Kitri、新ライブシリーズで表現した“Blanc”と“Noir”な表情

2023年8月4日 / 17:00

『Kitri Live Tour 2023 SS “Blanc Noir” #1』2023年7月23日 at 上野YUKUIDO工房(Photo by Susumu Miyawaki) (okmusic UP's)

 デビュー5年目を迎えたKitriが、新たなライヴシリーズ『Blanc Noir #1』を東京と京都で開催。東京公演は7月23日(日)に上野YUKUIDO工房で行なわれた。

 本公演は2部制で、1部の“Melody Blanc”では“白い、空白、汚れのない”という意味にちなんで柔らかな音色を届け、2部の“Melody Noir”では“黒い、暗闇、毒のある”という意味に沿ってソリッドな音色で演出する。

 会場は廃工場を再生した工房で、イベントがない日には作業場として使われている。レンガや打ちっぱなしのコンクリートで仕上げた壁や、工場の名残りがある大きな鉄扉、配管が剥き出しの照明――。2019年から開催してきた『キトリの音楽会』でのチャペルやホールなどの会場とは違った無骨な空間に、早くも新たなライヴの幕開けを感じた。

 15:00開演の1部“Melody Blanc”にふたりは真っ白なワンピース姿で登場。1曲目の「実りの唄」ではMona がピアノをどっしりとした音で奏で、Hinaが “ピカソボウ”という小さな弓のようなものでギターを鳴らし、スパニッシュな音色が響く。原曲はピアノと打ち込みで季節の移ろいを表現しているのだが、この日の印象は夏のジリジリとした暑さを帯びたようなものだった。

 ピアノとギターでのんびりと聴かせた「リズム」、ピアノとボンゴで水滴が弾ける軽やかさを演出した「雨上がり」など、どの楽曲も原曲から大胆にアレンジを凝らしていて、全体的にスローテンポで展開。原曲では温かみのある「Akari」は、Monaによるなだらかなピアノの前奏で始まり、Hinaが鳴らすコンサーティーナの伸びやかな音と合わさって、忙しない街に自分だけが取り残された寂しさに包まれる。無常を歌った歌詞により忠実なアレンジだった。

 手拍子が似合う「real」は連弾の掛け合いも面白い楽曲だが、“Melody Blanc”ではゆったりと大きくリズムを刻み、間奏の二重唱で広がる幻想曲じみた不思議な世界観に陶然とした。工藤静香のカバー「嵐の素顔」では重みのあるピアノで躍動感を掻き立て、ボンゴによってラテンっぽさも加えながら、雰囲気をガラリと変える。曲の盛り上がりに果敢に立ち向かうMonaの歌声と、Hinaの落ち着いた低音パートのハーモニーは聴き応え抜群。間奏だけをMonaとHinaの連弾で披露するパフォーマンスも洒落ており、本公演はこれまでとは違ったKitriを見せるライヴシリーズとは言え、代名詞である連弾の迫力はひと際光っていたように思う。

 今の季節にぴったりな「透明な」は海や晴天を連想する楽曲。この工房でも開放感を呼ぶ旋律で、波打つように抑揚をつけたピアノと、囁きに似た声で歌いつながれる歌詞に、涼しい風が吹き込むのを感じる。“Melody Blanc”というテーマそのものを表す澄み切った演奏にうっとりとため息が出た。

 新曲「ココロネ」ではHinaが指を鳴らしてリズムをとり、ダンサブルな原曲とは変わって重みを効かせたアレンジで不安定な心の揺れを表現。また、これまでにさまざまな楽器を使って披露してきた「矛盾律」はMonaの清らかな伴奏から始まり、今回はピアノ、ボンゴ、ギターのシンプルな構成で、大海原を航海するような豪快さを魅せる。最後は歌メロでそっと締めていたのも新しい。そして、さわやかながらもHinaによるコンサーティーナのトーンでノスタルジックに仕上げた「ヒカレイノチ」、アンコールで披露された「青空カケル」「Lento」も柔らかな心地良さがあった。

 ふたりが奏する楽器そのものの音を堪能した、言わば無添加な“Melody Blanc”公演。楽曲に込めた想いを活かしたものもあれば、原曲のイメージを剥がして新たな顔を見せた曲もあり、彼女たちがいかにKitriの音楽を客観的に捉える視点を持っているかを体感した時間だった。

 18:00開演の“Melody Noir”では黒いワンピースでステージに現れ、それぞれ1台ずつのシンセサイザーに加え、Monaはキーボード、HinaはMPC(サンプラー、シーケンサー、パッドコントローラーが一体となった電子機器)を使用。今までにないふたりともが立った状態で、正面を向いた構成が新鮮だった。

 1曲目に演奏された「LIFE」の原曲は、“運命”“歓喜の歌”などのフレーズを取り入れた嵐のように去っていく曲だが、“Melody Noir”ではHinaが打ち込む軽やかなドラムビートと、Monaがピアノで鳴らすどこか冷淡なメロディーでクールな出来栄え。「細胞のダンス」では原曲のおどろおどろしさを一変させ、メロウなムードを醸し出す。間奏にはほのかに連弾のメロディーを思わせるエレクトロアレンジも加わり、日が陰ってきた時間帯にもよく合っていた。

 “Melody Noir”公演で意外な選曲だったのは「シンパシー」。TVアニメ『古見さんは、コミュ症です。』のエンディングテーマとして書き下ろしたもので、教室の中での緊張感が描かれている曲だからこそ、どちらかと言えば1部の“Melody Blanc”に当てはまるような純情なイメージがあったが、この日は夜公演らしいメランコリックでしっとりとした情調が引き出されていた。「矛盾律」はモゴモゴと動くような怪しげなベース音から始まり、クリック音っぽいものが終始一定のリズムを刻み続け、そこにふたりの優しい歌声が重なるという、不気味さのある広がりを魅せる。

 ほろ苦いアレンジで届けた大澤誉志幸のカバー「そして僕は途方に暮れる」、音数を限りなく減らし、たゆたうような歌声をメインに聴かせた「バルカローレ」と続いていき、「NEW ME」ではMPCから出すノック音でリズムを取り、ギターリフがスパイス的な役割をしつつ、間奏では息ぴったりの連弾でユニゾンを響かせる。「ココロネ」は原曲に近いアップテンポで演奏され、疾走感もあって目まぐるしい展開に引き込まれた。

 ライヴで定番の「矛盾律」、最新曲「ココロネ」に並んで、1部と2部の両方で選曲されたのは“架空の地域の民謡”として作られた「実りの唄」。美しいコーラスをじっくりと聴かせる曲だが、“Melody Noir”ではどこか活き活きとした歌声で、間奏のコーラスにもよりダイナミックさがあった。力強く高らかな歌声でKitriの意気込みや願いを示唆するようだった「羅針鳥」然り、“Melody Noir”はシンセやMPCで音像を華やかにするのではなく、ふたりの歌をよく聴かせるための編成だったように感じる。

 ふたりが今までにない角度から趣向を凝らし、優れたアレンジ能力と底知れない想像力で楽曲の可能性を広げていくライヴシリーズ『Blanc Noir』。長く愛される楽曲がたくさんのアーティストにカバーされるのと同じく、この企画はKitriの楽曲に対するふたりの愛情表現に思えた。

撮影:Photo by Susumu Miyawaki/取材&文:千々和香苗(music UP’s /OKMusic)
『Kitri Live Tour 2023 SS “Blanc Noir” #1』

2023年7月23日 at 上野YUKUIDO工房

<セットリスト>

■Melody Blanc

1.実りの唄

2.リズム

3.雨上がり

4.Akari

5.real

6.嵐の素顔(カバー)

7.透明な

8.ココロネ

9.矛盾律

10.ヒカレイノチ

<ENCORE>

1.青空カケル

2.Lento

■Melody Noir

1.LIFE

2.細胞のダンス

3.シンパシー

4.矛盾律

5.そして僕は途方に暮れる(カバー)

6.バルカローレ

7.NEW ME

8.ココロネ

9.実りの唄

10.羅針鳥

<ENCORE>

1.水とシンフォニア

2.Dear
【ライブ情報】
『緑光憩音祭』(DAY3)

8月09日(水) 東京・青山銕仙会能楽堂本舞台

開場18:30 開演19:30

出演:コトリンゴ / Kitri

https://www.moonromantic.com/post/ryokkoikuonsai

『Kitri 名曲カヴァーコンサート “Re:cover”』

11月10日(金) 東京・東京文化会館 小ホール

開場18:00 開演18:30

https://www.t-bunka.jp/

<チケット>

※ローソン先行:8/1(火)〜8/10(木)

(Lコード:74120)

https://l-tike.com

※一般発売:8/25(金)10:00〜


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