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上坂すみれが3月18日と19日、東京・立川ステージガーデンにて【SUMIRE UESAKA LIVE 2023 TALES OF SUMIPE 運命の書/同人の書】を開催した。
2013年4月リリースの『七つの海よりキミの海』で声優アーティストとして音楽活動を始め、今年ついに10年を迎える上坂。今回のライブは、各日でサブタイトルを変えながら行なわれたのだが、なかでも本稿では2日目にあたる「同人の書」公演の模様を振り返りたい。
上坂のライブでまず圧巻なのが、客席の圧倒的な統率力。数多くの声優アーティストと比べてもその迫力は段違いなのだが、今回は4年ぶりの歓声有りとのことで客席のやる気もひとしお。特に3曲目「▽をつければかわいかろう」では、コール&レスポンスで自らを褒めちぎってもらうパートがあるのだが、その勢いたるやよくメディアの記事で書かれる“嵐のような”なんて形容表現では収まりきらないもの。もはや“轟き”だ。これぞ、4年ぶりに大歓声を巻き起こしてやるという同志(=ファン)の執念である。その様子に笑い声を上げる上坂は、もはや彼らにとってガソリンのような存在だ。
ちなみにこの後、上坂は「みんなが動いて喋ってる」「同志は実在したね!」と、久しぶりの歓声に感動したとコメント。この数年の規制により発声なしでの盛り上がり方をマスターし、あらゆる方向で鍛錬を重ねたファンこと“同志”に「最強のオタクとなりし、お主ら」と最上級の褒め言葉で称えていたくらいだ。
そんな彼らのために、この10年間を振り返り、想いを巡らせるような名曲揃いのセットリストを用意してきたという。あまりのカロリーに「おなかすいてもいいですか?」と、ライブ後の心配をしていたのがかわいらしい。
ライブ序盤ですでに“わからせられた”のだが、上坂は人柄でも、音楽性でも、本当にミクスチャーな存在だった。上坂すみれ×◯◯の掛け算には、無限の可能性がある上に、ここに何を当てはめても極上のエンタメになってしまう。話は少し遡るのだが、2曲目「筐体哀歌」では、ロック~メタルテイストの演奏に、きゃるんとしたキュートな歌声を披露したかと思えば、急にポエトリーな歌い回しに変えてみたり、語尾を上げるテクニカルかつセクシーなフロウへと変幻自在にアプローチをしていた。
また楽曲外でも、上坂が最初にステージに登場した際には、プロレスや格闘技などの実況の第一人者であるアナウンサー・清野茂樹による、リングイン調の臨場感マックスな実況が。その後のMCで、上坂本人こそ「(プロレスラーの)内藤哲也になった気持ち」と振り返り、客席にいる諸先輩人の笑いをかっさらい、若年層の頭の上にクエスチョンマークを浮かばせていた。
そのほか、前述の「最強のオタクとなりし、お主ら」発言のほか、“我田引水”の四字熟語にかけて、全員で給水する時間を“引水タイム”と称し、そこから本来であれば客席から聞こえてくるはずの「お水おいしー?」を自ら投げかけた(声優側から尋ねられたのは人生初だ)。さらに、ライブ終盤に同志全員が健やかでいることが自身の願いであると語ったところから、客席を祈り巡った際に「いのぺ~」と、レーベルメイトである水瀬いのりの愛称を勝手に持ち出す場面も。
ここまで記した音楽性、リングアナを迎えた演出、さらにはMCでの発言然り、あらゆるジャンルや事柄を引用し、同じテーブルに並べてミックスしてみせる。しかもそれが毎度、間違いなく面白い。あらゆる要素が上坂すみれの人柄や趣味嗜好を通じて混ざり合ったエンタメとして楽しめるのが、彼女のライブ空間なのである。これこそ、本稿を通して最も伝えたい部分なのだ。
そして、近年の音楽活動の充実ぶりと成熟を感じたのが、2022年10月発売の5thアルバム『ANTHOLOGY & DESTINY』収録曲を立て続けに披露した中盤ブロック。順に、シティポップ系譜にある歌謡曲「海風のモノローグ」、90年代J-POPな「City Angel」、さらには「Car▽Wash▽Girl」と、今回のライブでも少し表情を変えた、ロックナンバーとは一線を引く楽曲が並ぶ形となった。
なかでも「Car▽Wash▽Girl」は、Aメロのライド感が心地よすぎる一曲。向かう先こそ洗車場なのだが、アクセルを踏み込んで海岸線を駆け抜ける爽快さがメロディで表現されており(さすが清竜人ワークス!)、ダンスの面でも洗車グローブに見立てて両手を平行にくるくると回す振り付けなど、“何をモチーフとした踊りか”がしっかりと伝わってくる。
歌唱前にはサビ部分を一緒に踊るための振り付け講座も。こちらは事前に上坂のSNSでも講座動画が公開されていたのだが、SNSをやっていない同志に向けて「SNSは、いいことばかりじゃない!」と、上坂が自身の気付きを声にする。そこから、この言葉を会場の全員でスローガンのように宣言したかと思えば、上坂が「そうだそうだ!」と国会答弁スタイルでセルフ賛同。相変わらず、ライブ以上にMCに語りどころの多いステージである。ちなみにあまりの楽曲がよすぎるため、肝心の振りコピをできずに呆然と立ち尽くし、ラスサビあたりで意識を取り戻す同士がちらほらといたことだろう(筆者もその一人だ)。
そんなおしゃれさから一転。落差が物凄いハイパー破滅ソング「よっぱらっぴ☆」では、客席からほとんど絶叫のようなコール&レスポンスが再び轟く。ここでのコール&レスポンスに、他楽曲と比べてかなり重さがもたれかかっていたのは、同志にとっても感じるところがあったのだろう。多くの同志の“代弁ソング”を歌う上坂も、盛り上がることにただひたすらに熱狂していたのがとてもよかった。
また、A~Bメロでは激しさ、サビではかわいさと、表現の2段パンチを楽しめた最新ナンバー「LOVE CRAZY」。上坂の得意分野である異なる性質のものをひとつの表現に同居させるという点で、この楽曲もここまでのセットリストの流れに上手くなじんでいたほか、同じく最新ナンバー「リベリオン」では、今回のライブで珍しくフェイクを挟む場面もあった。
そして終盤には、自身がラム役を演じるTVアニメ『うる星やつら』の初代主題歌、「ラムのラブソング」をカバー。恋に悩むうれしさのような、キャラクターソングとして“歌声の演じ分け”をしてみせた後、アンコールラストはデビュー曲「七つの海よりキミの海」で、2023年の躍進を改めて約束。音楽活動10周年を迎える上で、なんとも頼もしいフィナーレだった。
Text by 一条皓太
Photo by 鈴木健太(KENTA Inc)/高橋定敬
◎公演情報
【SUMIRE UESAKA LIVE 2023 TALES OF SUMIPE 同人の書】
2023年3月18日(土)、 3月19日(日)
東京・立川ステージガーデン
※「▽をつければかわいかろう」と「Car▽Wash▽Girl」の「▽」の正式表記はハート
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