灼熱の夏を生き延びるための処方箋のような5曲

2023年7月31日 / 18:00

灼熱の夏を生き延びるための処方箋のような5曲 (okmusic UP's)

生きるだけで体力も気力も消耗する酷暑。殺人的な気温と暴力的な日差しを避け、まとわりつく湿気に息切れしながらキーボードを叩く日々が早く終わればいいと願いながらも、“日本の夏”というキャッチコピーが生まれるくらいに日本の夏が特別ならば、命すら危ぶまれる生活を愛しむ術があればいいとワガママをねだるようになるものです。今回は、そんな季節を乗り越えるためのブーストをかけてくれる音楽をご紹介します。ほんの束の間の清涼感をを与えてくれるもの、茹だる昼から午後の倦怠感を掬い上げてくれる作品まで、濃度と彩度の異なりを楽しめるグラデーションを織り成しながら。
「Escalator」(’23)/Sparks

過日の来日公演で、70歳過ぎとは思えないエネルギッシュさと、50年以上のキャリアを積み重ねないと実現できない完成度が共鳴するパフォーマンスで、美しい非現実へと誘ってくれたメイル兄弟に敬意を込めて。最新アルバム『The Girl Is Crying In Her Latte』に収録されている「Escalator」は、昇降するエスカレーターのゆったりとした速度と、上下運動の最中に無に近づく意識の偏りを表現したような、浮遊感とトリップ感が漂うシンセポップ。ビョークをして「あれは憑依」と言わしめたラッセルの瑞々しさと老練のムードを宿したヴォーカル、ロンの反復への惜しみない愛が生み出す演奏の最強のタッグは、真の兄弟にして究極の音楽のパートナーがナチュラルにお互いを求め合う奇跡の凄まじさに何度でも気づかせてくれる。
「マヨイガ」(’21)/羊文学

生き急いで小走りを止められない心の迷いをそのまま抽出したかのようなテンポで口火を切る「マヨイガ」は、永遠にも似た長さの夏休みを目いっぱい満喫するために、早朝から真夜中まで忙しなく駆けずり回った子供の頃を思い出させる。ざらついた太いギターの和音が束になって光芒へと変わるイントロ、踵から爪先へと移動した体の重さが一瞬地面を離れるまでの抑揚を刻み、やがて大きく広がる波紋の円を描写するギターとベースとドラムのグルーブが心を加速させ、絶大な包容力と肯定感をもって《世界を愛してください》と歌い上げる塩塚モエカ(Vo&Gt)の声が腕を引っ張り上げる。この季節は嫌なことばかりではなく、見落としてしまいそうな希望がそこら中に散らばっていたはずだと、明るく温かなシグナルを放ち続ける1曲。
「Headhunters(feat. Dos Monos)」 (’21)/SMTK

石若 駿(Dr)、マーティ・ホロベック(Ba)、細井徳太郎(Vo)、松丸 契(Sax)からなるSMTKは、日本ジャズ界の現在を更新すると同時に、2020年代のオルタナシーンを刷新し続ける4人組バンド。盟友Dos Monosとのコラボ曲「Headhunters」は、「確かな技術と知識に裏打ちされた凄腕ジャズミュージシャンたちがロックの“衝動”までモノにしてしまったら、危ういほどに最高で最強であるほかない」と証明したスリリングな作品だ。休符の強さで引っ張るリズム隊の鉄壁さ、星屑のように瞬くギターとサックスの自由で巧緻な配置、黒煙が立ち込める重心低めのフロウとリリックの相思相愛の絡み合いに息を飲み、体ごとぶつかるしかなくなってしまう。肌を焦がす太陽の光、わずかな安らぎの時を与えてくれる宵闇にも似た、逃れようのない魔術がたっぷり編み込まれたこの曲に、飲み干されてしまう幸福と恍惚を味わってほしい。
「口の花火」(’23)/長谷川白紙

酩酊感と覚醒感が同時にギンギンと刺激される矛盾をいとも容易く成し得て、胸の内と脳内に花畑が咲き乱れるサイケデリアに昏倒せざるを得なくなる吸引力をもった鬼才にして異能の音楽家・長谷川白紙。死生観とエロティシズムが混在した摩訶不思議なリリック、トラッドかつプリミティブだが踊るには複雑怪奇すぎるリズム、性別/年齢/国籍を超越した謎だらけのヴォーカル。あらゆる情報があふれるほどに化けの皮が増殖していき、目にも止まらぬ早さで実像が遠ざかり、あとには作品しか残らない。宇宙よりも深海よりもミステリアスで、夢よりも魔法よりもポップで、めくってもめくっても底知れない可能性が潜んでいる。これほどまでに正体が気がかりになってしまう音楽家が、それ以上に答えと計算式を明らかにしないまま封じ込めてしまいたくなる音楽があるだろうか。
「星の巡りが悪いなら」(’21)/ 市川 空

市川 空のアルバム『原石!!!!!!』が2023年の年間ベストに輝かないなら、全ての音楽ランキングには意味がない。収録曲「星の巡りが悪いなら」は、空の色が沈んでいく海、海の裏側から見上げる空が目まぐるしく反転を繰り返すかのような変拍子に心臓を鷲掴みにされ、賑やかな悪夢にも似た歌詞のファンタジーとリアリティーの狭間に頭の中身がたゆたう一曲。躍動的ながらも影のない遠浅のラインを引くベース、縦軸と横軸に階調を刻む複雑で流麗なピアノ、つむじ風を想起させる速さと爽快感が吹き抜けるハイトーンヴォイスの融点がシンクロしていくまでのドラマチックな展開が圧巻。原石”と冠してしまうにはあまりに研ぎ澄まされ、“宝石”以上の煌めきをまだまだいくらでも隠し持っている才能が弾け飛ぶのは、もう間もなく。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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