『デトロイト2』ビッグ・ショーン(Album Review)

2020年9月8日 / 18:00

 日本では「アリアナ・グランデの元彼」で知名度を高めた米ミシガン州デトロイト出身のラッパー=ビッグ・ショーン。サラっと口ずさめる世界的ヒットはないが、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”ではデビュー作『ファイナリー・フェイマス』(2011年)と2ndアルバム『ホール・オブ・フェイム』(2013年)が3位、3rd『ダーク・スカイ・パラダイス』(2015年)と前作『アイ・ディサイディド』(2017年)の2作が1位を記録し、ラップ・アルバム・チャートでは4作全てが首位を獲得するなど、アメリカでは確固たる人気を博している。
 
 本作『デトロイト2』は、『アイ・ディサイディド』から約3年半を経て発表した、2020年代初、通算5枚目のスタジオ・アルバム。2012年にリリースした同名ミックステープ『デトロイト』の続編で、予告編では故郷デトロイトへの想いが映し出されていた。その内容や語り口調は、8年の時を経て随分落ち着いたように思える。本作の発売日には32歳のバースデーを迎えたわけで、年齢からすれば当然なんだけど。
 
 1週前に先行リリースされた「Deep Reverence」は、昨年春に米LAで銃殺された故ニプシー・ハッスルとのコラボレーション。両者はフレンチ・モンタナの「I’m on It」(2010年)でも共演しているが、ビッグ・ショーンのリード曲としては初のクレジットとなる。不安定な心情を綴った曲で、メディアに煽られたとされるケンドリック・ラマーとの確執云々についても取り上げている。
 
 その他のゲスト・制作陣も、昨今のヒップホップ・シーンに欠かせない豪華な面子が勢ぞろい。オープニング・ナンバーの「Why Would I Stop?」を手掛けたヒット・ボーイは、本作のエグゼクティブ・プロデュースと、ヤング・サグと共演した「Respect It」にラッパーとしても参加している。次曲「Lucky Me」のプロデュースは、R&Bソング・チャートで1位をマークした自身のヒット曲「I Don’t Fuck with You」(2014年)などで知られるDJダヒ。前半は90’s風ヒップホップ、後半は高速ラップで畳かけるトラップの2層で構成されている。
 
 ボーイ・ワンダが手掛けた「Feed」や、米マイアミのプロデューサー・チーム=クール&ドレーがプロデュースした「ZTFO」あたりのトラップも悪くはないが、ありきたりでインパクトには欠ける。というのも、他曲の個性が強烈だからだ。中でも、伊福部昭が手掛けた『モスラ対ゴジラ』(1964年)のテーマ・ソングを起用した「The Baddest」は格別。我々日本人の耳に馴染みがあるというのも一つの理由だが、それを取っ払っても迫力満点の出来栄えといえよう。

 プロデューサー・デュオのテイク・ア・デイトリップと共作した「Wolves」も、跳ねるようなフックが頭でループする中毒性の高い曲。ゲストのポスト・マローンに直結したロックをブレンドした(風の)曲で、後半はポスト・マローンの単独プレイといえなくもない。マイク・ウィル・メイド・イットとDJカリルがプロデュースを担当した「Harder Than My Demon」も、スピード感&男気溢れるヒップホップと秀逸なラップスキルを披露した傑作。

 ここまでご紹介したのは比較的ハードなトラックだが、ユルめのミディアム~メロウも充実している。たとえば、タイ・ダラー・サインとジェネイ・アイコによるコラボ曲「Body Language」は、ボーカルも気怠さを纏ったレゲエ風味のチルアウト・ソング。サンプリングされたショーン・ハリスというR&Bシンガーの「Soulful Moaning」(2019年)もいい曲なので、こちらも是非お聴きいただきたい。ジェネイ・アイコは、昨年ビッグ・ショーンと結成したユニット=トゥエンティ88として「Time In」にも参加している。
 
 同郷デトロイト出身のソウル・シンガー=ドゥウェレがボーカルを務める「Everything That’s Missing」と、同じくデトロイトのラッパー=アーリー・マックとアンダーソン・パーク、ワーレイの3者が参加した「Guard Your Heart」の2曲は、ナインティーズ・エッセンスを再構築したネオソウル。生音の質感を浮き立たせたサウンド・プロダクションでは、マーチング・バンドのリズムに乗せたトラヴィス・スコット参加の「Lithuania」や、華やかなホーンのアレンジが光るドム・ケネディとのコラボレーション「Still I Rise」もカッコいい。
 
 ディディとキー・ウェインをフィーチャーした「Full Circle」は、フランスのエレクトロ・バンド=スペースの「Baby’s Paradise」(1977年)を下敷きにした懐かしくも近未来的な味わい。そういった意味では、リル・ウェインが参加した「Don Life」もまた然り。同曲は、故マイケル・ジャクソンの名クラシック「Human Nature」(1982年)が採用されたレトロ&フューチャリスティックなナンバーで、9回目の共演となる両者の息もぴったりハマっている。
 
 9分をを超える大作「Friday Night Cypher」は、ゲストの人数やサンプリング曲の入り乱れなど、取っ散らかってる感じがしないでもないが、それぞれ別モノとすればひとつひとつの出来は悪くない。ザ・ネプチューンズが手掛けたザ・クリプスの「Grindin’」(2001年)や、ジェイダキスの「We Gonna Make It」(2001年)など、その世代には懐かしい曲も登場するしね。なにより、トリを飾るエミネムの存在感は格別だった。
 
 インタールードの語りで出演したコメディアンのデイヴ・シャペル、エリカ・バドゥ、スティーヴィー・ワンダーなど、ベテラン勢まで幅広く取り揃えた本作『デトロイト2』。若い世代よりも、90年代ヒップホップに馴染みのあるアラフォー以降の方がたのしめるカモしれない。しかし、これだけの実力がありながら、検索すると真っ先に「アリアナとの破局のきっかけは…」的なタイトルが、未だ浮上するのはなんとも嘆かわしい。

Text: 本家 一成


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