HR/HMのテンプレートをつくったモントローズのデビューアルバム『ハード☆ショック!』

2021年7月16日 / 18:00

エドガー・ウィンター・グループ名義では初のアルバムとなる『ゼイ・オンリー・カム・アウト・アット・ナイト』(’72)に収められた「フランケンシュタイン」は、インストであるにもかかわらずシングルカットされ全米1位を獲得する。この曲はジャズロックやプログレのテイストを持っており(今でいうフュージョン)、当時のアメリカンロックの中においてはまったく新しい画期的なスタイルであった。ここで聴けるエドガーのシンセソロとロニー・モントローズのギターソロは絶品で、特にロニーのアメリカ人でありながらブリティッシュロック然としたフレージングは新鮮であった。このアルバムに参加したのち、彼は自らの名を冠した4人組グループのモントローズを結成する。今回取り上げるモントローズのデビューアルバム『ハード☆ショック!(原題:Montrose)』(’73)は、最初から最後までハードにドライブしまくっており、そのサウンドは本作以降のハードロック/ヘヴィメタルのスタイルを確立した重要作品だと言えるだろう。
ロニー・モントローズの経歴

1969年、ロニー・モントローズが22歳の時に在籍していたファンキーなサザンロックグループのソウバックが著名なプロモーターとして知られるビル・グレアムに認められ、グレアムのフィルモアレコードと契約する。このグループにはドラムのチャック・ラフ(エドガー・ウィンター・グループ)やベースのビル・チャーチ(モントローズ)も参加しており、サンタナやジェファーソン・エアプレインなど当時フィルモア・ウエストに出演していた大物グループのオープニングアクトを務めることでロニーのギタープレイに注目が集まり、西海岸で彼の名前は徐々に知られていく。この頃のギタースタイルはフェンダー系の乾いた音で、どちらかと言えばオーリアンズ時代のジョン・ホールのような小技に長けていて、モントローズ時代とは異なるが抜群に上手い。スライドもデュアン・オールマン・スタイルの相当のテクニックを持っていたのだからすごいギタリストである。

ソウバック唯一のアルバム『ソウバック』(’72)のレコーディング(70〜71年)中のこと、ロニーはウッドストックから西海岸へ移ってきたヴァン・モリソンがバックバンドを探していることを知りオーディションを受ける。ともにモントローズを結成するビル・チャーチもロニーと同じモリソンのバックメンになることを選び、モリソンの代表作のひとつである『テュペロ・ハニー』(’71)に参加、ここでロニーは完全にカントリーロック的なギタープレイを披露しており、バックヴォーカルやマンドリンも弾いているのだから引き出しが多いことが分かる。いずれにせよ、この傑出したモリソンのアルバムに参加したことで、彼のプレイはワーナーブラザーズに認められることになる。

ふたりのメンバーを失ったソウバックは新たなメンバーを迎えてレコーディングを続け、72年にようやく唯一のアルバム『ソウバック』をリリースする。その作品中、ゲスト扱いでロニーとビルの参加曲を2曲ずつ収録したことを考えると、彼らふたりに対する悪感情は他のメンバーたちにはなかったようだ。
モントローズの結成

サンフランシスコのカバーバンドで歌っていたサム・ヘイガー(のちのサミー・ヘイガー)と、同じくサンフランシスコのグループでドラムを叩いていたデニー・カーマッシをロニーはスカウトしている。ベースはもちろん、ロニーと一緒にグループ結成のためモリソンのバックを辞めたビル・チャーチである。モントローズは73年に結成され、すでにロニーはワーナーと新グループの契約を結んでいたため、すぐにレコーディングを開始する。
新しいハードロックのイメージ

そして、モントローズとしてのデビューアルバムとなる本作『ハード☆ショック』を73年にリリースする。このアルバムの特徴は、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルからロック以外の要素(ツェッペリンならブルースやトラッド、パープルならクラシックやプログレ)を排除し、シンプルなリフとハードなドライブに特化したと言えるのではないか。ベースとドラムは、シンコペーションは効かせながらもよりシンプルに、曲の流れを止めるようなおかずを極力カットすることでギターとヴォーカルは自由さを増している。結果的にリズム周りは様式的なスタイルとなり、ハードロックやヘヴィメタルのテンプレートとして、モントローズのサウンドシステムはヴァン・ヘイレンやアイアン・メイデンといった次世代のグループへと受け継がれることになるのである。

本作のプロデュースはワーナーのテッド・テンプルマンとグループによるものだが、テンプルマンはそれまでに前述の『テュペロ・ハニー』やドゥービー・ブラザーズの初期アルバムを手掛けているベテランで、アーティストの素材を活かす才に長けているプロデューサーだ。このアルバムをエグ味の少ないアメリカ西海岸らしさのあるさわやかとも言えるスタイルに仕上げているのは、おそらくテンプルマンの意向を汲んだからであろう。

収録曲は全8曲、スローなナンバーは1曲もなく最初から最後まで飛ばしまくっている。ロニーのギターは長尺のソロは弾かず、どちらかと言えばリズムを重視したプレイを前面に押し出しているのだが、随所にハイテクニックなプレイが聴けるのは嬉しい。

このアルバム、ワーナーのプロモーションが失敗したこともありリリース当時はあまり売れず(全米133位)、彼らの影響を受けたヴァン・ヘイレンやアイアン・メイデンがデビューしてからじわじわと売り上げを伸ばし、今ではミリオンセラーになっている。サミー・ヘイガーがデビッド・リー・ロスの代わりにヴァン・ヘイレンに加入したことも関係しているのは間違いないが、そもそも本作は音楽関係者の間で受けは良く、「アメリカ最初のヘヴィメタル作品」とか「レッド・ツェッペリンに対するアメリカの答え」などと言われていたし、1981年に創刊されたイギリスのHR/HM専門雑誌『ケラング!』では「史上4番目に優れたヘヴィメタルアルバム」に選ばれたこともある。

本作以降、度重なるメンバーチェンジがあり『ペイパー・マネー(灼熱の大彗星)』(’74)、『ワーナー・ブラザーズ・プレゼンツ』(’75)、『反逆のジャンプ(原題:Jump On It)』(’76)とリリースするが、やはり本作『ハード☆ショック!』の出来が一番だと思う。

その後も、モントローズとして何度かリユニオンライヴを行なったりしていたのだが、2012年にロニーが鬱病からの自死を遂げた(享年64歳)ことで、モントローズの再結成は永遠に不可能になってしまった。
TEXT:河崎直人
アルバム『Montrose』
1973年発表作品

<収録曲>

1. ロック・ザ・ネイション/ROCK THE NATION

2. バッド・モーター・スクーター/BAD MOTOR SCOOTER

3. スペイス・ステイション♯5/SPACE STATION

4. アイ・ドント・ウォント・イット/I DON’T WANT IT

5. グッド・ロッキン・トゥナイト/GOOD ROCKIN’ TONIGHT

6. ロック・キャンディ/ROCK CANDY

7. ワン・シング・オン・マイ・マインド/ONE THING ON MY MIND

8. メイク・イット・ラスト/MAKE IT LAST


音楽ニュースMUSIC NEWS

Eve、アニメ『アオのハコ』EDテーマを担当

J-POP2024年9月7日

 Eveの新曲「ティーンエイジブルー」が、2024年10月3日より放送開始となるTVアニメ『アオのハコ』のエンディングテーマに決定した。  TVアニメ『アオのハコ』は、心の機微を繊細に描いた青さが胸を衝く青春部活ラブストーリー作品。『週刊少 … 続きを読む

Official髭男dism、アニメ『アオのハコ』OPテーマを担当

J-POP2024年9月7日

 Official髭男dismの新曲「Same Blue」が、2024年10月3日より放送開始となるTVアニメ『アオのハコ』のオープニングテーマに決定した。  TVアニメ『アオのハコ』は、心の機微を繊細に描いた青さが胸を衝く青春部活ラブスト … 続きを読む

【Top Japan Hits by Women】生田絵梨花主演ドラマの主題歌など7曲が初登場

J-POP2024年9月7日

 Billboard JAPANとSpotifyによるコラボレーション・プレイリスト「Top Japan Hits by Women」が、9月6日に更新された。  Billboard JAPAN Hot 100からWomen Songsをピ … 続きを読む

SKY-HI/Novel Core/BE:FIRST/MAZZELらによる【BMSG FES'24】応援上映&配信へ

J-POP2024年9月7日

 BMSG所属アーティストによる大規模フェス【BMSG FES’24】の最終日・最終公演のライブ全編が、2024年10月19日に応援上映される。  9月21日~23日の3日間、神奈川・Kアリーナ横浜で1日2公演、計6公演が開催さ … 続きを読む

Number_i、タイムズスクエア巨大広告に登場

J-POP2024年9月7日

 Number_iを起用したSpotifyの巨大街頭広告が、アメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアに登場した。  本広告は、2024年9月23日に1stアルバム『No.I』がリリースとなることを記念したもの。広告は縦60メートルにも及ぶ巨 … 続きを読む

Willfriends

page top