<ライブレポート>大原櫻子、オーケストラと示した新たな可能性

2022年10月20日 / 12:00

 歌手、女優として幅広いフィールドで活躍中の大原櫻子がオーケストラ公演【大原櫻子 Premium Symphonic Concert 2022】を開催した。10月12日には東京・Bunkamuraオーチャードホールで東京フィルハーモニー交響楽団との東京公演、10月15日には兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで、京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラとの西宮公演を行い、両公演とも26歳の大原と同世代である30歳の指揮者、山脇幸人がタクトを振った。

 大原は昨年9月にライブで初のオーケストラとの共演を果たした。「STARTLINE」「ちっぽけな愛のうた」という自身のオリジナル曲に加え、ブロードウェイミュージカル『Catch Me If You Can』の「Fly Fly Away」の3曲を歌唱。1年ぶりのオーケストラとの共演となるが、フルオーケストラを迎えた自身のワンマンライブは今回が初となっていた。

 東京公演は、当時、高校生だった彼女がデビューするきっかけとなった映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』の劇中バンド、MUSH&Co.のデビュー曲で、大原にとっても歌手デビュー曲となった「明日も」のオーケストラによる演奏からスタートした。本コンサートだけでなく、大原櫻子という物語の始まりをも含んだオーバーチュア(序曲)が流れる中で、大原は真っ赤なドレスに金色のヒールで登場。場内から拍手が湧き上がるとともに、大原は改めて、「明日も」をアカペラで歌い始めた。彼女が<今、はじけよう>と伸びやかな歌声を発した瞬間に管楽器がファンファーレを鳴り響かせると、客席からはいきなりクラップが沸き起こった。クラシックのコンサートでは珍しいかもしれないが、彼女の歌声には自然とクラップを打ち鳴らしたくなるような弾力性と吸引力、そして、何よりも一緒に音楽を楽しもうという姿勢が込めれられていたように思う。その楽しさをさらに増すべく、自身が出演した映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』挿入歌に起用された青春の疾走感と情熱を感じる「青い季節」へ。彼女はステージを右へ左へと移動しながら観客に笑顔で手を振り、アウトロでは見事なフェイクを繰り出すと、指揮者の山脇と目を合わせて、サムズアップを交わした。これもクラシックコンサートでは稀かもしれないが、同世代の二人だからこそ自然発生的に生まれたムードと勢いだろう。

 最初のMCでは、「このご時世の中、会場に足を運んでもらってありがとうございます。緊張しております。オーチャードホールは2回目。2年前にイベントで立たせていただいたんですが、ほんとに広いですね。でも、歌いやすいなと感じていて。改めてオーケストラの皆さんと立たせてもらえて、とても嬉しく思っております」とあいさつ。また、指揮者の山脇がオーチャードホールのステージに立つのは初めてということが判明し、大原は「記念すべき1回目を共にできることを嬉しく思います」と喜びを語った。コンサートマスターやピアニスト、オーケストラの紹介を経て、前述の映画『チア☆ダン』の主題歌「ひらり」へ。クラリネットが鳥のように歌い、弦楽器が優しい風を連れてくるノスタルジックなバラードとなっており、ピアノと歌だけになるパートは、まるで学校の音楽室で歌っているかのようで、オーケストラが加わった瞬間に音楽室の窓が開き、目の前に空がどんどん広がっていくような風景感があった。さらに、昨年3月にリリースされた最新の5thアルバム『l(エル)』の収録曲「同級生」で追憶の気分が加速。今は駐車場になってしまっている、小さい頃に遊んだ公園のような懐かしくも切ない“あの頃”を思い出させるような物語を見せてくれた。

 ここから場面は一転する。3ヶ月連続配信リリース第1弾として9月21日に配信された「Door」と、東京公演の当日に配信されたばかりの第2弾「愛のせい」を自身のワンマンライブに先立ち、オーケストラアレンジで初披露。共に作詞を元ねごとの蒼山幸子が手がけており、大原は「恋の終わりに向かう曲と恋の始まりの曲という正反対の2曲です。「Door」はずっと想い続けているのにすれ違ってしまう男女の切なさが綴られている曲で、「愛のせい」は魔性で勝ち気に見えつつも、相手に惹かれている女性の駆け引き歌った曲です」と説明。「Door」ではホルンやチューバがフューチャーされ、オーケストラの大きな音像から微かに浮かび上がるトライアングルの響きも曲の情感を引き立ており、ブレスと歌から始まり、弦楽器が寄り添っていく「愛のせい」では大原の時にため息にも似た呟きと反して、オーケストラは楽曲の主人公の表情には出さない感情をあらわにするかのように爆発。大原櫻子の過去と現在を結んだ第一幕は、優美で壮大、ドラマチックで官能的でもある2曲のラブソングによって締め括られた。

 歌手・大原櫻子の出発点から現在地までを記した物語となっていた第一幕は自身のオリジナル楽曲のみで構成されていたが、白×ピンクのワンピースに着替えた第二幕は、彼女が「オーケストラの演奏で歌いたい曲」が中心となっていた。ステイホーム期間中に励まされたというアリシア・キーズ「Good Job」のカバーは歌詞の朗読から始め、静謐ながらも厚みのある歌声に楽器が少しずつ重なっていき、気がつけば心が揺さぶられるような感動があった。そこから、彼女のミュージカル女優としての真骨頂とも言えるディズニーカバーへ。アニメーション映画『ムーラン』の主題歌「Reflection」では煌めく歌声を放ち、『モアナと伝説の海』の主題歌「How Far I’ll Go」では、タイトル通りにどこまで突き進んでいくかのようなロングトーンを響かせると、大きな拍手が湧き上がった。

 さらに、イントロからスタンダードナンバーとなっていることを感じるテレサ・テン「時の流れに身を任せ」と中森明菜「飾りじゃないのよ涙は」といった、昭和歌謡の名曲を管楽器に背中を押されるかのように駆け抜けると、ライブでは定番の「のり巻きおにぎり」では再びクラップが沸き起こり、手でおにぎりを作るフリも実現。客席が明るくなる中で、「踊ろう」では観客は座ったままでペンライトを振って踊り、クラシックコンサートではあるが普段のライブと変わらない一体感を生み出す場面もあった。そして、本編を締めくくったのは、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』の劇中歌「ちっぽけな愛のうた」だった。ハープ、フルート、クラリネットなどの柔らかな音色によって、秋と理子の愛の軌跡がロマンチックに描かれ、大原の歌声が<愛のうた>というフレーズを繰り返すたびに強く大きく、ダイナミックに広がっていくと、場内は万雷の拍手を送った。
 
 アンコールでは、本編が終わって、ステージ袖からはけた瞬間に、大原が山脇に「いや~、ぜんぜんちっぽけじゃないですか。おおきな愛じゃないですか」と声をかけられたことを明かすと、観客からは笑い声があがった。普段通りの自然体で楽しめたコンサートの最後に歌われたのは、大原櫻子としてのデビュー曲「サンキュー。」。<君に届け このサンキュー>と、観客に向かって感謝の気持ちを込めて歌う彼女に弦楽器、管楽器、打楽器……と、オーケストラ全員が加わっていき、客電がつく中で、観客もクラップで参加。まるでその場にいる全員で演奏したかのような楽曲を持って大団円を迎えると、大原と山脇は笑顔でグータッチを交わしてステージを後にした。

Text:永堀アツオ
Photo: 岩田えり

◎公演ライブフォト期間限定販売中(11月30日まで)
http://www.hcl-musicshop.com/sakurakoohara

◎公演情報
大原櫻子 Premium Symphonic Concert 2022
【東京】2022年10月12日(水)OPEN 17:30 / START 18:30 東京・Bunkamuraオーチャードホール ※終演
【西宮】2022年10月15日(土)OPEN 16:00 / START 17:00 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール ※終演

出演:大原櫻子
指揮:山脇幸人
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(東京)京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ(西宮)
編曲監修:山下康介

https://billboard-cc.com/classics/oharasakurako2022/


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