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午前10時30分ちょうど、アーロ・パークスは英ロンドン東部の会員制クラブに足早に現れる。カラーレンズ眼鏡と仕立ての良い服に身を包んだ人々ばかりの中で、厚底ブーツを履いているのは彼女一人だ。アニメ柄のフーディーとマゼンタピンクのバズカットに縁取られながらテーブルの列を抜けていくと、静かな注目が波紋のように広がる。こちらで誰かが振り向き、あちらで誰かがほほ笑む。彼女の自信は、ただただ見事だ。
米ロサンゼルスから到着してまだ24時間も経っていない中、ビルボードUKは、過去4年間アメリカで生活してきたシンガー兼詩人である彼女の多忙な日々の合間のわずかな休息の瞬間を捉えた。挨拶を交わすやいなや、新年の抱負や2026年の計画を次々と語り始める様子からは、彼女がより明るく前向きな精神状態にあることがうかがえる。話しながら、歯に施されたジュエルを柔らかな笑顔とともに見せる。
「今年は人生とアートに対してもっとオープンでいたいし、自分のための時間も増やしたい」とパークスは語る。「夕方から朝までずっと音楽を聴いたり、できるだけたくさん映画を観たりしている」。最近のお気に入りには、デヴィッド・リンチのクラシック作品に加え、ブリティッシュ・エレクトロニック界の重要アーティストであるブリアル、ジェイミーxx、アンダーワールド、ジョイ・オービソンの作品が含まれる。また、ボクシングやランニング、“毎日できるだけ体を動かすこと”も生活の重要な一部になっている。
おそらく時差ボケのせいもあるのだろうが、彼女との会話にはどこか心地よい朦朧さがある。クッション付きの窓際席に腰を落ち着け、ブラック・コーヒーを手にした彼女は、朝食を注文することを断り、「今はフロー状態にある」とウェイトレスに告げる。そして、4月3日にトランスグレッシブ・レコーズからリリースされた3rdアルバム『アンビギュアス・デザイア』の制作過程についてじっくり語り始める。すでに豊かなディスコグラフィーを持つ彼女だが、この新作はさらに一段上の出来で、アンビエント・テクノやデジタルな質感、トリップホップの要素が取り入れられ、より肉体的でダンサブルな方向へと進化している。
「このアルバムをどんな作品にしたいかは、はっきり分かっていた」とパークスは言う。「話せば話すほど、これが自分のいるべき場所だと理解してもらえると思う。同じ作品を繰り返し作るのは意味がないし、リスクを取ることは大切だから」
25歳となったパークスは、これまでで最も安定した時期にいる。8年前、彼女は気負いなくデビュー・シングル「Cola」を発表したが、その18か月後にはほぼすべてのテイストメイカーから支持を得ることになる。【グラストンベリー】出演、【ブリット・アワード】の<ライジング・スター賞>の受賞、フィービー・ブリジャーズとの共演によるレディオヘッド「Fake Plastic Trees」のカバーなど、快進撃が続いた。
その後も評価は積み重なり、2021年にはデビュー・アルバム『コラプスド・イン・サンビームズ』を発表。ソウルフルなスポークンワードと実験的ポップが融合したこの作品は、Amazon Musicの映像作品とともにリリースされ、【マーキュリー賞】を受賞した。しかしこの大成功は、まだ業界での足場を固め始めたばかりの若いアーティストにとって試練でもあり、彼女自身は“時に果てのない山のように感じた”と振り返る。
2023年には2作目『マイ・ソフト・マシーン』を発表し、好意的ながらも前作よりも控えめな評価を受けた。リリース前年、彼女は西海岸での生活やポップスターのアッシュニコとの恋愛関係(2024年初頭に終了)に時間を費やし、メンタルヘルスを守るためにアメリカ・ツアーの一部をキャンセルしていた。その苦しい時期は楽曲「I’m Sorry」にも反映されている。
今日彼女はこう振り返る。「当時はまだ、自分の立ち位置や自分が何者なのかを理解しようとしているティーンエイジャーだった。あの頃の自分にはすごく共感する。若い頃の自分の姿を見て、“混乱していたけど、実は正しい道にいたんだ”と思えるのは美しいこと」
『アンビギュアス・デザイア』は、繊細さに満ちた痛みと鼓動を併せ持つ作品だ。彼女にとっては17歳以来“初めて”、“静けさを受け入れられた”作品でもある。ニューヨークで親しいコラボレーターのベアード(ブロックハンプトンと仕事で知られる)とともに制作され、長期の休養期間中にクラブ体験や解放の感覚を初めて味わったことから生まれた。
収録曲12曲は、静謐で内省的な瞬間から解放的な高揚へと移行する広がりのある構成になっている。オープニング曲「Blue Disco」は、ロードの最新アルバム『ヴァージン』に通じる汗、唾、氷や欲望の感覚を体現し、彼女の作品の中でもコーラスが特に際立つ「Jetta」は蒸し暑く官能的な雰囲気の中で夜の冒険への期待を描く。「2SIDED」も美しく、軽快なリズムでその流れを引き継ぐ。
一方でアルバムは、人生が思い描いていた方向と変わり始めたと気づく瞬間の驚きや恐れにも触れている。「Get Go」のようなより抑制された楽曲では、新しい恋のときめきや本音をさらけ出す瞬間の緊張感が描かれている。パークスの歌唱は、落胆したようにも高揚しているようにも響き、その本当の感情を聴き手に推し量らせる。
「かなり変わったクラブ・ミュージックをたくさん聴いて、自分がそこにいる姿を想像していた」とパークスは語る。「でも、実際にはそれまでクラブに行ったこともなかったし、その世界にどっぷり浸かったこともなかった。音楽を始めたばかりで時間もなかったし、大学にも進学していなかったから。でも、ああいう音の反復性や広がりには、強く引き込まれるものがあった」
ロサンゼルスに戻ってから、パークスはハウスやディスコ、テクノが流れるアンダーグラウンド・パーティーを毎月主催するミッドナイト・ラヴァーズ・コレクティブのイベントに常連として通うようになった。ダーティ・ヒット所属のケリー・リー・オーウェンズをはじめ、世界各地のDJやプロデューサーと新たに親交を深める一方で、ダンスフロアや喫煙エリアでは“実にさまざまな不思議な人物たち”と出会っていった。
そうした会話のいくつかは、『アンビギュアス・デザイア』のテーマ形成にも影響を与えている。その中には、年長のクィアのレイヴァーたちとの交流も含まれていた。彼らは「50代や60代になって再び活力を取り戻し、クラブの中に安心できる居場所を見出していた人たち」だとパークスは語る。彼女にとって彼らは、夜の高揚や人とのつながりの魔法が年齢とともに失われるものではないことを示す、生きた証のような存在だった。
こうした交流からパークスが得た新たな視点の一つが、“コントロールできるものをコントロールする”という考え方であり、仕事のスケジュールにおいてより明確な境界線を引くことの重要性を学んだ。彼女は、「失敗だと思われてしまうことや、大きなチャンスに直面することに対して、とても敏感になっていた」と振り返る。特に2022年の夏、ロンドンのO2アリーナでビリー・アイリッシュのサポートを務め、さらにウェンブリー・スタジアムでハリー・スタイルズの前座を務めながらフェス出演も重なっていた時期のことだ。
その中でも、後者の経験は転機として強く記憶に残っている。「あのステージに立ったとき、自分が本当に小さなアリみたいに感じた。そして“ここでどうやって自分の存在を示せばいいんだろう”と考えていた」と彼女は語り、当時を思い出しながら椅子で身を引く。「たくさんの緊張を乗り越えて、自分自身のために立ちあがらなければならなかった。あれほど多くの人に見られている場所では、圧倒されてしまうのも無理はないと思う」
ビリー・アイリッシュの公演の一つでオープニング・アクトを務めた後、パークスは車に乗り込み、西へ約200マイル移動して【グラストンベリー】の会場へ向かった。翌日には、ロードとクレイロとともにピラミッド・ステージにサプライズ出演し、「Stoned At The Nail Salon」を魂を揺さぶる形で披露した。この出来事は、彼女にとって“本当に自分を追い込んだ週末”の頂点となった。
それから4年が経った今、彼女は当時の多忙な日々を、若くしばしば圧倒されていた自分への共感とともに振り返っているが、その混沌の中からロードとの親しい友情が育まれた。パークスにとってロードは人生の“北極星”のような存在である。『アンビギュアス・デザイア』のアイデアを練るにあたっても、ロードは最初に連絡を取った相手の一人だった。電話越しに2人は本について語り合い、その週に見た夢の鮮烈で奇妙な、半ばしか思い出せないような断片についても話し合った。
「彼女は、自由であることや本当に自分らしくあることの意味を体現している存在だと思う」とパークスは、ロードとの関係について尋ねられて語る。「ずっと彼女を尊敬してきたし、(“アンビギュアス・デザイア”の)曲もいくつか途中で送って、感想を聞いたりしていた。彼女はいつも私を励ましてくれるし、とても賢くて、驚くほど強い自己確立を感じさせる人」
2026年はパークスにとって穏やかな再出発の年となる。ロンドン、ロサンゼルス、ブルックリンで行われた【Sonic Exploration】と題した親密な公演が成功を収めたこともあり、新作を携えてツアーに出る計画を語る彼女は活気に満ちている。これらの公演ではベアードとともに円形ステージで演奏し、過去の楽曲を再構築した。『アンビギュアス・デザイア』は彼女に新たな目的意識をもたらし、これらの楽曲で人々を“驚かせたい”と考えている。
一方、音楽以外でもパークスは個人的な使命に取り組んでいる。2年前にはユニセフ大使としてシエラレオネを訪れ、その後はロンドンの学校で若者たちに向けて詩やマインドフルネスのワークショップを行ってきた。こうした経験は彼女の中に深く残り、それぞれの旅で出会った好奇心や希望、人間性がアルバムにも色濃く反映されている。
「創造性は本来、とても直感的で遊び心のあるもの」とパークスは言う。「ひらめきに従っていけば、その先で思いがけない発見に出会えるかもしれない」
By: Sophie Williams / 2026年1月28日 Billboard.com掲載
◎公演情報
【FUJI ROCK FESTIVAL ’26】
期間:2026年7月24日(金)、25日(土)、26日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※アーロ・パークスの出演は24日(金)となります。
INFO:FUJI ROCK FESTIVAL
https://www.fujirockfestival.com/
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