ガガガSPの『卒業アルバム』に見る“青春パンク”の萌芽

2017年5月3日 / 18:00

『卒業アルバム』('02)/ガガガSP (okmusic UP's)

ガガガSPが5月3日に『オールタイムベスト〜勘違いで20年!〜』をリリースした。また、すでに告知されている通り、10-FEET主催の野外フェス『京都大作戦2017』への出演決定(2017年7月9日)に引き続き、9月30日、10月1日の両日、彼ら自身が主催するフェス『長田大行進曲2017』の開催も決定と、さすがに結成20周年にふさわしい盛り上がりを見せている。ベスト盤に“勘違いで20年!”と自嘲気味なサブタイトルを付けているが、“青春パンク”の旗手として2000年代を闊歩した彼らは、邦楽ロックシーンに確かな足跡を刻んできたバンドである。決して勘違いだけで続いてきたパンクバンドではないことを彼らのメジャー第一作『卒業アルバム』をもって証明しよう。

“青春パンク”を背負って立つ
本稿作成のためにガガガSPやコザック前田(Vo)のことをあれこれ調べていたら、“以前、本人らは青春パンクに分類されることを嫌っていたが、現在コザック前田は青春パンクを90歳まで続けると宣言している”という一文を見つけた(“”はWikipediaから引用)。これを基にさらに調べてみたら、ガガガSPがインディーズに戻ってから最初のアルバム『声に出すと赤っ恥』(2008年)のジャケットで“バンドを90歳まで続ける”といった内容が書かれていたり、Yahoo!モバゲーでの「ガガガSPさんのプロフィール」に同様のコメントが残っていたりするようで、その宣言に相違はなかろう。潔い。そもそも“青春パンク”というジャンルは、ガガガSPを始め、175RやGOING STEADYらが活躍した2000年代前半にそれらのバンドをひと括りにしたカテゴリであり、彼らが提唱したものでも何でもない。“以前、本人らは青春パンクに分類されることを嫌っていた”というのも本当だろう。その上で彼が“90歳まで続ける”と言い切っているのは、自身がやっている音楽が懐古的に語られるものではないことを逆説的に表しているのだと思う。その姿勢はパンクであり、ロックであるとも思う。ちなみに、昨年復活した175Rもそうであるし、ガガガSPと同時代にデビューした太陽族やSTANCE PUNKS、ザ・マスミサイルらもそのスタンスは失っていない。そんな彼らの姿勢からは勝手に漢気を感じるところではある。
日本のパンクロックの歴史を大雑把に分けると、1970年代後半の本場パンクムーブメントからの直撃世代、1980年代のインディーズ御三家の時期、1990年代のAIR JAM 世代に分類されるだろうか。青春パンクはその後に続く、2000年代のパンクである。この世代のバンドの特徴は、概ね1970年代後半以降の生まれのメンバーで構成されていることにある。ロンドンでSex PistolsやThe Clashが世界的なムーブメントを起こしている頃に彼らは生まれ、彼らが物心が付くか付かないかの頃にはザ・スターリンが観客に臓物を投げ、LAUGHIN’ NOSEは♪GET,GET,GET THE GLORY♪とオーディエンスを煽っていた。リアルタイムで聴いたパンクはHi-STANDARDやBRAHMANといったところだろう。つまり、彼らは初期パンクが持っていた反社会性や退廃感とはほとんど無縁だったと言える。また、その頃は所謂CDバブル期でもあり、日本のロックそのものが多様性を増していた時期でもある。おそらくジャンルに捕らわれることなく音楽を聴き、それらを柔軟に自らの表現へと取り込むこともできたのだろう。青春パンクは“恋愛や友情、トラウマ、夢と情熱など若者の個人的なできごとや感情を主にテーマにした詞が特徴”とある(“”はWikipediaから引用)。確かにそういうものが多いが、そんな反体制ではない──少なくとも直接的なそれではないパンクロックが生まれたのも、ある種、必然的だったのかもしれない(初期パンクの退廃感はビジュアル系バンドに受け継がれていったと考えられるが、それはいずれまた別の講釈にて──)。

弱く、しみったれた気持ちも吐露
一方で、下記のような思春期の男子ならではの歌詞があることもガガガSPらしさだ。

《僕の歌う歌なんて、全部君の事さ/だから僕の歌は全部君の歌なのさ》《僕のこの思いは君には届かないだろう/悔しいけど、僕には気持ちは届けられないだろう/どうして、どうして、こんなに切ないんだろう/僕の気持ちは大きくなるばかり》(M4「君の歌は僕の歌なのさ」)。

《僕は自分で自分を盛り上げて、/恋をしてる事に酔ってしまっている/いつも僕はそれで終わってしまっている、/こんなことでは駄目なんだ/だから僕は会話をしないんだ、/君を見てるだけで満足するんだ/このままでは僕はいつまでもずっと、/現実逃避で生きてってしまう》(M5「告白」)。

端的に言えば、男子故の情けなさの露呈である。この辺を可愛いと見るか、可哀そうと見るか、それこそ老若男女それぞれによって意見が分かれるところであろうが、こうした情けなさを包み隠さずに歌ったからこそ、ガガガSPが支持を集めたことは、これもまた事実であろう。

《行けよ男達、山を越え谷を越え、/中途半端なまま突き進めそれが人間だ/言いたい事があればその場で叫ぶんだ、/後で土下座でもすりゃいいさそれが人間だ》(M8「弱男」)。

《言いたくて言えなかった君にはそんな思い出はないか/ケンカが弱いから言えなかった事は無いか/集団に入れないから言えなかった苦しみは無いか/イケてないから遠慮がちになった事は無いか》《そういう奴がいいんだその思い出を大切にしよう/それでいいんだ/しみったれたまま前に進め》(M12「しみったれたまま前に進め」)。

弱くても、しみったれていても──いや、弱いからこそ、しみったれているからこそ、叫ぶべきであり、前を向いて進むべきという自己啓発。これはTHE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」《ドブネズミみたいに美しくなりたい/写真には写らない美しさがあるから》にも近い発明だったと思う。少なからず同じような体験をしてきたリスナーがガガガSPをカリスマ視するようになったことにも十分にうなづけるほど、力強い歌詞である。

汎用性の高いメロディーライン
さて、歌詞の話ばかりしてきたので、最後に『卒業アルバム』を介してガガガSPのサウンドとメロディーについて記そう。まずサウンド。青春パンクというだけあって、音はパンクだ。そう言うと馬鹿みたいだが、そうなのだから仕方がない。吉田拓郎のカバーであるM6「証明」がロッカバラード、M10「雪どけ」がミディアム、M12「しみったれたまま前に進め」が弾き語りではあるものの、その他は初期パンク風、メロコア、80年代風と清々しいほどにパンクのオンパレードである。その勢いのあるサウンドに乗るコザック前田のしゃがれた声がバンド全体に独特のニュアンスを加味。ガガガSP独自のパンクロックを作り出している。メロディーに関しては、M4「君の歌は僕の歌なのさ」でElton Johnの「Your Song」をカバーし、M6で吉田拓郎のカバーしていると言えば、その指向が分かりやすいかもしれない。補足すれば、ワールドワイドなきれいなメロディーと、日本人が持つ叙情性を秘めたメロディーとを併せ持つということである。いずれにしても、その歌は親しみやすく、万人受けするタイプなのだ。結成から20年間。周りからは「パンクバンドなんて5年位で辞めるのが妥当」と言われてきたというが、彼らが長きに渡ってシーンで活躍してきた背景には、この汎用性の高いメロディーラインがあったからだと確信する。


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