クィーン・オブ・ロック St. Vincent (セイント・ヴィンセント) のロサンゼルス公演をレポート

2018年2月2日 / 20:52

 先日サマーソニック2018への出演が明らかとなったセイント・ヴィンセントが、1月に行ったロサンゼルス公演のレポートが到着した。

 会場となったハリウッド・パラジウムは1940年にオープンしたLAの老舗コンサートホール。公演が発表されるや否やチケットは即ソールドアウト。開場前から長蛇の列をなし、彼女の人気の高さを実感させた。円形状の会場は超満員。2階席半分はゲストエリアになっていて、ハリウッドスターやモデルが並びLAならではの光景が見られた。

 Fear the Future Tour (未来への危惧)と称された今回のツアーは前編後編の2部構成になっていて、それぞれ異なるテーマを持っていた。

 照明が暗転し数分間暗闇に包まれた会場内に一瞬静けさが戻る。幕の前にスポットライトが照らされセイント・ヴィンセントことアニー・エリン・クラークが登場。ショッキングピンクのエナメル素材のボンテージ衣装で、足もとは網タイツとニーハイブーツと、まるで未来から来たバービー人形のよう。観客は割れんばかりの歓声をあげ、会場はすでにクライマックスを迎えたかのような盛り上がりを見せた。

 スポットライトが彼女を照らし、会場が静寂を取り戻したのを確認し、両手にマイクを持ち目を閉じた彼女が一呼吸し「Marry Me (マリー・ミー)」をアカペラで歌い出した。そしてなめらかで艶やかなバイオリンの音色が歌声に重なっていく。どこか懐かしいくクラシックなサウンド、美しいベルベットのカーテンをバックに一人佇みマイク一本で歌う姿は、映画さながら昔のパリの老舗クラブで歌うシャンソン歌手のようだ。

 誰もが彼女の美声にうっとりしていると、ギターを持ち「Now Now」をプレイ。バンドは幕の向こう側で彼女をサポートし、徐々に音圧が上がるとアニーの歌声も力強さを増していく。歌詞のany any any thing at allの部分は会場全体でシンガロングが巻き起こり、それに呼応するように、華奢な体からダイナミックで超絶的なギタープレイを見せつけた。

 ツアーで使用しているギターはMUSIC MANのシグネチャーモデルで、ステージ映像と照明に合わせ違うカラーのギターを使い分ける。過去に使用していたブラックとブルーに、新たにピンク、ホワイト、オレンジ、イエロー、ゴールドが加わった。ピックガードがレオパード仕様なっているバージョンありと多彩なコレクションを見せてくれた。このマニアックなギターの鋭角的なシェイプとビビッドなカラーリングが今回のステージセットの近未来感と彼女の圧倒的な存在感をさらに印象付ける最高のアイテムとなり、ギターマニアでなくても機材に目が惹きつけられた。

 第二幕は、過去の4枚のアルバムから10曲を演奏。ステージ上の幕が変わり、巨大スクリーンが出現。アニーの衣装も、タイムワープして来た近未来人のように、メタリックなシルバーのミニドレスに同じくシルバーのブーティに様変わりした。

 ハイトーンボイスにギターの立体的な音色と、「Hang On Me」でのオーバードライブとファズの狭間を埋めるディストーション使いが、重力を持った歪みを生み出し彼女の内なる自己再生のインテリジェンスを導き出す。無機質な空間でミッドセンチュリー・デザインのような部屋の映像と、ステージ上の本人とがシンクロし、シンプルだが革新的な芸術的メタファーを生み出している。ポップ・アートと音楽をステージ上で融合させ、コンサートホールと現代美術館が連結したかのようである。「Masseduction (マスセダクション)」では、独特の金属質なサチュレーションと、最強の歪みで会場を支配。観客は彼女から放たれるサウンドからひしひしと伝わる孤高のスピリットに心を揺り動かされ続けるのだ。

 続いて「Sugarboy (シュガーボウイ)」では、電子音サウンドに合わせ宇宙船のように光る照明の中で、体を仰け反らせたり、ギターネックを機関銃をぶっ放すかのようにして弾きまくり、曲がアップビートになっていくとともに、照明が閃光のように会場を照らし、ハイパーディスコ状態と化した。「New York」の演奏が終わると、ステージから降りて、観客の元でニューヨークの歌詞をロサンゼルスと変えて、アカペラで何度もロサンゼルスと口ずさむ。束の間のアニーと観客とのコミュニケーションに会場は大きな一体感に包まれた。

 「Dancing with a Ghost (ダンシング・ウィズ・ア・ゴースト)」から「Slow Disco (スロウ・ディスコ)」で圧倒的映像美とともにクライマックスへと誘い、ラストは「Smoking Section」をしっとりと歌う反面、ギターの歪みを効かしアップサイドダウンを表現し、2時間のステージの幕を閉じた。

 アルバムをリリースするごとに、ガラリと印象を変え別人のように変幻自在にチェンジするセイント・ヴィンセント。最新モードを取り入れた衣装、映像美、ステージ演出、それらは時代を何歩も先取りしているかのようだ。そしてアニー・クラークという唯一無二の存在感、絶対的なカリスマ性、技術だけでなく革新的でもあるギターテクニックとヴォーカリズムを2時間のステージでこれでもかと見せつける。今回のツアーでバンドをステージ上から排除し(幕の後ろで演奏)、たった一人で多くの観客を2時間近く魅了する試みは、彼女が真のエキスパートであること証明したのだった。

Set List
– Stage 1 –
1. Marry Me
2. Now, Now
3. The Strangers
4. Actor Out of Work
5. Cruel
6. Cheerleader
7. Strange Mercy
8. Digital Witness
9. Rattlesnake
10. Birth in Reverse
– Stage 2 –
11. Hang on Me
12. Pills
13. Masseduction
14. Sugarboy
15. Los Angeless
16. Happy Birthday
17. Savior
18. New York
19. Fear the Future
20. Young Lover
21. Dancing With a Ghost
22. Slow Disco
23. Smoking Section

Photo & Text:ERINA UEMURA

◎リリース情報
セイント・ヴィンセント『Masseduction (マスセダクション)』
LOMA VISTA / HOSTESS
2,490円(tax out)


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