追悼・遠藤ミチロウ鳴動し続けるパンク

2019年5月6日 / 18:00

(okmusic UP's)

とうとう遠藤ミチロウさんまで旅立たれてしまいました。私がミチロウさんのライヴを観たのは片手で数えきれるほどでしたが、彼のパンクに、雪原を走るつむじ風のような歌声に、穏和で温かな人柄に粉々にされたミュージシャンの作品には無数に触れています。平成から令和に移り変わったばかりの祝祭ムードに浮き足立つ私たちに絶望で黒光りする現実と未来を突きつける訃報、先陣を切る絶対的な存在の不在は、「自分の足で歩け、自分の言葉で叫べ、自分の拳で殴れ」と叱咤されているようにも感じられました。ミチロウさんがいないことが辛いです。でもミチロウさんの音楽があるから勝ち抜ける夜があります。これからもずっと。
「STOP GIRL」(’82) /THE STALIN

1982年にリリースされたアルバム『STOP JAP』より。絶望の淵に立たされた閉塞感から逃亡を図るラブソングは、キャッチーなギターのリフと湾曲するドラミングの脈動が幕を引き千切り、呪文の詠唱のようにダウナーな歌唱が闇の奥から手を伸ばします。低温火傷しそうなひりつきが延々と続く歌詞の連なりは死とエロティシズムを孕み、《冷たい水晶を今夜おまえと食べよう のどが切れてもかまわないから》の一節は、何度読み返しても「こんな愛の表現があるのか」と度肝を抜かれます。パンクとは反骨心の燠火を燃やし続けるための表現だけを指すのではなく、野放図な危うさに身を投じることでもなく、日常の肌を引っぺがして正体をさらけ出してから始まるのだと実感した曲でした。
「アメユジュトテチテケンジャ (THIS IS LOVE SONG)」(’85) /Mishiro, Get the HELP!

“Mishiro, Get the HELP!”名義で発表された『アメユジュトテチテケンジャ』の収録曲。タイトルは宮沢賢治が自身妹の死を綴った詩『永訣の朝』の一節です。9分近いこの長尺曲は、宮沢賢治と同じく東北出身のミチロウさんの詩人としての才覚が鮮やかな陰影を刻んでおり、灰色の曇天や血が肌を突き破りそうなほどかじかんだ指、耳を擘く雪風を錯覚しそうな詩情に没入していきます。音のざらつきのひとつひとつからスリリングな空気感が漏れ出るTHE STALINから一転して、目覚める間際の夢にも似た、伸縮する遠鳴りの演奏がサイケデリアを織り成し、暴れ馬を想起させるアウトロからは、乾き切った荘厳さが煙のように立ち上ります。
「おやすみ」(’96)/遠藤ミチロウ

1996年に発売された、エンケンこと遠藤賢司のトリビュートアルバム『プログレマン』より。語りかけるような鼻にかかった歌声と、アルペジオのリフレインが本物の眠りに誘うオリジナル版は、名盤『満足できるかな』に収録されています。エンケンバージョンへの透き通った敬意が仄かに光るカバーは、ドリーミーなメロディーに寄り添いながらも、振り子に意識を預けるかのごとき心地良い重力が音と声の輪郭を際立たせています。間奏部分で残響がキンと鳴るハーモニカは夢想のバラードを打ち破ることなく、目を離した瞬間に忘れてしまいそうな糠星のように輝き、隅々まで優しさと温かさと魔法にも似た気だるさで形作られていることを思い知らされます。
「志田名音頭ドドスコ」(’15) /羊歯明神

山本久土(M.J.Q、久土‘N’茶谷)らとともに結成した民謡パンクバンド、羊歯明神。東日本大震災によって放射能汚染を受けた福島の志田名地区の盆踊りのために生まれました。“何があるか分からなくて、何が起こっても仕方ない”というライヴハウスの危うさと緊迫感の始祖であったミチロウさんが、法被を纏って櫓に立つことになろうとはと驚愕したものですが、エレアコの跳ねる和音、土着的なリズムが飛び交うパーカッションに乗せて歌い上げるその声は確かにミチロウさんのもので、《除染除染と騒ぐでねえよ、300年かけてやってやる》という宣言もミチロウさんによる歌詞で、地域の人々に混じって盆踊りの振り付けを練習する時の穏やかな眼差しもミチロウさんのものでした。
「ワルシャワの幻想」(’82) /THE STALIN

「STOP GIRL」と同じく『STOP JAP』に収録。ぼんやりしていたら振り落とされそうな暴走車を思わせる楽曲の連打から一転して、地獄の砂利道を滑走するようなベースが延々と続くサイケデリックな5分34秒が零れ落ちていきます。3つのセンテンスのみで構成されたシンプルな歌詞は、INUの「メシ喰うな!」のアンサーであり、弱者への鼓舞が込められています。イントロをスウッと切り裂く真っ赤な拡声器の唸りに射抜かれた人々が、これまでに一体どれだけいたことでしょう。真っ黒な目張りと頬紅を施し、ギターをかき鳴らしながら咆哮とも悲鳴ともとれる声をあげ続け、パンクそのものを体現した人。シンプルで真似しようのない《おまえらの貧しさに乾杯!》の美しさに、これからも勝ち抜くための勇気をもらい続けます。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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