。その顔触れを見ることでも、この曲の奥深さが分かるかもしれない。
その歌を彩るサウンドもなかなか魅力的だ。まずイントロや間奏で聴こえてくるエレキギターがいい。歌以上にドラマチックなメロディーを奏でており、楽曲の世界観をふくよかにしていると言える。2番あとの間奏で速弾きも聴かせているのも興味深いし、そうかと思えば、Aメロで歌を邪魔しないフレーズをさらりと入れている。押し引きをわきまえている、いぶし銀のようなギタープレイは、この楽曲のもうひとりの主役と言って良かろう。
もうひとつ忘れてはならないのはブラスの存在である。今回聴き返す前からブラスが印象的な楽曲であることは承知していたので、そこでの変な驚きはなかったのだが、そのブラスは意外と出番が少ないことはまさに意外だった。間奏やアウトロでギターにも絡んでいるけれど、ブラス特有の派手な鳴りを潜めているというか、淡々と鳴らしている印象ではある。それでいて、ブラスの存在感はやはり相当なものであり、歌、ギターと並んで第3の主役となっているのは間違いない。当初はもっと洒落たアレンジであったらしいが、もんた本人から“古臭くしてほしい”という強固な依頼(抵抗?)があり、この形になったと聞く。もんたには、自身が高校の頃、初めて歌ったダンスホールのイメージがあったそうだ。確かに、いにしえのキャバレーのビッグバンドのようではある。自身のイメージを貫いた、もんたも偉いし、それに応えた松井忠重の編曲も見事だったということだろう。
その他、サイドギター、ベース、ドラム、パーカッションなどのバックの音は極めてシンプル。歌に入る前に若干ベースが動くくらいで、全体を通して抑制に抑制を効かせていると言ってもいいだろう。ただ、これはこれで正解だったと思われる。ギター、ブラスが印象的なこともあってか、もし仮に──例えば、ドラムのフィルが派手で…とかだったら、楽曲のバランスが崩れていたようにも思う。淡々と流れるリズムが根底にあったからこそ、歌もリードギターもブラスも躍動感を増したのではないか。縁の下の力持ちに徹する…という言い方には語弊があるかもしれないけれど、そのひたすら大人なアンサンブルに、プロフェッショナルな仕事っぷりを感じざるを得ないのである。
収録曲の随所で感じるバンドらしさ
大人と言えば、『Act1』の他の収録曲も大人の渋さを感じさせる楽曲が多い。何しろアルバム1曲目を飾るM1「Sing Song Blues」はミドル~スローの、文字通りのブルースナンバーときている。全体にはオフビートではあるものの、ベースが若干突っ込み気味なのか、リズムがやや頭打ちな気もするが、歌謡曲寄りというか、関西系というか、少なくともガチガチの黒人ブルースにはないオリジナリティーが感じられて、自然と好感を抱く。歌詞は1980年代にアイドルソングを多く手掛けた篠塚満由美氏によるもので、R15な内容だ。いや、R18だろうか。
《遅く起きたら ベッドはもぬけのから/さめたカップについた ルージュのあと/シケた煙草を 口にくわえたまま/ねぼけまなこで sing song blues》《Woo……ひどく燃えていた/Woo……夕べのお前は罪だぜ/訳もきかずに 抱くだけ抱いたよ/肌に残った爪痕……痛む》(M1「Sing Song Blues」)。
今となっては、そのシチュエーションに昭和を感じざると得ないけれど、ここにある、はすっぱさや場末っぽさは、あの頃、筆者が漠然と想像していた大人像が描かれていたようで、何となく憎めない。
続くM2「Last Drive」は、ベーシックはレゲエだろうか。一部のメロディーやコード、ギターの旋律はメジャーで、M1に比べるとさわやかな印象ではあって、どことなくリゾート感も香る。もんたのハスキーヴォイスがロストラブソングに切なさを注入しているように感じられるし、アウトロ近くでのソウルフルな女性コーラスとの絡みも聴きどころであろう。
M3「ムード オン ムード」もブルース。これまた渋い。ピアノ、ギターに加えて、明らかにアップライトであることが分かるベース、ブラシもいい音を出している。M1はガチガチの黒人ブルースではないと言ったが、こちらはわりと本場寄り。フィドルの入り方もいいし、アウトロ近くでニューオーリンズ風に展開していくのも面白い。この辺はバンドの演奏力の確かさと見ることもできるだろう。
M4「ジャーニー」はシングル「ダンシング~」のB面だった曲。アコギのアンサンブルがカントリー調でもあり、米国をバスで旅するという歌詞も相俟って、本場を意識したものであることは確実だが、こちらもやはりガチガチではない。
M5「Look at me」はそこから一転、アップテンポに展開する。「ダンシング~」とはタイプは異なるものの(M5にはブラスも入っていない)、メインギターとオルガンでサウンドを彩りながら、サイドギターとリズム隊がしっかりとボトムを抑えているところは「ダンシング~」と構造が近い。全体的には派手さのないベースがチラッと派手さを見えるところも似ている。もんた&ブラザーズらしさを感じるナンバーと言えるのかもしれない。ヴォーカルのハスキーさもより強調されているようにも思う。
M5はアップテンポなこともあって、ここから演奏のテンション、熱量が上がっているようにも思うが、LPでのB面、M6「Don-Zo-Ko」からはさらにバンドの本性が露わになっていくようでもある。M6はレゲエ。ギターもドラムも完全にそれを意識した演奏をしている。間奏でのドライなアコースティックギターで奏でられるソロや、オルガンのエモーショナルなソロは間違いなくこの曲の肝でもあり、M5で感じた、もんた&ブラザーズらしさが確信に変わる瞬間だ。
M7「Burning」はシャッフルのハードロック調ナンバーである。本作で最も攻撃的なナンバーと言って良かろう。ツインギターによるリフのユニゾンにオルガンが絡むイントロからもうカッコ良く、そのギターリフがハスキーさ全開の歌と連なっていく。R&Rらしいブレイクで決めるところは、もんたの歌声のパワフルさをダメ押ししているようでもある。終わり方にも切れがあるし、バンドサウンドのカッコ良さが極まっているナンバーだ。
そこからM8「ダンシング~」、そして、これもニューオーリンズ調のM9「Singing in the falling rain」、ブルージなバラードナンバーM10「I`m Singin for you」とつながっていくので、アルバム全体で見ると、ゆったり入って、中盤で派手になり、ゆったりとしてフィナーレを迎えるというスタイルであることが分かる。特大ヒット曲のあとのアルバムでありながらも、彼らのルーツであろう黒人音楽、米国音楽への憧憬を感じさせるバラエティー豊かな楽曲を収録し、しかもアルバム作品としての流れがちゃんとあるというのは、やはり彼らがプロフェッショナルであった証拠だろう。もんたよしのりが優れたアーティストであり、もんた&ブラザーズが優れたバンドであったことが刻まれた一枚だ。
TEXT:帆苅智之
アルバム『Act1』
1980年発表作品
<収録曲>
1.Sing Song Blues
2.Last Drive
3.ムード オン ムード
4.ジャーニー
5.Look at me
6.Don-Zo-Ko
7.Burning
8.ダンシング・オールナイト
9.Singing in the falling rain
10.I`m Singin for you
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