<ライブレポート>中島みゆきの名曲と徳永英明/斉藤由貴/山本彩らが結ぶ【歌縁】の世界

2023年2月23日 / 08:00

 中島みゆきの楽曲を、多彩な歌い手がそれぞれに表現する【中島みゆき RESPECT LIVE 2023 歌縁(うたえにし)】が、211日、大阪・フェスティバルホールにて開催された。

 FM COCOLOが手がけるものとしては、2015年以来の開催となる。バックバンドを務めるのは、高田漣が音楽監督を務め、チェロとバイオリン、サックスにクラリネットも擁した、【歌縁】のためのスペシャルバンド。

 ステージ背後の短冊状の縦長のスクリーンに、さまざまな色の字体で中島の詞が、歌と演奏に合わせて映し出される。さらに歌い手が入れ替わる際には、注目の詩人・最果タヒが中島の曲にインスパイアされる形で作った詩を、女優・須藤理彩が朗読するという演出も加わり、音と言葉の両面で中島の世界に浸る。 

 「空と君のあいだに」のイントロに乗って、最初に登場したのは山本彩。「私と生まれ年が同じ曲」と紹介して、工藤静香への提供曲「慟哭」を、そして「たかが愛」と、いずれも90年代にドラマの主題歌として人気を博した3曲を歌った。

 二番手はHYの仲宗根泉。「涙 -Made in tears-」を切々と歌ったかと思うと、明るく客席をいじり、屈託がない。だが「夜の街で働く女性の歌です」と言って披露したレア曲「シュガー」(おそらく中島自身もステージでは【夜会 Vol.3KAN(邯鄲)TAN」】で歌ったきり)は身震いするほどに強烈だった。さらに、その昔、母がこの曲を歌っているのを聞いて「おかあさんとおとうさん、離婚するのかな」と心配したという曲「あした」で、愛とはなんぞや? という深い問いを残していった。

 そんな“愛”に関する流れを佐野遊穂と佐藤良成によるデュオ、ハンバート ハンバートが受けるのもひとつの縁か。中島の2ndアルバム『みんな去ってしまった』から、カントリーロック「流浪の詩」を歌い、失恋と人情が入り交じる名曲「タクシードライバー」を披露。高田漣が奏でるペダルスティールが絶妙だ。最後は再び『みんな去ってしまった』に収められていた「忘れられるものならば」と、ここでは3曲とも70年代の中島ソングが占めた。

  半崎美子は、赤提灯に彩られた呑み屋街をふらつく中年男の哀愁を描いた「紅灯の海」(竹中直人への提供曲)を、じっくりと聴かせる。北海道出身の半崎は、上京してパン屋で働きながら曲を書いて歌い、17年、「土の中で過ごすように」個人で活動してきたという。そんな述懐に続いての「ホームにて」には、まるで中島の『オールナイト・ニッポン』のエンディングを聴いているような感覚に誘われる。3曲目は、分断に揺らぐ現代をこの曲が通り抜ければ、見えていなかった“向こう側”が見えるような気がする、と「Nobody Is Right」を大阪音楽大学の21人からなるクワイヤーとともに歌い上げた。

 五番目の歌い手は、大ヒットアルバム『寒水魚』のラストを飾っていた大作「歌姫」を歌い始めるが、よく姿が見えない。ワンコーラスを終えたところで、舞台前のほうから拍手が上がる。斉藤由貴だった。ドラマの撮影で微妙なスケジュールだったが、「でも私は出たいのです」という斉藤の想いもあって、直前まで調整を図り、シークレットでの出演にこぎつけたようだ。もう1曲、椅子にかけながら、これもまた可憐でありながらドラマチックな「夜曲」を歌い、まぼろしのように退場していった。

 ここで、男性アーティストが登場する。サニーデイ・サービスの活動でも知られる曽我部恵一は、表舞台から去っていくロックシンガーを歌った「ばいばいどくおぶざべい」でスタート。オリジナルでベースを弾いていたのは細野晴臣だった。続いて、吉田拓郎の依頼を受けて書き下ろした「永遠の嘘をついてくれ」と、男っぽい2曲のあとに歌ったのは女唄の極みともいえる「化粧」。ひしゃげたような曽我部の歌声が、よく合っていた。

 七番手の増田恵子は、ソロデビュー曲はどうしてもみゆきさんに書いてもらいたかったと語る「すずめ」で登場。中島が歌うデモテープが手元に届いたときのことを今も覚えているという。つづいては80年代の中島の大ヒット曲「悪女」。そして「慕情」を歌い、ドラマ『やすらぎの郷』で聴いたときから歌いたいと思っていたと最後に語った。

 トリを取ったのは、徳永英明。「あばよ」「春なのに」、そして「大大大好きな曲」という「時代」。すべては歌唱に込めたということか、MCの言葉数こそ少なかったが、客席の隅々までを情感で満たして締めくくってくれた。

 【歌縁】は、中島みゆきの名曲再発見の機会でもある。今回もまた、これだけの歌い手が、いかに「中島みゆきワールド」を自分の血肉としているかに驚かせられた。人を変え、角度を変えて、幾重もの深みまで一曲一曲を味わうこともまた、汲めども尽きぬ音楽の楽しみ方なのだと改めて痛感した夜だった。

Text大内幹男
Photo井上嘉和

※増田恵子「恵」、半崎美子「崎」、徳永英明「徳」「英」、正しくは旧字体


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