ハナレグミの『音タイム』を聴いて考えたバンドとソロとの臨み方の違いについて

2021年3月31日 / 18:00

3月31日、ハナレグミの通算8枚目のアルバム『発光帯』がリリースされたということで、当コラムではハナレグミの1stアルバム『音タイム』を取り上げる。某音楽番組で音楽プロデューサーの丸谷マナブ氏が“アルバムで聴いてほしいJ-POPの名盤”として推薦し、“つい繰り返し聴いてしまう一枚”“ 色褪せない名盤”と氏も絶賛していた作品。SUPER BUTTER DOGのヴォーカリストとして活躍していた永積タカシが、バンド時代とは明らかに違うけれども、それでいて彼らしさを如何なく発揮した、2000年代を代表する邦楽名盤のひとつではあろう。
バンドとソロの違いとは?

当コラムでは永積タカシのソロユニット、ハナレグミが7thアルバム『SHINJITERU』をリリースした2017年10月に彼のキャリアのスタートであるバンド、SUPER BUTTER DOG (以下、SBD)の名盤として『FUNKASY』(2000年)を取り上げた。何を書いたかすっかり忘れていたので読み返してみると、バンドとソロでの活動の違いといったことに言及していて、それはほんのさっきまで今回ハナレグミに関して書こうと大雑把に思っていたことだったので、自分の芸の幅のなさに失望しつつ、それでも『音タイム』を聴いたあとだからか、“まぁ、それがそれで自分なんだから仕方がない”と独り納得して筆を進めてみたいと思う。古今東西、バンドに解散はつきものである。特に一定の成功を収めたバンドは、そこで活動を止め、メンバーが個別に活動を始めるケースは多い。
どうしてバンドを辞めてソロで活動する人が多いのだろうか? “○○○の問題”とか“△△のもつれ”とか、人間関係うんぬんはさておき、そもそもバンドとソロとはまったく別ものであることを念頭に置くと分かりやすいのではないかと思う。勢いで“それは団体競技と個人競技との違いのようなものかも…”と安易にスポーツで例えてしまいそうになるけれどもが、どうやらそう簡単に言えるものでもないらしい。バンドにしてもソロにしても、本質的に他者と競うものではないのでスポーツに例えること自体に無理がある。また、例えばバンドではギターを弾いてソロではギターを弾かずにヴォーカルに専念とか、そこでのパフォーマンスが異なったりすることはあるかもしれないが、いずれにしても演奏したり歌唱したりするわけで、サッカーとゴルフのように目的がまったく違うわけでもない。ここまで書いて、ボート競技でのシングルスカルとダブルスカルやフォア、エイトとの違いに近いかもしれないと思ったりもしたが、ボート競技はボート競技で各人がやっていることがほぼ同じだからバンドとは少し違うよう気もする(やったことがないから分からないけど)。そんなことだから、傍からみて“何で解散するのか?”と考えるし、ひいてはその理由に醜聞を探してしまうようなところはあるのかもしれない。そんなことも考えた。

で、これはSBDの『FUNKASY』を取り上げた時にも書いたことだが、バンド、ソロどちらにも長所があって、どちらがいいとか優れているとか一概に言えない…というのが今のところの結論だ。バンドとソロをともに経験している、とあるベテランアーティストから聞いた話を再度引用させてもらう。「ギター1本で歌っていると自分のタイミングでテンポを変えることができるけど、バンドではそれができない。バンドでは自分が欲しいと思う音を他のメンバーに出してもらうことができるけど、独りではそれができない」。バンドとソロで感じる快楽はまったく別なもの…とは言い切れないけれども、微妙に、しかし確実に異なるもののようだ。バンドを解散せずにソロ活動を行なう人も今では普通になっているし、ソロ活動を経てバンドを復活させるというケースも少なくない。また、最近ではいくつかのバンドを同時に進行させているアーティストも珍しくなくなってきた。そうした事例こそが、バンドとソロとが別ものであり、どちらが優れているわけではない、ひとつの証拠と言えるのではないだろうか。みんなが持ち寄った料理でパーティーをするのと、自分の得意料理を振る舞う…なんて例えを今思い付いたが、これもきっと違う。なかなか他では例えられない魅力が、バンドにせよソロにせよ、音楽活動にあるということなのだろう。
多彩な楽曲を落ち着いたアレンジで

分かり切ったことをくどくどと書いてしまって申し訳ない。『音タイム』のリリースが2002年で、ハナレグミ=永積タカシがヴォーカリストとして参加していたSBDが活動休止したのと同じ年にリリースされていることと、それぞれの作品の感触の違いを鑑みると、やはりバンドとソロとの違いに言及したくなるのである。ヴォーカリストは同じでも明らかに作品の質が違う。しかしながら、端的に言ってどちらもいいのである。お互いがお互いを否定しているような印象がもちろんまったくない。ハナレグミとSBDとは補完関係にあったのかもしれないが、それぞれがぞれぞれの代替ではないことがよく分かるのだ。

それは楽曲の中身以前に、楽曲のタイムからも察することが可能だと思う。過去に取り上げた『FUNKASY』を比較対象とすると、こちらには「FUNKYウーロン茶」と「エ!? スネ毛」という8分を超える長尺のナンバーがあるが、『音タイム』にはそこまで長いものはない。M5「Jamaica Song」が6分30秒でM8「ナタリー」で6分と、その程度。M2「雪の中」が5分28秒ではあるものの、その他は概ね4分前後である(しかも、M5はカバーなので、オリジナル曲としてはそこまで長い曲はないことになる)。これだけでもソロとバンドとでは目的が違うことが分かるのではなかろうか。その違いを乱暴に言えば、演奏の楽しさの違いということになるのではなかろうか──と、これもまた、勢いでそう言ってしまうのも語弊がある。ある意味で当たっているけれども、まったくそうだと言い切れるものでもなかろう。本作『音タイム』は全体的にアコギを基調としたサウンドが多い印象で、とりわけイントロではアコギの単音弾きがよく聴こえてくる。温かみがある音と言ったらいいだろうか。そうしたやわらかい音作りは本作の特徴ではあるものの、弾き語りアルバムではなく、バンドサウンドで構築されている。

それが最も分かりやすいのはM7「かこめ かこめ」。ご丁寧にメンバー紹介まで入れているのだから、ソロ作品ではあるものの、ひとりで作っているわけではないことをさりげなく強調したかったような印象がある。メンバーはオオヤユウスケ(Gu)、ミト(Ba)、坂田学(Dr)、原田郁子(Key)。この時点で坂田はPolarisに参加していたので(2005年に脱退)、Polaris、クラムボン、SBDによる豪華セッションであっただけでなく、2006年にオオヤ、原田、永積の3人で結成したヴォーカルユニット、ohanaの前身とも考えられるわけだが、いずれにしても、『音タイム』でのセッションはそこからの派生も含めて、永積の中ではソロもバンドもシームレスにつながっていることは想像できる。これもまたバンドとソロとの微妙な関係をうかがわせる、その実例のひとつと言えるのではなかろうか。

アコギ基調とはいえ、ジャンルも偏ったものではない。これもまた本作の特徴でありつつ、永積のやりたい音楽とはソロであれバンドであれ、その本質はそう変わらないということではないだろうか(筆者はSBDもハナレグミもohanaも、それら全てを聴いたわけではないのでお門違いな見解だったら御免)。分かりやすいところで言うと、まずM2「雪の中に」がレゲエ。続く、M3「明日天気になれ」は軽快なシャッフルビートのカントリー調。M5「Jamaica Song」がスカ。M6「Wake Upしてください」はセカンドラインのリズムが象徴的なニューオーリンズ風なナンバー。M7「かこめ かこめ」はジャズ風味と来て、M8「ナタリー」はスローバラードと、曲数こそそれほど多くはないが、ブラックミュージックに対する敬愛が感じられる、バラエティーに富んだアルバムと言える。いずれの楽曲も音数が少ないというか、ブラスセクションを取り込んだり、エレキギターを何本も重ねていたりするようなところがないので、『音タイム』はシンプルなアレンジのアルバムととらえられているようではあるけれども(それはそれで間違ってはいないのだろうけど)、だからと言って、まったく内容は薄くはないというか、音楽性が控えめにはなっていないのである。
歌詞に見る永積タカシの心意気

『音タイム』収録曲の歌詞からも、永積の音楽に向かうスタンスはバンドの時とあまり変わっていないことがうかがえる。

《Wake Upする気はない Wake Upする気はない/Oh する気はない/嵐でも起きない 津波でも起きない/NO MORE 起きない》《死んでも起きない タダでも起きない/NO MORE 起きない》(M6「Wake Upしてください」)。

《夜な夜な聞こえる パイの音/ヤミのカジノが はじまった》《かこめかこめや マージャン かこめ/子供は寝かせて さぁ かこめ/かこめかこめや マージャン かこめ/負けてちゃ終われない さぁ かこめ》(M7「かこめ かこめ」)。

M6は“春眠暁を覚えず”の独自の解釈か、それとも遅刻の言い訳だろうか。M7は文字通り麻雀のことを歌ったものだろうが(そうとばかり言い切れない節も若干あるが…)、童歌をもじって親しみやすさを加えているのは、逆に見れば、毒っ気にも感じられる。いずれにしても、ユーモアは彼にはなくてはならないものであることが分かる。また、彼のスタンスはバンドの時とあまり変わっていないとは言っても、『音タイム』は永積にとって初めてのソロ作品。全体的にいい感じで肩の力が抜けた印象はあるものの、“ひとりでやっていく”という決意めいたものを見出すこともできる。

《さぁ 始めよう/音タイム 音タイム 音タイム/さぁ 歌いましょう/音タイム 音タイム 音タイム》《朝が来たなら 朝を歌おう/夜が更けたら 夜の歌を/素敵なメロディー 口ずさめば/思い出せるよ 懐かしきストーリーを》(M1「音タイム」)。

《変わらない ここで待ってても/行かなくちゃ 一人ぼっちでも/何処かで 僕を呼ぶ声/届くかなぁ 明日天気になれ》(M3「明日天気になれ」)。

《忘れ物もしたけど 見つけた物もあるよ/無駄な時なんて 一日もないさ/出会えた人たち 言葉をありがとう/名もなき人たち 風景をありがとう》《気の合う仲間たち 力をありがとう/つつみかくさない 心をありがとう》(M9「一日の終わりに」)。

のちに永積はSBDの解散に際してこんなコメントを寄せた。“五年ほど休憩して新たにはじめた 一年の中で やはり 埋まらない 五人ではうまくバランスのとれない 気持ち 情熱 熱量 が 自分の中にもメンバー 一人一人の中にもあることに気づき(後略)”。SBDは発展的な解散であったとは思うが、永積の言うところの“五人ではうまくバランスのとれない 気持ち 情熱 熱量”、その萌芽や種火といったものは上記の歌詞にも隠されているように思う。でも、それは彼のやりたかったことなので、今となってはこればかりは如何ともし難いというか、何と言ってみようもないが、こうして作者のさまざまな側面が露呈してしまうというところを見ると、『音タイム』はソロアルバムらしいソロアルバムと言えるのかもしれない。
TEXT:帆苅智之
アルバム『音タイム』
2002年発表作品

<収録曲>

1.音タイム

2.雪の中に

3.明日天気になれ

4.家族の風景

5.Jamaica Song

6.Wake Upしてください

7.かこめ かこめ

8.ナタリー

9.一日の終わりに


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