『アリシア』アリシア・キーズ(Album Review)

2020年9月28日 / 18:00

 前作『ヒアー』から約4年ぶり、7枚目のスタジオ・アルバム『アリシア』がようやくリリースされた。当初の予定から約半年延期されてリリースされたのは、言うまでもなく新型コロナウイルス感染拡大の影響によるもの。その半年間には、チャリティ番組の出演やBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動など、支援活動に取り組む真摯な姿勢が高く評価された。本作には、それ等昨今の社会情勢に触れた曲が多数収録されている。
 
 その筆頭となったのが、アルバムの終盤を飾る「パーフェクト・ウェイ・トゥ・ダイ」~「グッド・ジョブ」。前者は、BLMを取り上げた曲で、当時の生々しい状況と前向きな追悼が込められている。後者は、コロナ禍を各方面から支える従事者への感謝や、行き詰った人たちへの激励が綴られていて、いずれもピアノの弾き語りで歌詞の重みを強調した。「パーフェクト・ウェイ・トゥ・ダイ」のミュージック・ビデオには、故ジョージ・フロイド氏のアートが映し出されるシーンがあり、じんわり感傷的になる。
 
 ラスト2曲はバラードが連なるが、アリシア本人が「ジャンルレスなアルバム」と説明していた通り、本作は多様なジャンルを用いたバラエティに富んだ内容となっている。とはいえ、夫スウィズ・ビーツと共作した冒頭の「トゥルース・ウィズアウト・ラヴ」はじめ、ブラック・ミュージックを基盤とした自身のスタイルは崩していない。
 
 1年前にリリースした「ショウ・ミー・ラヴ」は、R&Bシンガーのミゲルをパートナーに迎えたオーガニック・ソウル。上品で艶やかなサウンド、良い具合に脱力した両者のボーカル・ワークがすばらしく、この2人だからこそ醸し出せるムードにホロ酔いする。ボーナス・トラックには、ラッパーの21サヴェージを加えたリミックスも収録された。対して2ndシングルの「タイム・マシーン」は、エレクトロ・ビートを取り入れたトリップ・ホップ。跳ねるようなステップと宙を舞うコーラスが、70’sディスコを彷彿させる。過去の栄光に縛られない、そんなニュアンスを含んだ歌詞はリアルに基づくもの……か?同路線では、マーク・ロンソンがプロデュースした「オーサーズ・オブ・フォーエヴァー」も、昨今流行りのニュー・ディスコっぽくて(アリシアにとっては)新鮮。
 
 さらに、3曲目のシングル「アンダードッグ」では、エド・シーランとスノウ・パトロールのジョニー・マクデイドをソングライター/プロデューサーに迎え、フォーキーなヒップ“ポップ”でまた違う彩りを添えている。クレジットを見ずとも独特の節が「エド・シーラン作」を物語っているが、アリシアのボーカルにこれほどハマるとはちょっと意外だった。終盤のコーラス隊との一体感は、本作のハイライトともいうべくすばらしさで、黒人らしさを強調したミュージック・ビデオと合わせて聴くと尚良さが際立つ。同曲は、コロナウイルスが蔓延する前の1月初旬にリリースされたが、困難な状況から立ち上がる前向きなメッセージが、思いがけず相まってしまった。それだけに、この曲の存在意義は大きい。
 
 そういった状況を経て、カリードとタッグを組んだ「ソー・ダン」では“自分らしく今を生きていく”強い意志が歌われている。柔らかく都会的なネオソウルに、生音の活かし方に秀でた両者のアルト&バリトンが溶け合う。もはや口を出す要素すら見つからない。女優のサーシャ・レーンが出演したMVでは、パーティー会場のステージで歌う「シンガー役」そのままを演じたが、22歳のカリードをお姉さん目線で温かく見守るアリシア、彼女も気付けば39歳だった……。
 
 リリース直前にシングル・カットされた「ラヴ・ルックス・ベター」は、‎ワンリパブリックのフロントマン=ライアン・テダーと、その‎ワンリパブリックのヒット曲「カウンティング・スターズ」(2013年)のソングライターとしても参加したノエル・ザンカネラが制作の軸となった、バロック・ポップ風のミディアム。前述の「アンダードッグ」もそうだが、R&Bを意識せずともアリシアが歌えばそれらしく聴こえるから不思議だ。見事な肉体美を披露したピースフルなミュージック・ビデオは、90年代ヒップホップの面影もみられる。
 
 アフリカ地方では高い人気を誇るダイアモンド・プラトナムズというアーティストと共演した「ウェイステッド・エナジー」は、ボブ・マーリーを彷彿させる70年代風ラヴァーズ・ロックで、米フィラデルフィア州出身の女性ラッパー/シンガーのティエラ・ワックをフィーチャーした「ミー × 7」では、アフリカの民族音楽(的サウンド)で黒人らしさを強調した。ドス黒さを期待したジル・スコットとのコラボレーション「ジル・スコット」は、ファルセットで統一したナチュラルで優しい空気感に包まれていて、デニース・ウィリアムのような心地よさに浸れる。
 
 シンガー/プロデューサーのサム・ロメンズがプロデュースした「グラマシー・パーク」も、メロディライン、演奏、ボーカル全てが優しさに溢れている。 ファンキーなアクセントを感じる6/8ブルースの同曲や、フリージャズがブレンドされたピアノ・バラード「ユー・セイヴ・ミー」は、初期の作風に近い。後者は、著名アーティスト等にも絶賛されているスウェーデンの女性シンガー・ソングライター=スノー・アレグラとの共演で、大物が絶賛するのも納得できる、繊細だが堅牢なスノー・アレグラの声質こそこの曲の魅力。同様に、「3 アワー・ドライヴ」も、他の誰かでは比喩できないサンファのボーカルが、アリシア同等の存在感を放った。実力のある若手に主役を譲るような姿勢は、ベテランの余裕が感じられるし、どの曲においても今の彼女“だからこそ”の魅力に溢れている。
 
 来年は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”でNo.1を記録したデビュー曲「フォーリン」の発売から20周年目を迎えるアニバーサリー・イヤー。同曲とデビュー作『ソングス・イン・A・マイナー』からそんなに経つのかと思うと、デビュー当時からの彼女をみて(聴いて)きた自分も歳を取ったな~と実感する。歳を重ねても美しさに衰えを感じさせないアリシア、近年はほぼすっぴんでジャケットとビデオの撮影、そして大舞台に堂々と立ち、ナチュラリストとしてのカリスマ性も高めている。そんなナチュラル嗜好を活かしたスキンケア・ブランドを来年立ち上げるそうで、ミュージシャンとはまた違った活躍も近々みられそうだ。

Text: 本家 一成


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