『Jesus Is Born』サンデー・サービス・クワイア(Album Review)

2019年12月31日 / 12:00

 2019年10月、米LAで開催されたドキュメンタリー映画『ジーザス・イズ・キング』のプレミアで宣言していた通り、 12月25日にサンデー・サービス・クワイアによるゴスペル・アルバム『ジーザス・イズ・ボーン(Jesus Is Born)』がリリースされた。「予告通り」というのは、カニエの作品としては非常に珍しいケース。

 サンデー・サービス・クワイアは、カニエ・ウェストもメンバーとしてクレジットされている自身が立ち上げたゴスペル・グループ。カニエは先月11月に9枚目となるスタジオ・アルバム『ジーザス・イズ・キング』を発表しているが、“サンデー・サービス・クワイア名義”としては本作がデビュー・アルバムということになる。

 エグゼクティブ・プロデューサーは、当然カニエ。新曲はもちろん、自身の楽曲や過去のヒット・チューンをゴスペル調に焼き直したカバーがメインで、既に日曜礼拝で披露されたナンバーもいくつかある。アルバム発売直前にはゴスペル・オペラも行い、米LAやマイアミ、NYなどで上演されている。

 自身のアルバム『ザ・ライフ・オブ・パブロ』(2016年)からは、「Ultralight Beam」や、「Father Stretch My Hands, Pt. 1」が「Father Stretch」としてカバーされている。また、メドレー形式で披露される「Follow Me / Faith」の「Faith」も、本作収録の「Fade」を焼き直したもの。「Follow Me」は、Aly-Usによる1992年のハウス・クラシック。「Fade」もそうだが、どうやらハウスネタがお好みのよう(?)。Hot 100で4位、ダンス・チャートではNo.1を記録したソウル・II・ソウルの「Back to Life」(1989年)も、アシッド・ハウスの名クラシックだし。

 そもそも、カニエのゴスペル活動(というべきか)は、信仰をテーマにしたこのアルバム(ザ・ライフ・オブ・パブロ)からはじまった。サウンドはヒップホップ寄りだが、宗教的な歌詞や神への畏敬の念等ゴスペル要素は満載。一方本作『ジーザス・イズ・ボーン』は、カニエ・ウェストとしての作品ではないため、ヒップホップ的なニュアンスはほぼ皆無とし、セルフ・カバーもしっかりゴスペル・タッチに仕上げられている。

 どういったいきさつかは不明だが、米ニューヨークのR&Bトリオ=SWVのナンバーが2曲厳選されている。R&Bチャート7位をマークした「Rain」(1998年)と、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”でNo.1を記録した、彼女等最大のヒット曲「Weak」(1993年)。なぜ故SWV?とも思ったが、そういえばメンバーのココは幼少期から教会でゴスペルを嗜んでいたキリスト信者。そういった意味でも理にかなってはいるか。ゴスペル調にはなっているが、原曲と比較しても違和感は然程ない。

 90年代モノでは、R&Bシンガーのジニュワインによる「So Anxious」(1998年)も「Souls Anchored」というタイトルでリメイクされている。この曲もHot 100で16位、R&Bチャートでは2位のスマッシュヒットを記録していて、誰も知らないようなマイナー曲を取り入れた過去作とは異なり、本作は割とメジャーどころが多い。この曲も、サウンド自体はゴスペルにフィットしているが、歌詞はまったく異なる仕上がりになっている。そもそも、性的な表現含むこの曲をなぜ主への賛歌としたのだろう…。

 「Lift Up Your Voices」というタイトルでカバーされた、ザ・ウィークエンドとディプロをフィーチャーしたシーアの「Elastic Heart」(2013年)は、選曲としてちょっと意外ではあったが、平和や命について綴った歌詞を読み取ると、ゴスペルに直結しなくもない。なお、歌詞については神への讃美歌に書き直されている。ジェレマイの同名曲を引用した「Paradise」も好曲。

 ホーンの音と迫力満点の“ハレルヤ”コーラスに圧倒される“ヨハネの黙示録”について綴った「Revelations 19:1」は、スティーヴン・ハードというゴスペル・シンガーの曲だそう。ラマー・キャンベル&スピリット・オブ・プレイズのカバー「More Than Anything」や、のちの女性シンガー等にもリスペクトされ続けている女性ゴスペル・グループ、クラーク・シスターズによる「You Brought The Sunshine」(1981年)を使った「Sunshine」、米ノースカロライナ州の女性ゴスペル・シンガー、シャーリー・シーザーの「Satan, We’re Gonna Tear Your Kingdom Down」といった若干マニアックな選曲もある。

 神への賛歌であるオープニング曲「Count Your Blessings」、「イエス」を主張すべく聖書に基づいた「Excellent」、60~70年代のレトロ・ソウルを彷彿させる「Sweet Grace」、最終曲に相応しい壮大なゴスペル・バラード「Total Praise」等、オリジナルも充実。

 本作に先駆けて「ゴスペル・アルバム」というコンセプトの基発表した前述の『ジーザス・イズ・キング』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初登場1位を獲得し、2ndアルバム『レイト・レジストレーション』から9作連続でアルバム・チャート首位に輝いている。これでエミネムとタイに並んだワケだが、本作でその記録を打ち破る可能性も高い。その『ジーザス・イズ・キング』に続く『ジーザス・イズ・キング Part II』も現在制作中とのことで、今後しばらくはゴスペル活動が中心になる…ことが予想される。突拍子もなく違う活動をし始める可能性も否めないが。

Text: 本家 一成


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