ハンブル・パイのブリティッシュハードロックのエッセンスが詰まった名盤『スモーキン』

2017年11月10日 / 18:00

これだけはおさえたい洋楽名盤列伝! (okmusic UP's)

60年代から活躍するアーティストたちは70年代を前にして、プログレ、ハードロック、サイケデリック、ジャズロックなど、次々と新しい形態のロックが生み出される現場で、自らのアイデンティティーを探し求めていた。そんな中、アル・クーパーが68年にリリースした『スーパーセッション』はさまざまなアーティストやグループに影響を与え、スーパーグループ結成に拍車がかかった。レコード会社の押し付けではなく、名の知られたミュージシャン同士が演奏するというアーティスト主体の選択で、ブラインド・フェイス、ジェフ・ベック・グループなどと並んで満を持して登場したのがハンブル・パイであった。ハンブル・パイは、スモール・フェイシズ出身のスティーブ・マリオットとザ・ハード出身のピーター・フランプトンが中心となって結成された4人編成のグループ。今回はピーター・フランプトンが抜けたあと、クレム・クレムソン(元コロシアムの名ギタリスト)が加入しリリースされた第2期ハンブル・パイのご機嫌な6thアルバム『スモーキン』を紹介する。
第1期ハンブル・パイ

ザ・フーと並ぶモッズの人気グループであったスモール・フェイシズは、スティーブ・マリオットの超絶ヴォーカルが売りのビートバンドで、ブリティッシュロック界への影響力は絶大であった。スティーブの動向はアーティストたちからも注目されており、スモール・フェイシズ解散後、マリオットの新グループであるハンブル・パイが69年にリリースしたデビューシングル「ナチュラル・ボーン・ブギ」は全英チャートで5位まで上昇、順調なスタートを切っている。売りはもちろん、マリオットのソウルフルなヴォーカルとピーター・フランプトンの超絶テクニックを駆使したギターワークにあった。
スモール・フェイシズ時代から、マリオットはロバート・プラント、ポール・ウェラー、ポール・スタンリーから師として崇められ、レッド・ツェッペリンやザ・ジャムのサウンドはスティーブ・マリオットが創った音楽からインスパイアされている部分が多い。ただ、ハンブル・パイはブルースやR&Bが出自のハードロッカーであるマリオットと、ポップスやフォーク(カントリー)ロックをルーツに持つフランプトンとの双頭バンドであり、デビューアルバムの『As Safe As Yesterday Is』(‘69)から4thアルバムの『Rock On』(’71)までは、ハードロックからカントリーロックまでと幅広い音楽性で勝負しすぎており、その辺がリスナーにとっては戸惑う部分でもあったことは否めない。
僕としては(結果論ではあるが)、70年代初期という時代を考えるとハードロックならハードロック、ブルースならブルースと、一本筋の通った方向性で勝負するほうが良かったのかもしれないとは思う。実際、ハンブル・パイは何がしたいのか、当時の僕のような中学生リスナーにはよく分からず、熱心なファンにはなれなかったのも事実なのである。
最高のハードロックグループで あることを証明した傑作ライヴ盤

ところが、5thアルバムとなる『Performance Rockin’ The Fillmore』(‘71)では、スティーブ・マリオットが完全にイニシアチブをとっており、全編ハードエッジなロックで勝負している。これは当時ロックの聖地でもあったフィルモア・イーストで収録されたライヴ盤で、アメリカツアーの模様を収めたものだ。全米チャートで21位、全英チャートでも32位と世界にその名を知られることとなった。LP発売時は2枚組と高価ながら、日本でも一挙にファンが増えた。マリオット絶頂期のソウルフルなヴォーカルとフランプトンのテクニカルなギタープレイにより、ロック史上最高のライヴ盤のひとつに数えられる出来となった。
なぜ、このライヴでは何でもありのハンブル・パイから、ブルース、R&Bを中心にしたハードロック一本に絞れたのか。僕はそこにはふたつの理由があると考えている。まずひとつ目は、このライヴは5月のフィルモア・イーストでの公演を収めたものだが、同年3月、オールマン・ブラザーズ・バンドのロック史上に燦然と輝く傑作ライヴ『ライブ・アット・フィルモア・イースト』の収録が行なわれており、彼らが実際にその公演を観たかどうかは分からないが、少なくとも音源は聴いたのではないか。そして、それにハンブル・パイの連中は相当の影響を受けたのだと思われる。なぜなら、『Performance Rockin’ The Fillmore』での演奏(特にフランプトンのギター)では、その端々にオールマン的なフレーズを使っていること、アドリブを活かした長尺曲を演奏していること、ブルースナンバーが多い(全7曲のうち、オリジナルは2曲だけで残り5曲はブルースとR&Bのカバーである)ことなどから僕はそう考える。
そして、もうひとつの理由は、このアルバムのリリース後、しばらくしてフランプトンはハンブル・パイを脱退する。おそらく、ライヴ収録の時点ですでにソロになることを決めていたのだろう。だからこそ、グループへの思い入れやマリオットとの確執もなく、単なるギタープレーヤーとして弾きまくることができたと思うのだ。もちろん、演奏曲のセレクトにも口を出すことなくマリオットに全面委任していたはずだ。フランプトンはこの後ソロとなり、アメリカで大成功するわけだが、その『フランプトン・カムズ・アライブ』(‘76)は以前このコーナーで取り上げているので興味のある方はお読みいただきたい。
■『フランプトン・カムズ・アライブ』(‘76)/ピーター・フランプトン

http://okmusic.jp/news/152142/
それにしても、このライヴにおけるマリオットのヴォーカルは凄い。彼自身、相当の手応えを感じていたであろうし、ハンブル・パイの方向性はここで決まったに違いない。
第2期ハンブル・パイのスタート

ただ、フランプトンに代わるギタリストがそうそういないこともマリオットは承知していただろう。しかし、グループに追い風が吹いていたことは確実で、『Performance Rockin’ The Fillmore』の成功によって、一流のアーティストからも注目されていただけに、そう時間はかからずにスーパーギタリストの加入が決まった。ブリティッシュロックグループでもテクニシャン揃いのコロシアムに在籍していたクレム・クレムソンである。彼をグループに迎え入れることで、フランプトンの空いた穴を埋めることができるだけでなく、名実ともにハンブル・パイのリーダーはマリオットとなり、彼の思い描く音楽ができるのだ。フランプトン在籍時は彼への遠慮から和洋折衷のようなサウンドになってしまっていたし、それはフランプトンにしても同じだったのである。クレム・クレムソンの加入で、マリオットとのツインリード(マリオットはヴォーカルだけでなく、ギターテクニックもすごい)が冴え渡り、まさにブリティッシュハードロックの王道とも言うべき重厚なサウンドを手に入れることになったのだ。
本作『スモーキン』について

第2期ハンブル・パイの初めてのアルバムであり、通算6作目となる本作『スモーキン』は72年にリリースされた。冒頭の「Hot ‘N’ Nasty」から最後の「Sweet Peace And Time」まで、ファンキーでタイトな70sブリティッシュハードロックが堪能できる。まさに王道だ。ブルースロック、ブギ、バラード、スワンプロック(マリオットのオリジナル「Old Time Feelin’」では、マリオットのブルースハープ、アレクシス・コーナーのマンドリンなど、ジャグバンドっぽいブルースが聴けるが、これはどちらかと言えばフランプトンの好きなタイプである)まで、マリオットは水を得た魚のように気持ち良く歌いまくっている。クレム・クレムソンの存在感のあるギターワークとマリオットのシャウトするヴォーカルがぴったりマッチしていて、グループが最高の状態にあることが分かるような充実した演奏である。「The Fixer」はアルバムの目玉の1曲であり、ブリティッシュ然としたヘヴいなリフと重たいリズムが特徴だ。エディ・コクランのカバー「C’mon Everybody」では中盤からのマリオットとクレムソンのツインリードが出色のプレイ。9分近くに及ぶブルース「I Wonder」からエンディング曲のハードロック「Sweet Peace And Time」への流れがカッコ良く、もう一度頭から聴く羽目になってしまうのだ。本作の白眉は1曲目の「Hot ‘N’ Nasty」で、ソウルジャズかジャズファンクのようなニュアンスで演奏されていて、マリオットの新たな一面を見せてくれる。
なお、本作には『スーパーセッション』でもお馴染み、CSN&Yのスティーブ・スティルス、ブリティッシュ・ブルースの父と呼ばれるアレクシス・コーナー、バックヴォーカルに大物シンガーのマデリン・ベルやドリス・トロイらが参加、サウンドに深みが出て、本作の完成度を一層高めている。
ハンブル・パイのその後

本作『スモーキン』は全米チャート6位まで上昇し、そのおかげでツアー生活が長くなり、マリオットは肉体的にも精神的にも疲れ果ててしまう。結局、人気が出たがゆえに75年に解散することになる。その後、マリオットはソロ活動やスモール・フェイシズやハンブル・パイの再結成をするもののパッとしなかった。大きな才能を持っていたにもかかわらず、なぜか大輪の花は咲かず、1991年に自身の寝タバコが原因で焼死するという結末になってしまった。
ハンブル・パイを聴いたことがないという人は、これを機会にぜひ聴いてみてほしい。特にオススメは文中で述べたように『Performance Rockin’ The Fillmore』か本作『スモーキン』、もしくは次作の『イート・イット』(‘74)が良いと思います♪
TEXT:河崎直人
アルバム『Smokin’』
1972年作品


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