心と頭と体を「ととのえる」ための5曲

2021年9月27日 / 18:00

心と頭と体を「ととのえる」ための5曲 (okmusic UP's)

古来より「病は気から」と申しますが、昨今のサウナブームを目の当たりにする限りは、あながち間違いではなさそうです。私個人は片手で数えるほどしかサウナを利用したことはありませんが、身近なサウナーたちが熱弁する「ととのう」という心理状態は、きっと寄席で笑ったりライヴハウスで暴れて心身の均衡を保つことと同じなのだと思います。今回は天気の荒れそうな秋本番、外出はままならなくても、体の内側を解してくれる楽曲を紹介します。
「あびばのんのん」(’21) /Tempalay

テレ東ドラマ『サ道2021』のエンディングを飾る「あびばのんのん」は、波紋が無表情のまま広がっては消え、遠ざかってはまた生まれる水面のような穏やかさと、人の垢を落とす音だけを反響する浴室の静寂の襞に隠されたカラフルなハレーションを放射するサイケデリックな一曲。たわむスティールギターの音色からオリエンタルなサビのメロディーにつながるバトンリレーは、あらゆる人々の境目と立場を洗い落とす銭湯やサウナの懐の深さにも似て、歪むギターとコミカルな悪夢にも似た展開は、凝り固まった意識と現実への執着を引っぺがすために湯船に身を委ねる時間を想起させる。季節に五感を研ぎ澄ますゆとりすらなかった体に、誰もが描ける誰かの夏の記憶を染み渡らせる歌詞の切なさが美しい。
「Just a Gigolo / I Ain’t Got Nobody」(’56) /Louis Prima

映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』を観賞した100万人中8億人くらいが今すぐハーレイ・クイン様に生まれ変わり、不敵にキュートにメタクソに世界をぶっ壊したいと願ったことだろう。私もそうである。真っ赤なドレスを引き裂き、矢継ぎ早に襲いかかる敵を二丁拳銃で撃ちまくるあのハーレイ・クイン様無双シーンの背景で、飛び散る極彩色の花々とともに流れるのは、この陽気な曲調のジャズナンバー。劇中のグロ描写を緩和するためかと思いきや、《俺はただのジゴロさ》との出だしの軽薄さに説得力を持たせるルイ・プリマの跳ねるヴォーカルが《人生は続く 俺がいなくたって》という歌詞に着地する虚無感に、ホアキン版『ジョーカー』以降のDC映画が浮き彫りにするリアリズムを垣間見た。日常は味がしないほどつらい。なので、早くハーレイ・クイン様に転生したい。
「Jack Russell」(’21) /PHONO TONES

宮下広輔、猪股ヨウスケ(Dr.DOWNER)、飯塚純(UNDER LIFE)、伊地知潔(ASIAN KUNG-FU GENERATION)からなるインストゥルメンタルバンドのPHONO TONES。タイトル通りジャックラッセルテリアという種類の犬がコンセプトの楽曲であり、MVにもジャックラッセルテリアしか登場しないため、人間不信に陥ってしまった時に打ってつけである。青い空の下、日光を照り返す芝生を駆け回るジャックラッセルテリアの跳躍と高揚をそのまま表現したようなアップテンポかつ軽快なファンクナンバーのさわやかなこと。キーボードの運指の煌びやかなステップの間隙で、流れるように踊るようにバシッと同期するリズム隊の小気味良さが心地良い。
「Indian Summer」(’70) /The Doors

“インディアンサマー”は日本では“小春日和”“晩秋”にあたるという。数時間前に観たライヴでヤマジカズヒデ+若林一也からなる“海へ向かうエバ”によるカバーしていたのだが、祭の売り声も繁華街の呼び声も、たまたま隣り合った誰かの会話すら届かない長い沈黙を経て、虫の鳴き声と枯葉の呻きだけがこだまするこの季節に最適のソフトロックであった。ジム・モリソンの物憂げな歌声で紡がれる詩情はシンプルであるがゆえに果てなく広がる余白にあらゆるイメージと記憶が点滅し、残響の中で粒立つジョン・デンズモアのドラムとレイ・マンザレクのキーボードの扇情的な音色が枯れたラブソングを艶めかせ、汗ばむこともなくなった体を色づかせていく。
「流れ弾」(’21)/櫻坂46

心と頭と体が「ととのった」あとは、コロナ以外の理不尽が無尽蔵に降り注ぐ中、決して暴力や暴言を使わず、だが無闇矢鱈に笑顔など浮かべず、冷静に淡々と火の粉を振り払わなければならない。哀愁を携えたファンクなフレーズが展開される和製ディスコナンバーの中で、デジタルネイティブ以降の雁字搦めの相互監視の悲痛さ、新たな形の孤独と分断をあくまでポジティブに歌い上げる彼女たちの姿には、あらゆる多種多様な苦悩が均され、麻痺する日々のささくれを引っ張って自意識を呼び覚まし、鼓舞するためにポップソングは存在するのだと思い知らされる。「整わない」社会で戦わなければならない憤りと悲哀は、アイドルにしかなし得ない“軽さ“でもってポケットサイズに変えて、忘れることも取り憑かれることもなく、そっと胸に忍ばせる。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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