及川光博はなぜ歌手と俳優の二刀流を選んだのか? 『嘘とロマン』に見る“ヤング・ミッチー”の潔さ

2021年5月19日 / 18:00

今年アーティストデビュー25周年を迎えた及川光博。俳優としてはTBS系ドラマ『日曜劇場 ドラゴン桜』に出演中の上、4月からは(一部公演が中止になったものの)歌手として『及川光博ワンマンショーツアー2021『SOUL TRAVELER』』が進行中。また、デビュー日である5月29日には、本人セレクトのベスト盤『XXV』と、カバーベストアルバム『COVERS ONLY』、スペシャル写真集などがセットになった、25周年アニバーサリーBOX『XXV(ヴァンサンカン)』がリリースと、周年記念に相応しい盛り上がりを見せている。当コラムではそんなミッチーの歌手としての側面にスポットを当ててみた。
ヒット連発の名バイプレイヤー

歌手と俳優の二刀流と言えば、沢田研二、吉川晃司、福山雅治、星野 源、最近では菅田将暉、桐谷健太、北村匠海らの名前が挙がるだろうか。筆者としてはそこに何ら躊躇なく、及川光博(以下ミッチー)を加えたいところだが、世間的な認知はどうだろうかとふと気になって、“及川光博”でニュース検索してみた。すると、さまざまな記事がヒットする中で、“歌手で俳優の及川光博が~”や“今年アーティストデビュー25周年を迎えた及川は~”といった真っ当な形容もあるにはあったが、“俳優の及川光博が~”で始まっているものや、“及川は1996年に歌手デビューしており~”などと、あたかもミッチーは役者のついでに歌手をやっているような紹介もあった。

まぁ、それを何だか失礼なことのように感じてしまうのはデビュー当時のミッチーを知っているからで、ここ10年間、役者での当たり役が多かったミッチーなので、冷静に考えてみると、歌手としての活動を知らない人がいるのも、むべなるかなとは思う。直近で言えば、『ドラゴン桜 第2シリーズ』の教頭役だろうし、何と言っても『半沢直樹』で演じた、主人公の友人、渡真利忍役の印象を強く持っている人も多いことだろう。『グランメゾン東京』でのキムタクをバックアップするシェフ役も記憶に新しいところだ。また、やや古くはなるけれども、『相棒』での神戸尊も決して忘れることができないキャラクターである。とりわけTBS系ドラマ『日曜劇場』のヒット作で2番手の登場人物となっていることが多いことから、“ミスター日曜劇場”と呼ぶメディアもあるようで、もはやミッチーはテレビドラマにおける名バイプレイヤーと言っても過言ではないようだ。それはそれで正しい認識だし、ミッチーの成功の証しであり、喜ばしいところではある。

だけれども…だ。やはり歌手としてのミッチーも多くの人に知ってほしい。というか、知らないのはもったいないと思う。歌手としてのミッチーには、明らかに役者とは異なる、シンガーでしか発揮されない魅力がある。逆に言えば。シンガーからしか感じ取ることができない魅力があるのである。もっと言うのなら、ミッチーのアーティストとしての本質をより深く味わうことができるのは“歌手・ミッチー”ではないかとすら思う。とりわけデビューしたばかりの頃の、言わば“ヤング・ミッチー”の作品は、エッジーというか、役者での当たり役からはちょっと想像しづらいキャラクターを目の当たりにできるのではなかろうか。ミッチー最大のヒットアルバム『嘘とロマン』から、その辺を探ってみよう。
複雑な恋愛感情を綴った歌詞

まず収録曲の歌詞に注目してみよう。バラエティーに富んだラブソングが並んでいる。ただ、いずれも単純な“Boy Meets Girl”ではないのが本作の大きなポイントであろう。

《三日月のプリンセス/君のタイトなつぼみ 夜毎に花ひらく》《三日月のプリンセス/君のルーズな舌が 生み出す抽象画/プリンセス これ以上は無理かも/果てるなら お供させて どうか…》(M2「三日月姫」)。

《愛情としか言えません/伝えたい 表現(パフォーマンス)したい/だが その術を僕は知らない/嫌だ!嫌だ!嫌んなっちゃうなもう!/瞬間にかける意気込み/負けません 負けるもんか/だが そんな僕を君は知らない/子供じみた夜 うずくまる大人ひとり》(M3「その術を僕は知らない」)。

《何度目になるのか/あまり良く覚えていないけれど/また一人 大事な人と/別れなくちゃならないみたいだ》《こんな見なれない景色に/わざわざ呼び出すなんて/誰かに相談したのかい?/髪型まで変えてさ…》《あんまり カワイクない君だったけど/今日はやけに 素敵だね》(M5「君がいなくても」)。

《本当に好きな人はいますか?/精神(こころ)も裸にできますか?/それでいいなら 別にいいけど… 笑う》《寂しいから ツライから ステキな人 現れるまで/とりあえず 「アイシテル」》《働いて 浮気して 八つ当たりして なぐさめあって/抱きよせて またキスをして/からませて つらぬいて 波にさらわれてしまうまで/合言葉は 「アイシテル」 それだけのこと?》(M7「彼と彼女のこと」)。

《言葉よりも確かなもの 肉体よりも曖昧なもの/見つからなくて 二人 かすり傷増やして》《…いっそのこと フィアンセになりたい》《“誰よりも あなたのこと 理解しているのは私”/そんな態度が 僕の プライド逆なでる》《友達になんかもどれっこない/君だけのために生きられない/とまどいながら 二人 キスをくり返して/もう 悩まないでこれ以上 愛しく思えば思うほど/孤独を感じるのは何故だろう?》(M8「フィアンセになりたい」)。

 《やりかけの恋を残して/生まれた国へ飛ぶ翼/別れぎわの言葉 意味がわからないまま/切り過ぎた髪の分だけ/幸せになればいい/よく似合うよ とてもよく…》(M14「展望デッキー夜間飛行」)。

 欲望に忠実でありたいと思いつつも(M2「三日月姫」)、だからこそ理性との狭間で悶々とし(M3「その術を僕は知らない」)、別れ話にはシニカルかつニヒルに対処することもある(M5「君がいなくても」)。真っ当にモラルを説き(M7「彼と彼女のこと」)、自身も恋愛、性愛に真摯であれと祈りながらも(M8「フィアンセになりたい」)、伊達者に決める(M14「展望デッキー夜間飛行」)(※ミッチーの場合、伊達者よりも“傾奇者”としたほうがいいかもしれない)。それぞれに“イズム”が貫かれている。本作の発売が1998年2月ということは、制作時、ミッチーは28歳くらいか。若さゆえ…とも言える逡巡をタブー視することなく露呈していると言ってもよかろう。“ヤング・ミッチー”の潔さとも言えるし、シンガーソングライターとして、アーティストとして真っ当なパフォーマンスだと言える。また、そうした表現に対する躊躇のなさを、ファン(※ミッチーの場合、女性は“ベイベー”、男性は“男子”と呼称される)やリスナーに向けて発信しているのもポイントと言える。

《理不尽さ・嘘・ウソ! 偽善と排除としがらみ/数えだしたらキリがない! あくまで人は他人だから》《僕の“悲しみロケット2号”で新しい地球を探そう/甘く壮大なスケールで 気分はギャラクシー/君の悲しみほんのちょっとでも ほんのちょっとでもいえたら/さよならサ アンハッピーデイズ》(M13「悲しみロケット2号」)。

恋愛における多種多様な感情もさることながら、こうした“メッセージ”(※あくまでカッコ付き)を見聞きできるのは、映画や演劇、ドラマでは感じ取れない“歌手・ミッチー”の醍醐味と言える。
独自の世界観をセルフプロデュース

さらに分析すれば、そうした多種多様でありつつも、一本筋の通った“メッセージ”を内包したテーマを、ポップに伝えようとしているところが『嘘とロマン』の優れたところ、ひいては“歌手・ミッチー”の面目躍如たるところだと思う。アルバム前半、M2「三日月姫」からM4「忘れてしまいたい」はソウル、ファンク色が強い。リリックの内容からするとこれは当然のチョイスだったと言える。[プリンスが改名し「元プリンス」と呼ばれていた頃「王子辞めます。元王子と呼んで」と発言した]というエピソードを今回初めて知ったが、それほどにPrinceを敬愛していたミッチーとしては極めて自然なことでもあったのだろう([]はWikipediaから引用)。岡村靖幸ライクと見る向きもあるが、のちにカバーアルバム『GOLD SINGER』(2004年)で岡村の「聖書」を歌っているのだから、それもまた正解であると思う。いずれにしても、スリリングさを孕んだセクシーさを表現するには、ミッチー自身がインスパイアされた先達へのオマージュが相応しかったと言える。

また、M2からM4に関しては、サウンドの生音っぷりがいい感じだとか、ファンク系らしいベースラインがいいとか、コーラスがまさにソウルフルで気持ちいいとか、いろいろとあるが、最注目はM4でのラップではなかろうか。本作が発表された1998年というと、その5年も前にスチャダラパーと小沢健二の「今夜はブギー・バック」や、EAST END×YURI「DA.YO.NE」がヒットしており、日本の音楽シーンにおいてラップは珍しいものではなくなっていたものの、まだまだヒップホップが浸透していたとは言い難かった時期。「Grateful Days featuring. ACO,ZEEBRA」が収録されたDragon Ashの3rdアルバム『Viva La Revolution』は『嘘とロマン』より1年遅い。そこでこれをやったミッチーの先見の明を感じられるところだ。

サウンドに合っているのはセクシーなリリックだけではない。M4、M5「君がいなくても」、それぞれの間奏で不穏な音が聴こえてくるが、これも歌詞に呼応してのことだろう。M7「彼と彼女のこと」、M8「フィアンセになりたい」で景気のいいブラスセクションが配されているのは、おそらくドラマチックさを助長したり、ヒューマニズムを強めに感じさせる仕掛けではないかと思う。現実感が希薄なM10「ワンダフル入浴」はレゲエ(M10はミッチーではなく、花椿蘭丸名義になっているので、そもそも架空っぽい)。15歳とのペンフレンドとのやり取りを綴ったM11「ペンフレンド」も同様。このサイケっぽさは現実感の排除だろう。M13「悲しみロケット2号」は上記で説明した“メッセージ”からするとやはりロック寄りになるだろうし、夜の空港での別れ話であるM14「展望デッキー夜間飛行」はAORになって不思議ではないのである。

何よりも本作をポップにしているのは、M1、M6、M9、M12に配された「発信音のあとに」だ。インタールード的寸劇というか、スネークマンショー的なひとりコントと言っていい代物だが、この有無で、『嘘とロマン』の聴き応えが随分と変化すると思うし、ひいてはミッチーのキャラクターの捉え方も変わってくると思う。「発信音のあとに」は(1)から(4)へと内容が変貌していくが、それが──変な言い方だが、アルバムを聴き進めるにあたっての推進力のようなものになっている。また、ここでのミッチーは決してカッコ良いだけの人物ではないので(むしろカッコ悪い)、親しみやすさという意味でのポップさは大きく変化したようにも思う。ミッチーというシンガーソングライターは決して“○○○のカリスマ”ではなく、いい意味で庶民的なキャラクターであることを後押ししていたと考えることもできて、これは慧眼であった。

最も特筆すべきは、そうしたアレンジ、サウンドクリエイトをミッチー自身が司っているところ。もちろん、すべてミッチーがやっているわけではなく、楽曲毎にもうひとりアレンジャーを迎えているし、M8やM11の編曲クレジットにはミッチーの名前はないのだが、ミッチーがすべてを見渡していることは間違いなかろう。映画やドラマで言えば、演者としてだけでなく、監督、脚本、編集などもすべてひとりでやっていると例えることもできようし、ミッチーが今も歌手と役者の二刀流を続けているのは、歌手の醍醐味、シンガーソングライターの醍醐味をミッチー自身が知り尽くしているからだろうと、勝手ながら想像する。
TEXT:帆苅智之
アルバム『嘘とロマン』
1998年発表作品

<収録曲>

1.発信音のあとに(1)

2.三日月姫

3.その術を僕は知らない

4.忘れてしまいたい

5.君がいなくても

6.発信音のあとに(2)

7.彼と彼女のこと

8.フィアンセになりたい

9.発信音のあとに(3)

10.ワンダフル入浴

11.ペンフレンド

12.発信音のあとに(4)

13.悲しみロケット2号

14.展望デッキー夜間飛行


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