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<ライブレポート>虎狼を飼いならし、観客と深く思いを通わせたEveのアリーナツアーファイナル suis(ヨルシカ)もサプライズ登場

 Eveが自身最大規模となるアリーナツアー【Eve Arena Tour 2023 虎狼来】の神奈川・ぴあアリーナMM公演を、2023年8月26日、27日に開催した。

 「虎狼来」という楽曲について、Eveは「心の奥底に眠る虎狼を飼いならし、欲深く、貪欲に」と公式コメントを寄せていた。同曲をタイトルに冠した東阪アリーナツアー【Eve Arena Tour 2023 虎狼来】のツアーファイナルとなる、ぴあアリーナMM公演2日目。なぜ人々はEveの音楽とその表現に魅せられるのか、その核心に近いものがこのライブには存在していた。

 ステージ背景に広がる巨大なLEDモニターに、ソファとラジカセの置かれたテーブルが描かれた、とある部屋の一角を切り取ったアニメーションが流れる。そのカセットが裏返しにされると「ファイトソング」のイントロが鳴り、Eveの登場とともに銀テープが華やかに会場を舞った。サビ終わりの《迎えてくれよ 拍手喝采で》という歌詞からすかさず観客が高らかにクラップを鳴らすという一幕も、ステージと客席の精神的な距離の近さを感じさせる。1曲目からたちまち、会場は爽やかな空気感に包まれた。

 すると間髪入れずに「虎狼来」へとつなぎ、モニターにはアニメーションスタジオ・MAPPA所属のクリエイターであるLigtonが手掛けたミュージックビデオが流れる。ファッショナブルでいてどこか不完全な、若者ならではの等身大の生き様が描かれたアニメーション。登場人物のふたりが手を取り合って街を駆け出すシーンは、Eveが観客の手を取って新しい世界に連れ出すような軽やかさを想起させた。

 その後も巨大モニターには曲中に様々な街の映像が流れた。彼はこれまで様々な人間の生き様や、命や心の行先を楽曲にしている。そのシンボルが、人間の生活と歴史の集合体とも言うべき“街”であり、ミュージックビデオでもその情景が描かれ続けてきた。Eveが描く世界はどこか遠い惑星やパラレルワールドの出来事のようで、「自分の手の届かない場所で生きている人々も、自分と同じような感情を抱えている」というロマンや安心感を得られることが彼の表現の魅力のひとつでもあったように思う。

 だがこの日のライブは、Eveの世界と自分が生きている現実世界の境界線が曖昧になる瞬間が多々あった。その理由は映像の解像度の高さだけでなく、彼が身を震わせながら今この瞬間に観客の目の前で、歌声でもって楽曲に命を吹き込んでいるからだろう。ここで思い出したいのが、冒頭に記載した「心の奥底に眠る虎狼を飼いならし、欲深く、貪欲に」という彼の言葉だ。Eveの表現の根幹はそのままでありながら、以前と比較してリアリティ性、つまりEve自身の存在がファンタジー性を上回っているのではないだろうか。そんな空間を五感で味わいながら、自分はこの世界でどうやって生きていこうかと思考に没頭する時間は、非常に刺激的であり心地よくもあった。

 Eveが花道の先にあるサブステージに登場するとスローナンバー「杪夏」へ。寂寥感に光を灯すような歌とサウンドスケープのなか、終盤でステージ両端のモニターが灯り、太陽が輝く海面の映像がパノラマに展開する。続いての「蒼のワルツ」ではモニター全面に海や空が広がり、曲の世界をダイナミックに彩った。「このツアーでは花道を作ってもらって、みんなの近くに来ることができました。こういうセット、アリーナっぽいよね」と笑ったEveは「この時間もあっという間に終わってしまうから、僕と皆さんとでこの時間を共有できたらなと思います」と告げるとメインステージに戻り、伸びやかなポップソングやギターロックナンバーなどで観客と気持ちを通わせた。

 バンドインストを挟んでステージに再登場したEveは衣装チェンジをして拡声器を持ち初期曲「デーモンダンストーキョー」を歌唱。「バウムクーヘンエンド」では客席からもシンガロングが湧き、“君”と“僕”の関係を歌った同曲でさらなる一体感を増していく様子はとてもすがすがしく美しい。その勢いのまま「廻廻奇譚」になだれ込んで爽快な緊迫感で鮮やかに駆け抜けると、その後も開放感のあるポジティブなムードを迸らせたまま本編を締めくくった。

 アンコールにはヨルシカのボーカリスト・suisがサプライズでゲスト出演し、2021年にリリースしたコラボシングル「平行線」をライブで初披露。Eveはようやく同曲で共演できた喜びを語り、suisも普段ヨルシカがアンコールをせず、ライブで歓声が起こらないことに触れ、様々な初体験に高揚した様子を見せた。そしてsuisが「この曲のMVを観たときに運命みたいなものを感じたんです。だからいつか一緒に歌いたいと思っていました」と語り、suisのリクエストで「僕らまだアンダーグラウンド」をツインボーカルでパフォーマンス。気心知れた両者ならではの、健やかなコンビネーションで会場を包んだ。

 suisがステージから去ると、Eveは「もうちょっとやっていってもいいですか?」「終わりたくないから喋っちゃうね。終わりたくないね」と名残惜しそうに笑う。そして観客の歌声や笑顔からエネルギーをもらえることへの感動を示した。音楽を媒介にして観客と丁寧に時間を共有したEveは、アンコール曲をすべて終えると「次はたまアリでお待ちしてます」と告げステージを後にした。

 彼が語った「たまアリ」とは、11月25日と26日にさいたまスーパーアリーナで開催される自身最大規模のライブ【Eve Live 2023『花嵐』】である。心の奥底に眠る虎狼を飼いならすことで観客とより深く思いを通わせた彼は、この秋どんな花嵐を吹かせるのだろうか。アーティストとしての過渡期の最中にいるEveは、ふくよかなつぼみのように可能性に満ちていた。

Text:沖さやこ
Photo:Takeshi Yao

◎公演情報
【Eve Arena Tour 2023 虎狼来】
2023年8月26日(土)27日(日)
神奈川・ぴあアリーナMM

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