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事実は小説よりも奇なりの実話を映画化した『ドリームプラン』『ボブという名の猫2 幸せのギフト』【映画コラム】

『ドリームプラン』

(C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

 女子プロテニス界の歴史を変えたともいわれる、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の父である、キングことリチャード(ウィル・スミス)の生き方を中心に、ウィリアムズ一家の歴史を描く。

 テニスは未経験のリチャードだが、壮大な計画書(ドリームプラン)を作成し、娘たちを一流のテニスプレーヤーにすることを第一義として行動する。その立案力と実行力は確かにユニークであり、しかもわれわれは、彼らが成功したことをすでに知っている。

 だから、その結果の方に目を奪われて美談のように感じるのだが、実は見方を変えれば、リチャードと妻(アーンジャニュー・エリス)の子どもたちへの接し方は、一歩間違えれば、あるいはもし彼らが失敗していたら、“毒親”や虐待の類いとして捉えられてもおかしくはない。実際に、この映画にも、そう誤解されるシーンがある。

 例えば、日本でいえば、漫画『巨人の星』の星一徹や、プロボクシングの亀田兄弟の父・史郎のことを思い出す。

 ただ、この映画は、そうしたリチャードの娘たちへの屈折した愛情表現を描くと同時に、彼が決して聖人君子ではなく、多くの矛盾を抱えた頑固で気難しい男であることも描いているから、単にユニークな成功者の話では終わらない。その根には差別や貧しさの問題が横たわっているからだ。

 製作も兼ねたスミスにとっては、この複雑な性格を持ったリチャード役は、実にやりがいがあるものだったと思われる。

 しかも、リチャードの独特な人生訓を聞き、姉妹を演じたセミ・シングルトンとサナイヤ・シドニーの見事なテニスのシーンや、黒人主体の話を見ていると、この映画は、最近目立つ“主張するブラックムービーの1本”という見方もできるのだ。

 そう思わされるのは、黒人監督のレイナルド・マーカス・グリーンがこの題材を手堅くまとめて、144分という上映時間を決して長くは感じさせなかったことも大きいだろう。

 先ごろ公開された、『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』のリー・ダニエルズ監督は、自作やこの映画について、「いつの時代にも、語られるべき黒人の物語や、ヒーローたちの素晴らしい物語はあると思う。今はそういう物語が作れる状況になって、それはとてもうれしいことだ」と語っていた。

『ボブという名の猫2 幸せのギフト』

(C)2020 A Gift From Bob Production Ltd. All Rights Reserved.

 英ロンドンを舞台にした、ジェームズ・ボーウェンのノンフィクションを基に、どん底の生活を送るホームレスの青年が、1匹の猫との出会いを通して再生していく姿を描いた『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(16)の続編。

 ホームレスを支援する雑誌『ビッグイシュー』を売って生計を立てるストリートミュージシャンから、一躍ベストセラー作家となったジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)と、彼に幸運をもたらした茶トラ猫のボブ。

 出版社のクリスマスパーティに出席した彼らは、その帰り道、路上演奏の違反で警察官に取り押さえられたホームレスの若者を助ける。

 ジェームズは自暴自棄になっている若者に、自身が路上で過ごした最後のクリスマスのことを語り出す。それはジェームズにとって、最も困難で苦しい選択を迫られた忘れられない日だった。

 前作に引き続いての、ひょうたんから駒的な“福を呼ぶ猫の話”だが、今回は、ジェームズが「自分にはボブを飼う資格があるのか」と悩む姿を通して、猫(ペット)の幸せとは? を問い掛けるところがある。

 また、息子を亡くしたインド系の隣人、ジェームズの世話を焼くアジア系の女性、身障者でもある『ビッグイシュー』の販売員、飼い猫を亡くした黒人の動物福祉担当員など、ジェームズを取り巻くマイノリティな人々とのかかわりと人情が描かれ、「いいことをすれば、自分にもいいことが返ってくる」という、一種の“クリスマスの奇跡話”にもなっている。だから、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(46)を思わせるところもあった。

 これをご都合主義だとか、出来過ぎた話などと批判するのは簡単だが、たまにはこんな話があってもいいと思う方が豊かな気持ちになれる。それが(今はいささか季節外れだが)クリスマス映画の効用だ。

 監督は、前作のロジャー・スポティスウッドに代わって、『アメリカン・グラフィティ』(73)や、『アンタッチャブル』(87)などで、俳優としても活躍したチャールズ・マーティン・スミスが担当し、手堅いところを見せる。『アメリカン・グラフィティ』出身でいえば、ロン・ハワードも監督として活躍している。

(田中雄二)