音楽クリエイター集団TOKYO RABBITを紐解く【前編】“出し惜しむことを恐れていたら次はない”

2020年11月13日 / 19:00

L→R トサキユウキ(Gu)、堂野アキノリ(Vo)、阿部樹一(Pf&Key)、大塚篤史(Dr) (okmusic UP's)

数多くの著名シンガーに楽曲提供を行ない、幾つものヒット曲を生み出してきたシンガーソングライターの堂野アキノリ(Vo)が中心となって結成されたTOKYO RABBIT。堂野が代表を務める配信中心のレーベル『TOKYO RABBIT RECORDS』の核となっているバンドが2020年11月より本格始動した。TOKYO RABBITとはいったいどんなバンドなのか? ゼロから紐解いていくことで、彼らが普通のバンドではないことが分かってきた。
演奏力の高いメンバーが揃ったが 編曲ができる人がいなかった

吉本の養成所に通いお笑い芸人として活動をし、その後はスキューバダイビングのインストラクターを経て、L.A.のLos Angeles City Collegeで映像制作の勉強をしたり、サラリーマンになったりと幅広い経歴を持つ堂野の主軸にはいつも音楽があった。その彼が旧友でプロドラマーとして多くのアーティストをサポートしている大塚篤史(Dr)とTOKYO RABBITの前身バンドを組んだのは2017年。その当時、堂野はどのようにしてプロモーションをするか分からずに模索していたと語る。

「2017年に昔バンドを一緒に組んだこともある大塚と“バンドをもう一回やろう”という話になったんです。ですが、その当時はまだプロモーションの仕方も分からなかったんですよね。僕はとりあえず、ユニバーサル音楽出版と作家契約をしていて、でも、ある程度縛りはありますから、バンドとしてはあまり動けなかったので作家契約を辞めたんですよ」(堂野)

その経験を経て、堂野は2018年に独立をするため『TOKYO RABBIT RECORDS』を立ち上げた。基本的にひとりで経理や事務、宣伝などを行なっていたが、会社として環境が整ってきた時、今はなきライヴハウスの青山HEAVENで阿部樹一(Pf&Key)と出会う。

「青山HEAVENの店長だったハマさんに“ハマさん、ピアノでいい人いませんか?”と訊いたら“阿部ちゃんだよ! 阿部ちゃんうまいんだよ”と言ってくれたので、阿部さんと会うことになったんですけど、彼がほとんどしゃべらないんですよ(笑)」(堂野)

「そんな感じの紹介だっけ?(笑) もともと僕もハマさんは知っていたので、それで紹介してくれたのかな」(阿部)

「それで、僕と阿部さんとベースをひとり入れて青山HEAVENでライヴをしたんです。その後、ライヴをしたし、一緒に作品を作りますかということなってバンドに加入してもらいました」(堂野)
阿部は年間200 本以上のライヴを全国各地で行ない続けるジャズピアニストだ。そんな彼が加わったことでTOKYO RABBITはもちろん、『TOKYO RABBIT RECORDS』は本格的に始動するかと思われたが、堂野の中では足りないものがあったという。曲作りはできるが、それを装飾する編曲家がいなかったのだ。しかし、MINMIなど著名アーティストのツアーサポートも経験しているトサキユウキ(Gu)と出会ったことで、またしても経験値と技術力が各段に高いメンバーが加入することとなる。

「『TOKYO RABBIT RECORDS』のレーベルをスタートする中で、考えたらサウンドメーカーができる人がいないという話になって。阿部さんも大塚も演奏力が高いし、僕は曲も作れるけどアレンジができる人がいなくて。それで、僕としてはレーベルもバンドも停滞してるし、どうしようかと思っていたんですね。僕はレーベルで新人のプロデュースもやっているんですが、その中で別のアーティストの編曲をしていたのがトサキだったんです。彼が作るサウンドがとても良かったので、一緒にやってほしいと声をかけました」(堂野)
バンドのメンバーが 所属アーティストをサポート

実を言うとTOKYO RABBITは2017年にミニアルバム『JUST A STORY』をリリースしている。しかし、この作品はあえて1stと数えられていない。いったいどういうことなのか? その背景には堂野が行なっている映像作品の制作が関わっていた。

「『JUST A STORY』の時、阿部さんもトサキくんもいなかったよね」(大塚)

「いないね。いなかったし、あの作品はバッと集まって単純にリリースしてみただけでした。宣伝も全然できなかったし、やり方も分からなかったのに、とにかくかたちにしたという感じでしたね。その時に短編映画『日傘の蔭』も撮っていたので、映画と僕たちのバンドの音楽を合わせたらどうなるかと思って実験的にミニアルバムを作ったんです。実はその短編映画を2020年になって“これが初めて作った映画です”と恥ずかしながらYouTubeにアップしたら、4万回再生を超えて(笑)。何が反響を呼ぶか本当に分からない時代ですよね」(堂野)
堂野の中でTOKYO RABBITは、今の4人が集まったことでちゃんとスタートさせたいと思っていたようだ。そして、『TOKYO RABBIT RECORDS』も次々とリリースするアーティストが増えて軌道に乗る中、2019年1月に1st EP『東京』にてTOKYO RABBITが始動することとなる。レーベルを運営する堂野にとって、自身が所属するバンドはどのような位置付けになるのか?

「レーベルを立ち上げる背景にはTOKYO RABBITのメンバーがいました。レーベルの芯となるものは音楽なんですよね。その音の基軸がないと、このバンドも存在しないですし、レーベルのサウンドもなかなか難しくて。僕たちはライヴ活動をそんなにしていないから、半分は制作チームみたいな感じなんですよね。例えば、我々のレーベルからSUMIREというアーティストが音源をリリースしたんですけど、彼女の曲を書くことになったらトサキがアレンジをしたり、阿部さんがピアノを弾いたりして。ライヴでは大塚もサポートで入ったりするので、結局はこのメンバーで関わるアーティストのサポートをしていくから、レーベルとしての“音楽の色”はこの人たちで作っているんです。だから、TOKYO RABBITには強みとしてレーベルもあることをみなさんにも知ってもらいたいと思いますね」(堂野)

「本当にバンドというよりは、チームみたいな感じですよね」(大塚)
レーベルにTOKYO RABBITというバンドがあり、メンバーがそれぞれ個の力でレーベルを支えることができる。まさにバンドというよりはクリエイター集団と言っても過言ではない。そんな彼らがリリースした『東京』はどのように生まれたのだろうか? ミディアムテンポでウェットなサウンド、堂野のささやくような透き通った声にどことなく懐かしさも感じられる同曲。原型となったテイクは今のサウンドとはまったく違っていたのだという。楽曲アレンジにおいてトサキの存在はとても大きなものとなっているようだ。

「トサキくんが入るまでに3人でいくつか楽曲を作って録ってはいましたけど、トサキくんが入ってサウンドの方向性が決まったんです。それまでは、みんなで試行錯誤していて」(大塚)

「まとまらなかったし、『TOKYO RABBIT RECORDS』がスタートした2018年は一曲もリリースをしてなくて、ずーっと“何をやってたんだろう?”と思うくらいに進まなくてね。“これでいくの?” “これで勝負するの?”と言いながら。でも、トサキくんが入って「東京」が完成した時は“これだ! これでいける!”となりました」(堂野)

「「東京」はすごく前に一回録り直しましたよね」(大塚)

「違うバージョンというかね」(阿部)

「本当に最初はバンドだけの一発撮りでできるようなテイクの録音をずっとやっていて。わりと大塚も僕もバンドサウンドで考えていたからね。そういうのもいいけど、それだけだとダメだと思っていた時にトサキくんが入ったんです。阿部さんはジャズマンだし、大塚もインストバンドをやってたりと演奏をずっとしている人たちだから、僕らは音楽性という面では演奏力があるし、作品もあるんだけど、肝心な性質がなかったんです。その性質をトサキは持っていたので、彼の性質で曲を活かしてあげるという。だから、僕たちにとって彼が音楽におけるプロデューサーですよね。僕は作家の部分も含めた全体のプロデューサーだと思うんです」(堂野)
バンドメンバー全員から大きな信頼を得ているトサキだが、彼は3人が作っていた「東京」の原曲を聴いてどのように感じたのだろうか?

「とりあえず、原曲を今風に変えなきゃいけないと思いました。“もっとやり方があったでしょ?”と(笑)。“なんでこうなってんの? みんな妥協しながら作ってるでしょ!”と思いましたね。そんな感じだったからもっと良くしたかったんです」(トサキ)
出し惜しみをしていたら 人生的に次はない

サウンドメーカーのトサキが加入し、技術力だけでなく楽曲の方向性も確立することができたTOKYO RABBITは、1年間で2作のEPと4作の配信シングルの計6作品をリリースした。年間で考えると脅威的なペースと言えるが、これはもともと計画されていたものなのだろうか? それとも楽曲ができた時点でリリースされたものなのか?

「両方ですね。“これは出したい!”と思っていた曲も多くて。ミュージシャンの人は“これはいい曲だから取っておこう”と出し惜しむことがあると思いますが、それを恐れていたら次はないんですよ、人生的に。それがなくなった時に窮地に陥るというか、その時に新しい作品が出るのか出ないのか。そこでゼロをイチにし続けれるかどうかの恐怖と戦うことを、僕はやってこなかったと思ったんです。だから、恐れずにどんどん出していこうと考えて作品を出し続けました。「SUN SHOWER」や「the NEW WORLD」はいい曲だと感じたので、作ってすぐトサキに渡して、ふたりで進めながらリリースしましたね。4人でレコーディングするとなると大がかりになるので、EPとしてまとめる場合はいいんですが、コンパクトにリリースする場合はこのほうがいいかなと思ったし。大手のレコード会社だととても時間がかかることが、自分たちのレーベルなのでパパッとやってバッと出せますからね。音源データを配信サービスに登録したら3日後には聴けるようになる時代だから、このやり方を活かしていきました」(堂野)
時代の流れを活かしてプラスに変えていく堂野の行動力の高さはバンドの活動に大きな影響を与えているのだろう。配信シングルに関しては堂野とトサキでスピーディーに進めたということだが、大塚と阿部はそのことに対してどのように感じているのだろうか。

「結構知らない間に進んでいることが多かったですよ(笑)」(大塚)

「なんか、変な話だなと思ったらそうなんですよね(笑)」(阿部)

「僕が突っ走って進めちゃうから、大塚とかなんか怒ってるなと感じる時もありますよ。だから、リリースについてはしっかりと説明をしていますよ(笑)」(堂野)

「でも、バンドというより僕たちはチームって感じですからね。毎回、必ず集まらなくてもいいとは思っています」(大塚)

堂野が話していた通りTOKYO RABBITは自主レーベルあることが大きな強みであり、その分、自由に動くことができる結果が活動1年目とは思えないリリース数につながったのだ。そんな彼らの楽曲を聴くと分かってもらえると思うが、音楽におけるプロフェッショナルが集まったチームだからこそ、筆者はライヴ会場でひとりひとりの演奏技術を楽しむのはもちろん、曲の世界観にどっぷりと浸りたくなる。実際、ライヴ活動についてはどのように考えているのだろうか?

「ライヴをしたいという気持ちは今のところなくて。それこそ、まずはたくさんの人に“ライヴを観たい”と思ってもらえるようにならなくちゃいけないかなと」(堂野)

「普通のバンドとは逆ですよね。ライヴを重ねた後に作品を作ろうとなる気がしますけど。我々は出会ってから4年近くになりますが、人前でライヴをやったのは2回しかないですから」(阿部)

「4人でアンサンブルをすることもないですよね」(トサキ)

「メンバーのうち誰かとライヴをやるとか、同じライヴの現場で一緒とかはありますけど」(大塚)

「僕自身が音楽の接し方はいろいろあると思っていて。ライヴはライヴならではの良さがあるけど、自分自身がスピーカーで家でゆっくり聞くとか、そっちが好きだったり、ライヴでずっと立ってるのが嫌なんですよ(笑)あれ、疲れません?」

「僕もそうなんですよ! 人生で最初に行ったライヴが高校の時の長渕剛さんの桜島のオールナイトライヴだったのですが、もう過酷すぎて…帰り道に、盲腸になりましたもん(笑)。それ以来、潜在的にはトラウマで」(トサキ)

「盲腸になったの!?(笑)」(大塚)

「長渕さんのオールナイトはまた極端な話だけど、酷いね…(笑)」(阿部)

「ほらね。ライヴは危険ですよ(笑)。今はCDや配信で僕たちの曲を、一番いい音で部屋で聴いてほしいかな?」(堂野)
いつかライヴで彼らの音楽を楽しむことができるのか? 筆者はそんな願望に似た気持ちが残るが、堂野の言うように音楽の楽しみ方はさまざまである。楽しみ方はリスナーの判断に任せるというのがベターかもしれないが、チームとしていい雰囲気の中、楽曲制作に対する意欲が増していることもひとつの要因だという。

「バンドの精度がどんどんと上がっているんです。トサキのサウンドで全部打ち込みの曲もありだと思うし、大塚が宅録できるようになったからドラムの音を聴くとバンドサウンド特有の味を感じられるし、阿部さんも打ち込みする機会をドンドン増やして劇伴の仕事なんかも少しずつ始めているし、試行錯誤を重ねながらも今後はもっといい曲をスピーディーに作っていきたいんですよね」(堂野)

豊富な経験を持つ音楽のプロフェッショナルが集まり、自主レーベルという大きな武器を持つTOKYO RABBITだからこそ、自己プロデュースでエンターテインメントを発信できる時代にも柔軟に対応し、固定概念にとらわれない自由な活動を実現することができるのだろう。そんな彼らが今まで模索し続けたプロモーションにも本格的に力を入れて、世の中に解き放つシングルコレクションとなる配信EP『ウサギのジャンプ』を11月6日にリリースした。【後編】では、作品のことはもちろん、なぜ今シングルコレクションを出すのか、彼らがこれからどんなビジョンを描きながら動いていくのか。その辺りを詳しく伝えていきたい。
Text by 岩田知大
配信EP『ウサギのジャンプ』
2020年11月6日(金)配信開始

■配信リンク

https://linkco.re/TDu2mFvh

<収録曲>

1. #37 JIBUN LIFE

2. HANABI

3. the NEW WORLD -alternate take-

4. 東京

5. SUN SHOWER -alternate take-

6. 明方の唄

7. ツキノヌクモリ


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