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“元祖ミクスチャーバンド”のLÄ-PPISCH初期の力作『WONDER BOOK』

『WONDER BOOK』/LÄ-PPISCH (okmusic UP's)

ロックとは元来自由な音楽であり、“こうあらねばならぬ”という定義はない。それは分かっていても、演奏者も、我々リスナーも、知らず知らずに型にはめてしまう傾向があることも否めない。80年代、所謂バンドブームの最中、シーンに登場したLÄ-PPISCHは、そんな偏見を一笑に付すかのように音楽性を発揮した、言わば“元祖ミクスチャーバンド”である。ドイツ語で“バカげた”“子供じみた”という意味を持つバンド名の如く、言動やパフォーマンスには悪ふざけも少なくなかったが、音楽に取り組む姿勢は真摯で、彼らが提示したロックは世界に比類なきスタイルであった。
レベッカ、BOØWYに端を発した1980年代後半のバンドブームは現在の音楽シーンに連なる重要なムーブメントであったことは間違いない。しかしながら、今思い返すと、当たり前のことながらまだまだ過渡期だったことも否めない。当時そんな論争があったかどうか知らないけど、言わばジャンル分け問題がそれで、プロモーション的にはそう形容することが楽だから付けられていたのだろうが、ビートロック、タテノリ&ヨコノリとか、ユニバーサルなカテゴリーにはないジャンルがいろいろと生み出された。ビジュアル系がその最たるものだろうし、そんな便宜的な色分けも今や日本を代表するサブカルチャーにもなっているのだから、それはそれで悪くはなかったという見方もできるし、パワーポップ、ブリットポップ、ノイズロック等々、細分化されすぎた嫌いのある現在の状況もどうかという議論もあると思うが、ここでジャンル論を掘り下げるつもりはない。

言及したいのは当時、そんな乱暴で無意味なジャンル分けに反発する勢力も少なからずいたことである。アンジー、筋肉少女帯、そして今回紹介するLÄ-PPISCHが提唱した“ポコチンロック”がまさにそれで、その下世話なネーミングも痛快であるし、「勝手にカテゴライズされたくない!」というその姿勢は極めてロックだったと言える。無論これで音楽性が大したことがなければギャグにもならないお話なのだが、アンジー、筋肉少女帯もさることながら、LÄ-PPISCHの雑多でありつつも確かな音楽性はその後のミクスチャーロックの隆盛や、世界的なグランジ、オルタナティブの流行を先取りしていたかのようでもあり、その音源は今も色褪せることのない傑作揃いである(ちなみにポコチンロックにはBUCK-TICKが属しているとの説もあり、実に奥深い音楽ジャンルではある)。
ここ最近はオリジナルアルバムが制作されていないものの、彼らは未だ現役であるため、現時点で最高傑作を1枚挙げるのは抵抗があるので、90年代前半までの作品のなかからマイ・ベスト・オブLÄ-PPISCHを選ばせてもらうことにした。が、これがなかなか難しい。「美代ちゃんの×××」「パヤパヤ」収録の1stアルバム『LÄ-PPISCH』も、トッド・ラングレンをプロデューサーに迎え、氏のスタジオ“ユートピア・サウンズ”でレコーディングされた3rdアルバム『KARAKURI HOUSE』もいいし、「Magic Blue Case」収録の90年発表の『make』だって、名盤の誉れ高い95年発表の『ポルノポルノ』だって捨てがたい。いずれもLÄ-PPISCHらしいテンションの高さを内包したロックアルバムで甲乙付け難いとはまさにこのことである。いっそのこと、『We are LÄ-PPISCH! -COMPLETE CD BOX』(LÄ-PPISCHのアルバム8タイトル+2枚組ベストアルバムに加えて、上田現のソロアルバム2枚、杉本恭一ソロアルバム1枚をまとめた豪華BOXセット)を取り上げたいほどだが、それはそれで筆者が原稿を書くのが面倒という都合もあるので止めさせていただくとして、2ndアルバム『WONDER BOOK』をマイ・ベスト・オブLÄ-PPISCHとしたい。彼らの作品の中で最も聴いたアルバムであるし、とりわけM2「リックサック」の印象が強い。軽快なホーンセクションがリードするマーチングビートからスカ、サンバと展開するナンバーで、聴く度に強い高揚感を得ていたことを思い出す。
アルバム『WONDER BOOK』

ご存知のない読者の方に説明すると、LÄ-PPISCHはMAGUMI(Vo)、杉本恭一(Gu)、上田現(Key)、TATSU(Ba)、雪好(Dr)の5名で87年にメジャーデビュー。MAGUMIがメインヴォーカルではあるものの、杉本恭一、上田現もそれぞれヴォーカルを取ることもあり、さらにMAGUMIはトランペットも、上田現はサックスも担当していた。前述の通り、グランジ、オルタナティブにも近い重く激しいロックサウンドを有しており、とにかくライヴパフォーマンスはハイスパートだった。MAGUMI、杉本、上田のフロント3名はステージ上では海老反りジャンプを繰り返すパフォーマンスを見せつつ、管楽器は特に肉体的な疲労がハンパないだろうに(それがプロだと言ってしまえばそこまでなんだけど)歌も演奏もかなりしっかりとしていた印象がある。ボトムを支えるTATSU(Ba)、雪好(Dr)のリズム隊も強固で、ハードなサウンドながら絶妙なグルーブを湛えていたことも忘れられない。

M2「リックサック」の他、へヴィスカとでも言うべきM1「OUR LIFE」やパンクチューンM4「Time Slip」、ハードシャッフルM6「Boy」は辺りの弾けっぷりはどれも素晴らしいが、白眉はM10「胡蝶の夢」。アンサンブルと言うよりも各パートのぶつかり合いと言った方がいい演奏が実にスリリングで、問答無用のロックチューンである。また、アグレッシブなビートだけでなく、ファンク(M3「BAD MAN?」)、レゲエ(M5「爆裂レインコート(胎児の夢)」)、ワルツ(M7「Tears」)とリズムも多彩で、サンバにセカンドラインを加えたM8「BANANA TRIP」という、まさにミクスチャーと呼ぶに相応しいナンバーもあり、実にバラエティーに富んでいる。さらにはM9「ゼゼヒヒのヤマイ」やM11「room」の深めのリバーブからはアシッドロックの匂いも感じられる点も挙げておきたい。捨て曲など一切ない力作である。
《私は繭の中 身を守るレインコート 身に着け ずっと繭の中 身を守るレインコート びしょぬれ》(M5「爆裂レインコート(胎児の夢)」)や、《朝 目が覚めたら オレの顔無い! となりの猫が喰わえてった》(M10「胡蝶の夢」)など、歌詞はまさにサイケデリックな雰囲気のものが多いが、M1「OUR LIFE」)では《BLUEのスーツはおればバッグも持つんです 信号じゃ見なれた顔ばかり モラル片手に Walking You!》《OH! YELLOW YELLOW YELLOW STYLE でも信じてる OUR MY LIFE》と無個性と揶揄されたていた当時の日本社会へのアイロニカルな視点を発揮していたり、《我ラ 我ラ マトモじゃ ないの ほかに 表現はないの》《理解はいらない 理屈もいらない 理由はいらない It’s all right》(M3「BAD MAN?」)とバンドのアイデンティティーを宣言したような内容もあったりと、こちらも多彩だ。この辺はMAGUMI、杉本恭一、上田現という優秀なライターが3名もいたというのが大きいだろう(メインライターは左記3名だが、M9「ゼゼヒヒのヤマイ」は雪好の本名が作詞クレジットに記載されている)。中にはMAGUMI作詞・杉本恭一作曲、あるいはMAGUMI作詞・上田現作曲のナンバーもあり、こういったコラボはバンドのアドバンテージだったと言える。
傍からは順風満帆に見えたバンド活動も、01年の雪好が脱退。さらに02年には上田現が脱退し、05年にバンドは一時活動を余儀なくされた。07年、デビュー20周年の節目に活動を再開したものの、08年に上田現が肺癌のため急逝したことで、メジャーデビュー時のメンバーでの活動は継続できなくなった。しかしながら、それ以後は上田現追悼ライヴ、フェスへの参加など、活動は不定期になったものの、冒頭で述べた通り、LÄ-PPISCHは解散することなく、MAGUMI、杉本恭一、TATSUの3人でその名を守り続けている。

最新のトピックとしてはベストアルバム『LÄ-PPISCH BEST 1987~1997あとのまつり』と、セルフカバーアルバム『caldera』の2タイトルのハイレゾ配信が始まり、それに併せて5月に約2年ぶりとなるワンマンライヴも決まった。この機会に、往年のファンのみならず、リアルタイムで聴いたことがないリスナーにも、偉大なる“元祖ミクスチャーロック”を体験してほしいものだ。
著者:帆苅竜太郎

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