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『ディスコ』カイリー・ミノーグ(Album Review)

 カイリー・ミノーグも、御年52歳。日本でも一世を風靡したデビュー・アルバム『ラッキー・ラヴ』(1988年)のリリースからも32年経つが、美貌やセンス、貫禄諸々現役感をここまで維持して、トップスターに相応しい活躍を続けてきたことには感服する。パフォーマンスや作品への拘り、謙虚な人間性からも、世界中の根強いファンが支え続けてきたことに納得。
 
 2年半ぶりの新作『ディスコ』にも、彼女らしい拘りが満載。カントリーを基とした前作『ゴールデン』(2018年)も、キャリアの異なる方向を示した意欲的な作品だったが、本作はタイトルの示す通り、幼少期に愛聴していたというドナ・サマーやアバに直結した原点回帰のダンス・アルバムに仕上がっている。70年代ディスコのアナログ盤を彷彿させるカバー・アートも、無理なくカイリー・ミノーグ“らしい”。
 
 今年は、デュア・リパの「ドント・スタート・ナウ」やドージャ・キャットの「セイ・ソー」など、かつてのディスコ・サウンドを焼き直した曲がトレンドとなっている。流行に則ったという意味でもそうだが、ディスコの解釈を「安心して身を委ねることのできる世界」と話していたことから、コロナウイルスの影響による心の免疫力回復とモチベーション維持、という観点においても絶好のタイミングだった。
 
 先行シングル「セイ・サムシング」には「愛は愛のまま終わりはしない また一緒になれるかしら?」というフレーズがあるが、同曲含め、本作にはコロナ収束後の希望やポジティブなメッセージが詰まっている。プロデュースは、米ビルボード・ダンス・クラブ・ソング・チャートで1位を獲得した「ラヴ・アット・ファースト・サイト」(2001年)他、多くの楽曲に携わってきたビフ・スタンダード。最先端の技術を駆使したゴージャスなMVでは、曲に準じた煌びやかな世界観と女王の貫録をみせつけた。ボーナス・トラックには「F9 リミックス」と「SYN COLE リミックス」が収録されている。 
 
 2ndシングルの「マジック」は、ダフト・パンク流のサウンド・プロダクションを敷いたディスコ・ファンク。耳にこびりつくマイナー調の旋律、フロアを浮遊するファルセット、未来型のフロアをイメージしたミュージック・ビデオいずれも超最高級のクオリティで、流石はオープニングを飾るだけのインパクトを放つ。本人曰く「アルバムの土台」となった曲だそうで、以下の曲陣がこれだけ完成度の高いものに仕上がったのも、この「マジック」あってのもの。制作には、2010年以降のアルバムではお馴染みとなったダニエル・ダヴィッドセンと、R&Bシンガーやラッパーの作品にも携わってきたテーム・ブルニラがクレジットされている。
 
 ディスコを基としてはいるが、それぞれの持ち味は異なる。「マジック」に続く「ミス・ア・シング」はフューチャー・ハウスっぽい雰囲気だし、次曲「リアル・グルーヴ」は、モダンなビートとノスタルジックなメロディ・ラインの70代風ディスコ。スカイ・アダムスが加わった「マンデー・ブルース」なんかは、アコギの演奏にパーカッションで彩りを添えた、夏っぽい雰囲気のダンス・ポップで、それぞれが個性に溢れている。「マンデー・ブルース」には、一部シェレールとアレキサンダー・オニールによる「サタデー・ラヴ」(1985年)似のフレーズもあり、(その世代には)懐かしい感覚も蘇る。
 
 音楽の捉え方は個々夫々だが、カイリーが根差すアルバムのコンセプトも「世代や人種関係なく、それぞれの価値観や気分によって選べる世界」とのことで、~風かは自分が決めればいいという。たとえば5曲目の「スーパーノヴァ」は、個人的に80年初期~中期のユーロビートっぽく聴こえるが、若層は2010年代のエレポップと重ねるかもしれない。個人の捉え方で楽しめばいいわけだ。音楽(アート)とはそもそもそういうものだが、固定概念に囚われないという点も、諸々窮屈なこの時世にはしっくりくる。
 
 本作は、前作『ゴールデン』のツアーにあった<Studio 54>というディスコ・セクションからヒントを得たそうで、ロマンティックなストリングスを響かせる「アイ・ラヴ・イット」や、LGBTQフォロワーに絶賛されそうな「ホウェア・ダズ・ザ・DJ・ゴー?」、全米No.1をマークしたダイアナ・ロスの「ラヴ・ハングオーヴァー」(1976年) を彷彿させる、ミディアムからハウスに転調する「ダンス・フロア・ダーリン」、ドナ・サマーの「バッド・ガール」(1979年)をそっくり真似た「ファイン・ワイン」など、70年代ディスコ直結のナンバーも充実。<Studio 54>は、70年代後期にトップ・セレブが通い詰めたという米ニューヨークにあった伝説のクラブで、サウンドはもちろんのこと、前述のミュージック・ビデオにもその影響が見受けられる。
 
 その他、『コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア』(2005年)~『ハード・キャンディー』(2008年)あたりのマドンナと錯覚する「ラスト・チャンス」や、才女フィオナ・ビーヴァンが手掛けた「アンストッパブル」、フロアの名残惜しさを再現した本編のエンディング「セレブレイト・ユー」まで、テンポを緩めずダンス・トラックが続く。同調の曲が続くとマンネリ化する傾向にあるが、本作はそれを一切感じさせない魅力がある。
 
 初期のダンス・ポップとも、自身最大のヒットを記録した『フィーヴァー』(2001年)  前後の作風ともまた違う。キャリアの集大成という捉え方もできなくないが、ここまで頑なにディスコ・ミュージックに徹したのは本作が初めてで、往年のファンはもちろん、新世代を共感させ得る革新的な要素も詰まっている作品。いずれにしても、自身が純粋に音楽を楽しみ、リスナーにも同じ気持ちになって欲しいという想いが伝わってくる。これが、カイリーの表現する「希望に満ちた安心して身を委ねられる世界」か。

Text: 本家 一成

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