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他にもさまざまな理由が考えられるが、確かなのは、アカデミー賞は少数の審査員が議論するのではなく、1万人とも言われる世界中のアカデミー会員たちの投票によって決まるため、意外な結果になる可能性は十分にある、ということだ。
審査員が選考する場合は、その意思を賞に反映できるが、投票制の場合、開票するまで結果は誰にも分からないし、全体のバランスを考慮することもできない。つまり、この結果は決して、ボーズマンの熱演や生前の功績を否定するものではない。中には、ボーズマンとホプキンスで迷った末、ホプキンスに投票し、受賞結果を知って後悔している人がいるかもしれない。そうした意外さも含めて、こうしたことこそ、数々の逸話を残しながら長い歴史を積み重ねてきたアカデミー賞の面白さだとも言える。
思わぬ幕切れとなった今回のアカデミー賞だが、その歴史をひも解けば、死後、2年連続で主演男優賞にノミネートされながら無冠に終わったものの、今や伝説的存在となったジェームズ・ディーンの例もある。そんなふうに、ボーズマンの名はこれからも長く語り継がれていってほしいし、ホプキンスの名演も、授賞式を台無しにした悪者扱いではなく、正当に評価されることを願う。それが、コロナ禍という未曽有の危機を経験した映画の未来を切り開くことにつながると信じるからだ。(井上健一)