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<ライブレポート>Official髭男dism、届ける先は一人ひとり。バンドのまっすぐな信念が感じられたSSA公演

 Official髭男dismが、全国ワンマンツアー【Official髭男dism one – man tour 2021-2022 – Editorial -】を完走した。

 本ツアーは2021年9月より7か月間、さいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナ、大阪城ホールなど全48公演開催され、全公演の総動員数は約30万人を記録した。本稿では、さいたまスーパーアリーナ3デイズの最終日の模様をレポートする。

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 Official髭男dismの全国ワンマンツアー【Official髭男dism one – man tour 2021-2022 – Editorial -】、さいたまスーパーアリーナ3デイズの最終日。メンバーはMCでさいたまスーパーアリーナでワンマンができる感慨を言葉にしていたが、3月の3連休、アリーナが賑わう理由に成り得るほどOfficial髭男dismは人気なのだという事実を今さら意外に思う人はいないだろう。

 オープニングムービーが流れたあと、演奏が始まるとともにステージを覆う幕が上がり、大所帯のバンドが姿を見せた。メンバーの藤原聡(Vo/Pf)、小笹大輔(Gt)、楢﨑誠(Ba/Sax)、松浦匡希(Dr)を、宮田’レフティ’リョウ(Key/Ba/Gt)、ぬましょう(Per)、とっち(Tb)、あつき(Tp)、アンディ・ウルフ(Sax/Fl)、よっしー(Pf/Tp)がサポートする10名体制だ。「Universe」の軽やかなリズムで観客の心と体をほぐしたあと、ロックな「HELLO」を高らかに響かせ、「宿命」で熱量をさらに押し上げるオープニング。短いMCを挟んだあとには「115万キロのフィルム」が届けられた。

 ライブタイトルにあるように、今回のツアーはメジャー2ndアルバム『Editorial』のリリースに伴うものであり、セットリストは『Editorial』収録曲中心。5~7曲目には「Shower」、「みどりの雨避け」、「Bedroom Talk」がアコースティック編成で演奏され、『Editorial』ツアーならではの場面が早速訪れた。

 それにしても、Official髭男dismの曲はどう聴いてもユニークだ。曲の展開、構成、コード進行、異ジャンルの掛け合わせ方、楽器の音色、フレージング、歌詞のモチーフ、言葉選び……どこかしらに捻りがあるため、変わった形のものが広く愛されているこの状況を目の前にすると、彼らは“異端なスター”だと改めて実感させられる。曲数が重なるほど、その奇跡が痛快に感じられ、楽しくなってくる。

 Official髭男dismの音楽を慕う人の数は増え続けている一方、彼ら自身は小さなライブハウスで活動していた頃と変わらない心持ちのまま、アリーナまで来た(そしてきっとこれからスタジアムへ行く)のではないだろうか。そんなことを想像した。

 また、アリーナだからといって音量・迫力勝負に陥らないサウンド、曲の規模を拡張させる目的からではなく、バンドと観客を繋げる補助線として用いられる照明・映像演出から窺えたのは、自分たちを大きく見せようとしないバンドの性格。だからこそ彼らの鳴らす音、そして藤原の歌からは、私たち一人ひとりの前に立ち、目を見て伝えてくれているような誠実さ、親密さが感じられるのだろう。その視点から特筆すべきは「Laughter」、「フィラメント」で、ドラマティックさに頼ることなく、体温のあるアンサンブルをじっくりと聴かせた2曲は、このバンドならではの豊かさと感動に満ちた名演だった。

 3月下旬時点では最新曲だった「Anarchy」を演奏後、「本来音楽は勝ち負けじゃないけど、心の繋がりという意味で(観客も声を出せた)昔よりも熱い音楽のパワーを共有したい。みんなの手と心を使って返してください!」(藤原)とライブ後半に入った。

 観客の手拍子が欠かせないスパイスとなるライブ定番曲「Stand By You」、観客のみならず演奏するメンバー自身の足取りをも軽くさせた『Editorial』収録のエレクトロファンク「ペンディング・マシーン」、アメコミ風映像をバックにソロ回しを披露した「ブラザーズ」、ライブアレンジがかなり効いた「ノーダウト」、藤原と小笹がエレキギターとショルダーキーボードでバトルする展開が熱い「FIRE GROUND」、転調満載のF難度曲「Cry Baby」……こうなったら止まらない。藤原は観客に「今日ここに来るまでの人生の怒り、悲しみ、不満、何て名前をつけたらいいか分からない感情、全部ステージにぶつけてください! 悔いのないように踊ってこうぜ!」と投げかけている。

 本編ラストには「Editorial」、「アポトーシス」、そして「Lost In My Room」が選ばれた。物語の結末を鮮やかに描くというよりは、生活の不安や不穏、茫然自失とした感じを引きずったまま迎えるラスト。そのうえで藤原は、(非常に多くの言葉を重ねていたので一部抜粋するが)「こんな日がまた来ると思えたからこそ、ライブのない日々を乗り越えられました」と語り、「もしもこれからこの世の中がもっと悲しみに包まれて、ライブが奪われたとしても、また今日のような日が来ると信じてもらえればと思います」「どうか、何も救いがないなんて思わないでほしい」「素晴らしい音楽はこんなにもあるから、このバンドの音楽じゃなくてもいい」「絶望しながらでも、闇に呑まれながらでも、ちゃんと生きてください。そしてまた会える日を楽しみにしています」と伝えた。

 演者と観客、ステージの上と下ではなく、同じ時代に生まれた人と人同士としての“生きていてほしい”という切実な願い。振り返れば、1つ前のアルバム『Traveler』がスターダムにのし上がるバンドの勢いが形になったアルバムだったのに対し、『Editorial』は、このバンドとどう歳を重ねていくか、そしてリスナーとの関係性をどう深めていくか、という観点から思考を重ねる4人の姿が見えるアルバムだった。そんなアルバムのツアーだからこそ、突き詰めた末にある芯の部分、最もシンプルな想いを丁寧に伝えるツアーとなったのだろう(もちろん時代の空気も無関係ではない)。だからこそ、届ける先は一人ひとり。バンドのまっすぐな信念が感じられるライブだった。

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:”TAKAHIRO TAKINAMI”

◎配信情報
『「Official髭男dism one – man tour 2021-2022 – Editorial -」@さいたまスーパーアリーナ オンラインライブ』
アーカイブ配信期間:2022年5月1日(日)23:00~8日(日)23:59まで
https://event.higedan.com/feature/at20_tour2122

◎リリース情報
EP『ミックスナッツ EP』
2022/6/22 RELEASE
<CD+Blu-ray/CD+DVD盤>
PCCA-06136/PCCA-06137 3,300円(tax in.)
<通常盤(CD Only)>
PCCA-06138 1,650円(tax in.)

◎ツアー情報
【Official髭男dism SHOCKING NUTS TOUR】
2022年9月28日(水)29日(木)青森・リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
2022年10月13日(木)14日(金)愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
2022年10月25日(火)26日(水)29日(土)30日(日)東京・日本武道館
2022年11月4日(金)5日(土)大阪・フェスティバルホール
2022年11月16日(水)北海道・旭川市民文化会館(大ホール)
2022年11月17日(木)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
2022年11月28日(月)29日(火)広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ 大ホール
2022年12月6日(火)7日(水)福岡・福岡サンパレス
2022年12月13日(火)14日(水)富山・オーバード・ホール
2022年12月21日(水)22日(木)宮城・仙台サンプラザホール

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