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<ライブレポート>ボブ・ディラン来日公演に見た、今なお進化し続けるミュージシャンの凄み

 ボブ・ディランのワールドツアー【”ROUGH AND ROWDY WAYS” WORLD WIDE TOUR 2021 – 2024】の日本公演が2023年4月6日の大阪フェスティバルホールからスタートした。大阪、東京、名古屋で計11公演を予定している今回のツアー。2016年の【ノーベル文学賞】受賞後の来日は、2018年のフェス出演はあったもの単独公演としては初、じつに7年ぶりとなる。このレポートでは、東京公演初日の4月11日、東京ガーデンシアターで行われたライブの模様をお届けする。(以下、ネタバレあり)

 ライブを終えたボブ・ディランがステージ前に出てメンバーと共に客席を見渡すと、観客は総立ちとなりスタンディング・オベーションで彼とバンドを讃えた。1時間40分、全17曲。ライブ中、着席してジッと歌と演奏に聞き入っていた人々の思いが1つになってステージに向けられた瞬間だった。

 開演前、東京ガーデンシアターにはツアーグッズを求める人々と入場列でごったがえしていた。隣接する有明ガーデンの店内BGMからはボブの名曲が聞こえてきて、気分を盛り上げている。尚、今回の来日公演では、場内での携帯電話の使用は禁止されている。携帯電話は入り口にて主催者が用意したYONDRと呼ばれるロック付きの専用ポーチに収納してから入場した。会場には意外と幅広い年代のお客さんが集まっている様子で、ミュージシャンの姿も多かった。

 開演時間の19時になると、クラシック音楽が流れ、ボブと5人のミュージシャン(ボブ・ブリット(Gt)、ダグ・ランシオ(Gt)、トニー・ガーニエ(Ba)、ジェリー・ペンテコスト(Dr)、ドニー・ヘロン(ペダルスティール、バイオリン他))がステージに上がるとすぐに音を出し始めて、ギターの下降するイントロに導かれて曲が始まった。ボブが正面を向きピアノを弾きながら歌い出したのは、「川の流れを見つめて(Watching The River Flow)」。スワンプ・ロック調の演奏で楽器が絡み合いながら、さりげないセッションをするようなスタートだ。ステージは薄暗く、客席は明るいままライブは続いていく。ボブは時折、力強く鍵盤を叩きながら歌う。しゃがれたシブい歌声という先入観を持ちがちだが、じつにクリアで若々しく力強い歌声に驚かされた。

 アップライトベースが使われた「アイ・コンテイン・マルチチュード」を語るように歌い終えると「Thank you!」とひと言。重厚感のあるブルース「偽預言者(False Prophet)」ではしゃくり上げるように感情の籠ったボーカルと鍵盤の連打、ブルージーなギターの掛け合いが熱を帯びる。選曲は2020年にリリースされた39作目のオリジナル・アルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ』が中心にそれ以外の曲が挟み込まれる構成となっていた。アコースティック・ギターとバイオリンの音色で彩られた「マスターピース(When I Paint My Masterpiece)」では、サビの“masterpiece”が聞こえるたびに歓声が起こり、エンディングでハーモニカを吹くボブに大喝采が贈られた。ギターのアルペジオが印象的なスローナンバー「ブラック・ライダー」ではダークなムードに包まれて、ステージ上を凝視しているとなんだか夢の中にいるような不思議な気分になった。

 歌い終えると、本日2回目となる「Thank you!」から「マイ・オウン・ヴァージョン・オブ・ユー」へ。<I’ll take Scarface Pacino and the Godfather Brando>と、映画『スカーフェイス』のアル・パチーノと『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドの名で韻を踏んだり、<I’m gonna make you play the piano like Leon Russell>と、この日歌われた「川の流れを見つめて」「マスターピース」のプロデューサーでもあったレオン・ラッセルが出てくる歌詞、“自分だけのあなたを作りたい”と歌うテーマが印象的だ。

 「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」では、ボブがピアノを弾きながら歌い出すと客席からは大きな拍手が沸き起こる。ギターの強烈なリフからバンドが堰を切ったように音を出して、この日一番の強いリズムで演奏が続く、と思いきや、しばらくするとテンポを落としてエンディングへ。息の合ったバンドのアンサンブルが楽しめた。曲を終えると3回目の「Thank you!」から時折笑いながらメンバー紹介。なんだかとてもご機嫌の様子で、観ていて嬉しくなった。最後にベースのトニー・ガーニエが紹介されると、あちこちから「トニー!」と声援が飛んでいた。

 「キーウェスト(フィロソファー・パイレート)」でひと際力の籠った歌声、緊張感のある演奏が10分ほど続き、「ガッタ・サーヴ・サムバディ」ではハードな鋭いギターリフを中心とした演奏で煽り、アップテンポな「ザット・オールド・ブラック・マジック」でさらに溌溂とした歌声で楽しませるなど、緊張と緩和の連続で、まったく飽きさせることなくライブは終盤へ。スローナンバー「マザー・オブ・ミューズ」、オリジナルの小気味良いシャッフルとはかなりテイストの違うアレンジによる「グッバイ・ジミー・リード」から、最後に歌われたのは、1981年のアルバム『ショット・オブ・ラブ』のラストを飾る「エヴリィ・グレイン・オブ・サンド」。言葉1つ1つをゆっくり置くように丁寧に歌い上げて、万雷の拍手の中でステージを終えた。

 1978年の初来日から45周年、幾度となく日本公演を行ってきたボブ・ディラン。この日のライブには、「風に吹かれて(Blowin’ In The Wind)」「ライク・ア・ローリング・ストーン」「天国への扉(Knockin’ On Heaven’s Door)」といった所謂超有名な代表曲たちは演奏されていなかった。また、最新アルバム曲でさえ大きく変化を遂げているなど、過去の自分に捉われることなく81歳の今なお進化し続けるミュージシャンの凄みがそこにあった。来日公演は最終日の4月20日、愛知県芸術劇場まで続く。【ノーベル文学賞】受賞という話題や決して安くはないチケット代など、敷居が高いイメージに躊躇する音楽ファンもいるかもしれないが、多くの観客が彼の歌声を求めて集まる理由をぜひ体感してみてほしい。

Text by 岡本貴之

◎セットリスト
【Bob Dylan<”ROUGH AND ROWDY WAYS” WORLD WIDE TOUR 2021 – 2024>】
※2023年4月11日(火)東京ガーデンシアター
1. Watching The River Flow
2. Most Likely You Go Your Way (And I’ll Go Mine)
3. I Contain Multitudes
4. False Prophet
5. When I Paint My Masterpiece
6. Black Rider
7. My Own Version Of You
8. I’ll Be Your Baby Tonight
9. Crossing The Rubicon
10. To Be Alone With You
11. Key West (Philosopher Pirate)
12. Gotta Serve Somebody
13. I’ve Made Up My Mind To Give Myself To You
14. That Old Black Magic
15. Mother Of Muses
16. Goodbye Jimmy Reed
17. Every Grain Of Sand

◎公演情報
2023年4月6日(木)~8日(土)大阪フェスティバルホール
2023年4月11日(火)、12日(水)、14日(金)~16日(日)東京ガーデンシアター
2023年4月18日(火)~20日(木)愛知県芸術劇場
チケット:GOLD 51,000円(グッズ付き)、S席26,000円、A席21,000円(すべて税込)
※未就学児(6歳未満)入場不可

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