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CBGBよりも古い歴史を持つ“マクシズ・カンザス・シティ”の誕生から終焉までを、関係者のインタビューや当時のライヴ映像、アニメーションで辿ったドキュメンタリー映画『ナイトクラビング:マクシズ・カンザス・シティ』が現在公開中だ。The Velvet UndergroundやNew York Dollsの拠点であり、アンディ・ウォーホル、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、ルー・リード、ジョン・レノン、ミック・ジャガーら錚々たる表現者に愛されたそこは、何の制度にも縛られない反逆児たちが、自身を抑圧する全てから解放されるひと時を過ごす場所であった。出自、肌の色、ジェンダー、外見、年齢をも超越して、ただただ自分の“かくあるべし”姿のまま音楽に身を委ねる瞬間の連なり。奇跡と呼ぶにはあまりに危うく、儚い伝説的ナイトクラブへのリスペクトを込めて。
「Personality Crisis」(’73)/ New York Dolls
幕開けはトッド・ラングレンがプロデュースしたデビューアルバム『New York Dolls』の冒頭を飾る「Personality Crisis」。肉食動物の咆哮を思わせるヴォーカルがシャウトとともに鬱屈とした思いを吐き捨て、ギターとベースは行き場と手綱の掴み方を忘れた初期衝動のように暴走し、空気を切り裂くドラムが疾走感に拍車をかける。遊び心たっぷりのアレンジは、聴く者の重力を奪ってフロアーで踊り続けるための引き鉄。メンバーや中性的なビジュアル、目にした者の夜の怪しさと騒乱へと誘うジャケットのアートワークと反して、ガレージロックの泥くささとグラムロックのエレガンスとゴージャス感が共振する一曲。
「Take A Chance On Me」(’79)/ Sid Vicious
続いては、Sex Pistols解散後のシド・ヴィシャスがヴォーカル&ベースとしてフロントマンを担ったバンドの楽曲から、劇中にもライヴ映像が使用されている「Take A Chance On Me」を。血まみれになった傷だらけの宝石のようにざらついたボーカル、地獄の門番を薙ぎ倒して乱気流の如く暴れまくるベースの低音が鼓膜を叩きながら心臓の鼓動とシンクロする恍惚感が堪らない。火花のように燃え盛るギターは筋肉に雪崩れ込んで強張った体を支配し、音の残響が消える前に新しい音の息吹が矢継ぎ早に放たれるドラムのダイナミックな深さとタフネスな重さが、フロアーの客を誰ひとり地蔵にさせまいと言わんばかりの浮遊感を演出する。刹那的に生きたシド・ヴィシャスの強く、熱く、巨大な命のありようが刻みつけられているようだ。
「Radio Ethiopia」(’76)/ パティ・スミス
パティ・スミスの同名アルバムに収録されている「Radio Ethiopia」は、万華鏡のように変化する一音一音が織りなす空間の魔法が蠱惑的に鳴り響く、意識のありかを異なる次元へと誘うサイケデリックな10分超の長尺曲。そのギターは宇宙の最果てで点滅する信号にも、黒雲のど真ん中で唸る雷鳴にも、水色の炎のようにタフネスでクールで孤高であり続けるパティ・スミスの歌声を追走する月にもなる。そのベースはエキゾティックでトラッドなドラミングに寄り添う影にも、蛇行しながら光を飲み込む闇にも、全てのリスナーの脈拍を地の底から絡め取ろうとする地鳴りにもなる。音楽は魔法ではないけれど、音楽が魔法でなかったら、魔法とは一体なんなのだろう。
「Hangin’ Out」(’73)/ Elliott Murphy
春が終わりを告げ、じっとり重苦しい湿気と、殺傷能力の高い夏の日差しが容赦なくざむざむと降り注ぐ夏へと移り変わりつつある今の季節にこそ聴いてほしいさわやかな楽曲。トーキングブルースを想起させる“歌”と”対話”の狭間を行き交う朗々としたヴォーカル、軽く跳ね上げて立体感を描くリードベース、柔らかなスナップから放たれる無重力のドラムの打音が心地良く、キーボードの煌びやかさがメロウなムードを醸し出す。間奏パートの自由奔放に浮上するトロピカルなギターの音色は、何にも束縛されることなく、全ての制約を受けることなく、心のままに生きることが許されたマクシズ・カンザス・シティの生涯をハイライトで追体験できるような魅力に満ちている。何の制約も受けず、誰からも束縛されることなく、心のままに生きられた音楽の住処の匂いがする。
「Max’s Kansas City」(’76)/ Wayne County & The Electric
最後に紹介するのは、タイトル通り“マクシズ・カンザス・シティ”で夜毎繰り広げられるライヴと、そこに集う人々のありようを綴ったこの曲。ゴツゴツした鉱石のようにざらついた爆音のギター、ベース、ドラムのシンクロ。定められた運命を自分自身の力で見事に変えてみせたウェイン・カウンティの跳ねるファルセットが翼のように広がり、グラマラスな低音が骨の髄まで痺れさせるヴォーカル、燃え尽きることのない衝動と情熱のままに魂を焦がし続けるぶっとさが堪らない。音と音の隙間すら“音楽”と呼んでしまいたくなるようなアティチュードとプライドに満ちた美しさは、あらゆる事情を脱ぎ捨ててマクシズ・カンザス・シティに集い、夜を終わらせまいと歌い、踊りを止めなかった全ての人々の夢幻に触れられるような錯覚に陥らせる。
TEXT:町田ノイズ
町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。
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