X


ヨルシカ「音楽本来の楽しみ方の復活」聴くだけでなく読ませる作品へ―――新しい春のスタンダードソング「春泥棒」の衝撃

 YouTubeに公開しているミュージックビデオは悉く数千万回再生を記録し、1億回を突破した作品もあるヨルシカ。その文学的かつ考察し甲斐のある作品性を支持されてきた彼らの新曲「春泥棒」が話題沸騰中だ。

<僅か1か月で1500万回再生を突破! 新しい春のスタンダードソングへ>

 ヨルシカは、ボカロPとして活躍していたコンポーザー・n-buna(ナブナ)と彼の音楽を愛聴していた女性ボーカリスト・suis(スイ)によって2017年に結成された音楽ユニットである。音楽を残して逝ってしまったエイミーという青年の物語と、その青年を模倣して音楽を始めるエルマという女の子の物語で構成された2作のコンセプトアルバム『だから僕は音楽を辞めた』『エルマ』をはじめ、劇的な作品を次々と発表してきたが、春本番を直前に控えた今「春泥棒」なるストーリー性のある衝撃作についての考察がネット上に乱立。ヨルシカ史上最大規模とも言える反響を呼んでいる。

 1月9日に配信リリースされ、新作EP『創作』にも収録されている同曲は、映画『君の名は』『天気の子』などで知られる新海誠さんが入り総監督を務めた『大成建設』TVCMソングとしても注目を集め、TikTok週間楽曲ランキングにも初週から上位に食い込み、MVの再生回数は公開から僅か1か月で1500万回再生を突破。その勢いは止まることを知らず、桜の季節に向けてストリーミング再生回数やダウンロード数などもまだまだ伸びてゆく様相を呈しており、新しい春のスタンダードソングの仲間入りを果たすこと間違いなしの1曲となっている。

 「春泥棒」がこれほどの盛り上がりを見せている要因は、春に相応しいドラマティックな美しい旋律や、suisの凛としながらも儚いエモーショナルな歌声に加え、様々な憶測を誘導している歌詞とMVの内容にある。

<考察するリスナーが続出! 涙なしでは聴けない別れの歌へ>

 ヨルシカは、2020年に『盗作』なるアルバムと小説をリリースし、その続編として今年『創作』を発表したのだが、これらの作品で描かれている“音楽の盗作をする夫”と“亡くなってしまった妻”らしき男女が「春泥棒」のMVに登場。そのMV公開に伴い「春の日に昭和記念公園の原に一本立つ欅を眺めながら、あの欅が桜だったらいいのにと考えていた。あれを桜に見立てて曲を書こう。どうせならその桜も何かに見立てた方がいい。月並みだが命にしよう。花が寿命なら風は時間だろう。それはつまり春風のことで、桜を散らしていくから春泥棒である」といった意味深な文章がヨルシカのツイッターアカウントに投稿された。

 このメッセージと「春泥棒」の歌詞とMVの内容を重ね合わせ、さらには『盗作』『創作』の楽曲群に小説まで改めて読み解いたリスナーたちは、「花=寿命、風=時間」ならば、歌詞にある「花散らせ今吹くこの嵐は まさに春泥棒」や「はらり今春仕舞い」は、愛する人の寿命を過ぎ行く時間が激しく奪っていったストーリーを表現しているのではないか。「春泥棒」は妻が亡くなるまでの物語なのではないか。このような主旨の考察がYouTubeのコメント欄などに続々と投稿され、同曲は美しい春の歌から涙なしでは聴けない別れの歌へと印象を変え、着実にヨルシカを代表する大ヒット曲になりつつあるのだ。

<音楽本来の楽しみ方を今の時代に復活させるアプローチ>

 これまでもヨルシカは、音楽を聴くだけでなく読ませる作品として昇華してきた。音楽がインスタントになり、使い捨てされることも多い時代になって久しいが、ひとつひとつの作品、ひとつひとつの楽曲、ひとつひとつのフレーズ、もっと言えば、歌唱表現の違いや音使いのすべてに至るまで紐解くことで見えてくる物語や景色があるという、音楽本来の楽しみ方を今の時代に復活させている。その最たる例が「春泥棒」であり、おそらくこの先もリスナーひとりひとりの考察と共に様々なドラマを想起させる名曲として聴き継がれていくだろう。

 若者中心に評価されている印象の強いヨルシカだが、物心ついた頃からCDを購入してはアートワークや歌詞カードを眺めながら、楽曲ひとつひとつから想起させられる物語や景色や想いを紐解いては、音楽の奥行きに魅了されていた世代である自分のようなリスナーにとっても、今回の「春泥棒」をはじめとする彼らの作品は心躍らせてくれる。音楽をより簡易なコンテンツにしていこうとする時代の流れに逆らうように、考察も含めて長く深く堪能できる作品、或いは広く探求できる作品を求めていたリスナーの潜在意識を呼び戻していくアプローチは、あらゆる世代の音楽ファンを魅了していくはずだ。

 今の時代にヨルシカが居てくれてよかった。今後の音楽活動にも大いに期待したいし、まだ彼らの音楽と出逢っていない人たちに大いに薦めていきたい。まずはこの春を豊かに彩ってくれる「春泥棒」、ぜひ堪能してみてほしい。

テキスト:平賀哲雄

◎リリース情報
・EP『創作』
2021/01/27 RELEASE
Type A:UPCH-2215 2,090円(tax in.)
Type B:UPZZ-1839 1,100円(tax in.)
・アルバム『盗作』
2020/07/29 RELEASE
初回限定盤(書籍/カセット付属):UPCH-7562 5,500円(tax in.)
通常盤:UPCH-2209 3,300円(tax in.)
https://yorushika.com/

◎ヨルシカ「春泥棒」YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Sw1Flgub9s8

◎ヨルシカ「春泥棒」配信リスト
https://VA.lnk.to/SpringThief

音楽ニュースMUSIC NEWS

ビッケブランカ、全編英詞の新曲「Never Run」MV公開 全国ホールツアーも決定

J-POP2024年5月5日

 ビッケブランカが、新曲「Never Run」をサプライズ配信リリースし、ミュージックビデオを公開した。  新曲「Never Run」は、今年2月に北米ツアーを敢行したビッケブランカが、現地で感じたフロアを盛り上げるビートやアレンジをふんだ … 続きを読む

くじら、アニメ『先輩はおとこのこ』オープニング&エンディングテーマを担当

J-POP2024年5月5日

 くじらが、2024年7月4日深夜よりフジテレビ“ノイタミナ”で放送されるTVアニメ『先輩はおとこのこ』のオープニングテーマとエンディングテーマを担当する。  本アニメの原作は、【次にくるマンガ大賞2021】Webマンガ部門で3位、【第5回 … 続きを読む

BE:FIRSTが【JAPAN JAM 2024】に登場、初となる「Shining One」バンド編成パフォーマンスも

J-POP2024年5月5日

 BE:FIRSTが、2024年5月5日に千葉・千葉市蘇我スポーツ公園で開催された【JAPAN JAM 2024】に出演した。  同フェスへ2年連続の出演となったBE:FIRST。5月3日に出演した【VIVA LA ROCK 2024】に引 … 続きを読む

【深ヨミ】最新作が11作連続の首位獲得 WEST.の過去のシングルセールスを調査

J-POP2024年5月5日

 2024年5月6日付のBillboard JAPAN週間“Top Singles Sales”で、WEST.の『ハート/FATE』が263,585枚を売り上げ首位を獲得した。(集計期間2024年4月20日~4月26日)  『ハート/FAT … 続きを読む

Travis Japan「Sweetest Tune」×ドラマ『東京タワー』コラボMV、名シーンや未公開シーンを収録

J-POP2024年5月4日

 Travis Japanの新曲「Sweetest Tune」と、テレビ朝日系オシドラサタデー『東京タワー』のコラボMVが期間限定公開された。  本ドラマは、2001年に刊行された江國香織の同名小説が原作で、永瀬廉(King & P … 続きを読む