<インタビュー>デイヴ・ロウントゥリー(ブラー)が語る『ザ・バラード・オブ・ダーレン』制作の裏側

2023年10月10日 / 15:00

 2022年11月、ブラーが約8年ぶりのライブを行うことが突如発表された。翌年7月に英ロンドンの伝説的なウェンブリー・スタジアムにて一夜限りで行われる予定だったが、即日ソールドアウトとなったため追加日程も発表され、その不動の人気ぶりをみせつけた。この再始動にあわせて、2015年の『ザ・マジック・ウィップ』以来となる新作スタジオ・アルバム『ザ・バラード・オブ・ダーレン』が7月21日にリリースとなった。全英1位を獲得した新作を引っさげて、今年8月には、2013年以来、約20年ぶりに【SUMMER SONIC】のヘッドライナーを務めるために来日を果たした。今回Billboard JAPANでは、ドラマーのデイヴ・ロウントゥリーに、ニュー・アルバムの制作裏側に話をついて聞いた。

――ニュー・アルバム『ザ・バラード・オブ・ダーレン』がリリースされてから約1か月が経ちましたが、世に出た後に作品との関係性は変化しますか?

デイヴ:世に出てからというよりも、ライブで演奏するようになってから変わってくるね。このアルバムは、(ウェンブリー・スタジアムで)ライブを行うという計画から有機的に生まれたものだから、物事がやや後先逆だった。ロンドンでのアルバム再現ライブの直前まで、収録曲はほとんど演奏しなかったので、レコーディングを終えたら、ほとんどアルバムについては忘れていたと言ってもいいかもしれない。

――とはいえ、今年の初めにレコーディングされたので、ある意味フレッシュだったと思います。

デイヴ:そうだね。レコーディングしてからほぼ演奏していなかったし、かなりフレッシュだった。フェスの日程が多かったから、発売前のニュー・アルバムの曲はあまり演奏できない。ウェスト・ロンドンのアポロで行ったアルバム再現ライブまで、きちんと新曲を演奏して、アルバムとの関係性を築く機会がなかったんだ。

――新曲を制作し始めたときのメンバーの心境を教えてください。EPや単発のシングルではなく、アルバムを作ろうと決めていたのでしょうか?

デイヴ:アルバムを制作するつもりで作業を開始したけれど、本当に時間がなかったんだ。ツアーの計画を練り終えたときには、限られた時間しか残っていなかった。おそらくアルバムを作るのには、十分な時間ではなかったと思う。だから、なるべく早く作業をしなければならなかった。何が起こるかわからないし、保証もない。一緒にスタジオに入ったのは、ほんの数週間だった。でも締め切りがあったことは幸運にもクリエイティブ面にいい影響を及ぼしてくれた。

――具体的に言うと?

デイヴ:創作活動を行う際、その多くの時間は、「どうだろう?」「こうすべきかな?」とか「それでいいのか?」など悩む時間に費やされる。ある意味、それは贅沢なんだ。全くクリエイティブではない時間で、自己疑念を生む。これは今回の自分たちにはなかった贅沢だ。とにかく完成させなければならなかったし、いい作品にしなければならなかったし、それも今すぐやらなければなかった。次々とドラムを録音して、それがいい出来じゃなきゃいけない。普段だったら「ああ、どうしよう、もう一回やったほうがいいのかな」と考えてしまうような決断をその場で迫られることになったんだ。

――これまでのレコーディングではなかったような切迫感でしたか?

デイヴ:そうだね。どのアルバムに関しても、レコーディングのやり方、場所などのプロセスや、その発端が毎回違うから。

――今回はスタジオで一緒にレコーディングしたそうですが、それがアルバムのトーンや雰囲気にどう影響しましたか?

デイヴ:ほぼ一緒にと言った方がいいかな。というか、そこが問題だったんだ。メンバーそれぞれ忙しい生活を送っているし、アルバムを1枚作るために6か月も時間をとるわけにはいかない。だから、一緒に作業をする時間がものすごく限られていた。すべての救いは、デーモンが作っていた曲のデモが明確だったことだと思う。彼がゴリラズのツアー中に作っていたデモで、それらを録音するためにスタジオ・エンジニアを帯同させていた。曲の方向性がはっきりしていたから、どうすれば形にできるかという面で実験しなくてよかったんだ。

――短期間でアルバムを作ると決めたのは、バンドとしてまだ野心があり、クリエイティブ面における信念があることを証明している気がします。

デイヴ:ああ、僕らはいまもその飽くなきものに突き動かされているんだ。

――新しいアルバムをリリースしなくてもライブで演奏できる曲は十分あるわけですし。

デイヴ:そうだね。もしニュー・アルバムを出さなくても、誰も僕らを批判しなかっただろう。今回のツアー自体やらなくても、誰も批判しなかったと思う。これは、みんなを躊躇させていたことのひとつだった。僕たちには非常に優れたディスコグラフィーがある。このような状況に陥った場合、マイナス面しかない。うまくいけば、またいいアルバムを作れるだろう。でも、いいアルバムは山ほど作ってきた。うまくいけば、またいいショーをやれるだろう。でもこれまでも素晴らしいショーをやってきた。だが最悪の場合、すべてを台無しにしてしまう可能性もある。「なんてことだ、ブラーは、この自己満足的なひどいアルバムで輝かしいバック・カタログを台無しにする決断をした」なんて言われて。それこそ夜も眠れないよ(笑)。

――そんな懸念もあった中で、新しいアルバムを作る原動力となったのは?

デイヴ:僕らを突き動かしているもの……何だろうね。メンバー全員が異なる意見を持っているのは確かで、だからブラーはうまくいくんだと思う。僕らがいまだに何を証明しようとしているのかわからない。だけど精一杯やっている。そうでない人たちの多くは、もっと幸せそうだ。そんな風に駆り立てられていない人たちは、世の中に満足しているように見える。

――ある意味、皮肉ですね。

デイヴ:同感だよ。ものすごくやる気がない人が少しうらやましいけど、僕らは違うんだ。きっと死ぬまでそうだろうね(笑)。

――ファンにとっては、このアルバム自体が喜ばしいサプライズですが、スタジオで起こった予期せぬ出来事はありましたか?

デイヴ:今回プロデューサーを務めたジェームズ・フォードは、デーモンとグレアムとはそれぞれ仕事していたけれど、アレックスや自分と仕事するのは初めてだったし、ブラーとしても初めてだった。これも未知の要素のひとつだった。メンバー全員が知っていて、仕事をしたことがあるプロデューサーを起用するのが最も安全な選択肢だったけど、僕たちはリスクを取ることにした。もちろんジェームズは素晴らしいプロデューサーだ。でも実際にブラーのアルバムを作ってみるまでは、うまくいくかどうかはわからない。過去にはうまくいかずに、大惨事になったこともあった。プロデューサーの人柄は関係なくて、ただケミストリーが生まれなかったから。

 でも今回はいい具合にハマった。ジェームズにとっては予想外だったみたいだけど。自分の役割が適切なタイミングで物事にドライブをかけることだと気づいたんだと思う。あんな風に仕事をしたのは初めてだったんじゃないかな。普段なら、最終的な曲の構成とか、そういうことにもっと携わっているんだと思う。でも今回はプロデューサーというより、メンバーの一人のような感じだった。彼はさまざまな楽器が演奏できるから、ギターでジャムったり、ドラムを叩いていたりして、楽しんでいたよ。彼と一緒に仕事をして、そのプロセスを見るのはとても興味深かったね。

――ブラーは4人の異なる個性を持ったメンバーによって構成されています。新作を振り返ってみて、自分の持ち味を最も発揮できたと思う曲はありますか?

デイヴ:誰が何をもたらしたかを言うのはとても難しい。少し前にケミストリーという言葉を出したけれど、それが芸術的なパートナーシップの成功の要因だと思う。僕たち4人がそこにいることで、魔法のようなケミストリーが起こる。その理由を説明することはできないし、大きなジグソーパズルの中で、各メンバーのジグソーパズルのピースがどのような形をしているのかもわからない。でも、4人全員が不可欠だということは確かだ。この4人のラインナップに落ち着くまで、お互いにさまざまなバンドで演奏していた。けれど4人が揃った初めてのリハーサルで1stシングル「She’s So High」を書き上げ て、僕らはすぐさまブラーとなった。個々に活動していたときよりも、ずっとずっといい作品が作れた。最初のリハーサルから、すべてがジグソーパズルのようにハマった。今となっても、誰が何を提供しているか言い難い。ボーイズ・グループ的に、この人は華やかな人とか担当を決めるのはとても簡単だ。でも人生はそうじゃないし、それよりもずっと複雑だから面白いんだ。僕ら全員が創造性を発揮することは、全員が欠点を見せることと同じくらい重要だと思うね。

――アルバムは、長年にわたるバンドのキャリアと友情を振り返るような内容になっています。今作の制作は、バンドにどのような影響を与えたと思いますか?

デイヴ:僕たち全員が、たちまち35年前のペルソナに戻ったのは興味深かった。1989年に初めて一緒にリハーサルをした4人の若造とは、まったく違う人間になっている。みんな少し大人になって、いろいろな経験をして、人生においても大きく前進している。それなのに4人が集まると、すぐに18歳の頃に戻ってしまう。自分でも不思議だよ。「なぜ、そんな子供じみたことをするんだ?」って自問自答するけど、結局はうまくいくからなんだよね(笑)。「今はそんなことしている場合じゃない」ってその衝動と闘おうとする部分もあるけれど、そのうち「仕方ないな」と思い始めて、「リラックスして、プロセスを信じるんだ」って自分に言い聞かせるようにするんだ。

――最後に新作のアートワークについても伺いたいです。『レジャー』や『ザ・グレイト・エスケープ』、ある意味『シンク・タンク』もそうですが、水がフィーチャーされることが多かったと思うのですが、これは単なる偶然ですか?

デイヴ:アルバムのアートワークって、誰かとデートに行くのと似ているよね?向かい合わせに座った最初の10秒間で相手のことを観察すると、どんな夜になるか大体予想できる。そうあるべきじゃないけど、そうなんだよね。アルバムのアートワークも同じで、リスナーがバンドの写真以外で最初に目にするものだ。僕たちは、ある程度ミスディレクションするのが好きで、人々をある方向に導いたり、先入観を与えたりして、それを音楽で払拭するのがとてもエキサイティングだと思っている。

 だから、アートワーク自体に十分なインパクトがありつつ、音楽を聴いたときに「なるほど」と思ってもらえるような作品であることが重要なんだ。なかなか難しいことだけどね。過去には、完璧なアートワークを見つけるために多くの時間を費やした。その難しさというのは、多くのアイデアを目にし、さまざまなデザイン案が練られ、考えれば考えるほど、簡単ではなくなっていくこと。

 最近は、うまく合いそうなものを見つけたら、それに決めることにしている。今回はデザイン・プロセスの初期に、2つか3つのアイデアを提示されて、その中から選んだ写真がすぐにピンときた。「これは本当にさまざまなレベルで作品と合致しているし、語れることもたくさんある」と思った。その後、この写真と泳ぐ人にまつわるストーリーが、イギリスのある新聞に掲載されていたことを知った。実に興味深い記事で、僕たちが考えていたアイデアと概ね合っていた。そうやってあのアートワークに決定したんだ。『ザ・バラード・オブ・ダーレン』というのも、かなり珍しいアルバム・タイトルだよね。こんなタイトルはかつて聞いたことがなかった。

――ダーレンという人物が誰なのか真っ先に気になります。

デイヴ:その通り。ダーレンというのはイギリスでは労働者階級の名前で、さまざまな意味合いを持っている。1970年~1980年代にかけてよく聞いた名前で、学生時代には必ずクラスにダーレンという子がいた。労働者階級の人の名前といえば、ダーレンやテリーという感じで、ちょっとしたジョークで労働者階級の人を指すときに使われた名前でもあった。でもダーレンは、もはや一般的な名前ではない。だから、デーモンが『ザ・バラード・オブ・ダーレン』に込めた意味は、はっきりしていないと思う。「いったいどういう意味なんだろう?」「ダーレンとは誰なんだ?」「一体どうなっているんだ?」って感じで。元々アルバムは『ザ・バラード』というタイトルで、1曲目を「ザ・バラード・オブ・ダーレン」にする予定だった。でも入れ替えたのは、アルバムを通じてダーレンの人生について知るうちに、こういうことかとハッとさせられるからだ。そうじゃないと、わざわざバンドのことを知ろうとしないよね?最近のポップ・ミュージックでは、すべてが公だ。漫画のように誇張されたバンド・メンバーの個性が、誰の目にもわかるように書き出されている。「こいつはチーズが好きなお調子者だ」みたいに(笑)。

――アレックスのことですかね(笑)。

デイヴ:そんな風に人をチープに表現するのは馬鹿げているけど、今はそれが当たり前になっている。僕らが子供の頃は、バンドについてもっと知るために努力しなければならなかったし、本当に知りたいと思うファンだけの隠された情報だった。でも最近は、プレス・リリースの裏側にそういった情報がすべて記載されている。作品についてもっと知りたいという人の動機は何だろう? ポップ・ミュージックが味気ないナンセンスに成り下がってしまった今、それを払拭して人々を再び惹きつけるにはどうしたらいいのだろう。僕が今一番興味を持っているのはそこなんだ。

◎リリース情報
『ザ・バラード・オブ・ダーレン』
2023/7/21 DIGITAL RELEASE


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