晩秋の夜に音楽を、“レコードの日”に再生したい5曲

2019年10月14日 / 18:00

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲! (okmusic UP's)

固く締め切った雨戸を漸く開けた昨晩。台風の目の中に突き落とされた東京でコンビニの明かりを求めて彷徨う人々とすれ違っても、視線がかち合うことは決してなく、テラテラ光る夜の街の中では暴風で引きちぎられた枝葉の血のような青い匂いと、鈴虫の命をむき出しにしたかのごとき鳴き声だけが鮮やかで、まるで死後の世界のようでした。さまざまな催しに体と脳を酷使する日々から少しだけ離れた1日、久々にレコードの溝の中で繰り返されるまっさらな音楽に触れる時間ができて、もうここには自分と音楽しか存在しないかのようなただの錯覚が横たわっていて、それはとても幸福なことでした。前置きが長くなりましたが、そういうわけで今回は「レコードの日」にリリースされる作品から5曲ピックアップします。今の私たちに必要なのは、繊細な盤の溝にゆっくりと針を落としたりだとか、そういったことで得られる時間という贅沢なのかもしれません。
「I’ll BE YOUR MIRROR」(’67) /The velvet underground & Nico

いくらサブスクでポケットサイズになっても、お金や労力を使わずして音楽が聴き放題になっても、ひもじさの余りあらゆる収集物を断腸の思いで売り払ってしまっても、「これだけは墓場に持っていく!」と死守したいアルバムの収録曲。真夏のコンクリートの木陰を思わせる乾き切った鬱屈さや液状化する壁のようなグロテスクさで構築された作品の中で、タンバリンとギターの穏やかな音色に寄り添って《I’ll be your mirror Reflect what you are, in case you don’t know》と軽やかに朗々と歌われるこの曲の、日差しの中で光る埃にも似た明度は、いつの日もお守りのように美しいままです。
「どんぶらこ」(’90)/たま

みんな大好き「オゾンのダンス」「学校にまにあわない」「ロシヤのパン」「さよなら人類」「らんちう」などが収録された名盤から、すり足で忍び寄る「どんぶらこ」を。ふと省みれば童話『桃太郎』でしか耳にする機会のないであろう“どんぶらこ”という擬音が孕む怪しさに刃を入れて、放出される生温かい液体で綴ったような怪曲です。極彩色のぶつ切りの悪夢を淡々と歌い上げる柳原陽一郎の声やきゅるりきゅるりと鳴る弦の間幕に緩慢なパーカッションの反復が、爛熟した果実や開ききった花を想起させる気だるさを形作っていきます。それにしても《紳士淑女のみなさん指輪をならす》という比喩だけで無限に織りなされるこの詩情よ!
「癇癪と色気」(’99)/キリンジ

10インチアナログ盤「牡牛座ラプソディ」にカップリングとして収録されるボサノバナンバー。気ぜわしいテンポと小走りするようなリズムに複雑で巧緻ながらそうと感じさせない軽やかさと涼やかさが展開されるアンサンブル、ロマンチシズムとニヒリズムが混在する歌詞が構築するミュージカルのごとき情緒の豊かさと情報量の多さ。しかし、何処に立っても何処に放り込まれても平熱の温度感を乱すことのない、堀込兄弟のヴォーカリゼーションの冷静さへの信頼感は揺らぐことがなく。春夏秋冬が巡る情景の中で淡白に繰り返される駆け引きの中で、つむじ風のように踊る歌声は20年経っても相変わらずクリアーなままです。
「東京ブギウギ」(’58)/笠置シヅ子

美空ひばりによる歌唱や、福山雅治やトータス松本のカバーも有名ですが、原点に立ち返って笠置シヅ子バージョンを。いわゆる“ご当地ソング”ではなく、賑やかさや喧騒、豊饒さの枕詞として土地の名が使われる“東京”。朗々とした伸びやかな笠置シヅ子の歌声に寄り添い、雲のようにたなびくオーケストラの雄大さは、戦後の日本に生きた人々の瞳がどれほど輝いていたか、娯楽に身を投じることが自由になっていたかを想像させます。東京は地方のように固有の色がない代わりに、その時々に生きる様々な人々を映す鏡としての特性を持つ街だと思います。これから遠くない未来に、かつてのように色彩豊かな日本が蘇るでしょうか。
「OVERHEAT.NIGHT」(’87) /森高千里

2、3年おきに“作詞家、作曲家としての森高千里”“ドラマーとしての森高千里”の技巧を再考するタームが訪れるのですが、「OVERHEAT.NIGHT」はプレイヤーやクリエイターとして開花する前、アイドル然としていた時代に発表された2ndシングルのタイトル曲。煙幕越しに鳴り響くようなくぐもったシンセサイザーの残響、素朴さとあどけなさの残る森高千里の歌声に相反して重厚なコーラス、ラテン調のメランコリックなギターソロ、間奏部分で不意に挿入される台詞がこれでもかと詰め込まれた懐かしのディスコチューンに、虚ろなバブルの骸がビカビカと輝きながら埋もれています。ちなみに、「レコードの日」には同曲の未発売プロモーション用音源がアナログ盤化するとか。
TEXT:町田ノイズ


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