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Superflyの約10年ぶりの全国ホールツアー【Superfly Hall Tour 2025 “Amazing Session”】のファイナル公演が11月6日、東京ガーデンシアターで行われ、7,000人のファンを熱狂させた。全国各地の2,000~3,000人キャパのホールで行われてきたこのツアーだが、最終地・東京だけはアリーナクラスのハコだった。しかし会場の大きさは関係なく、オーディエンス一人ひとりの心を打ち抜き、深く浸透し感情を震わせる越智志帆の歌は変わらない。
6月にリリースしたキャリア初の邦楽カバーアルバム『Amazing』を携えてのこのツアー、全19曲中オリジナルは8曲で、志帆は「自分の曲もセルフカバーするつもりで歌います。この内容のライブはたぶんこの先ないと思う」と語っていたように、ライブアレンジの構築の方法も含め、全てが特別だった。それは一曲ごとにバンドメンバーからアレンジリーダーが選ばれ、そのアイディアをスタジオで全員で音と会話のセッションで磨き上げ、それを八橋義幸(G)がトータルでまとめるという方法だ。“音” を “楽”しみながらそれぞれの個性と感性を反映させ、最高の音楽を作り上げるその様子は、ライブのエンディングのメイキング映像で観ることができた。そうして出来上がった、ステージの上にいる志帆とミュージシャンたちの“結晶”は一曲一曲が特別な温度感を感じさせてくれた。
ステージセットはアトリエをイメージした温もりを感じさせる空間を作り出し、客席もクリエイションに立ち会っている、そんな感覚にさせてくれる。オープニング・ナンバーは「Beautiful」。サビ部分のアカペラからスタートし、芳醇なギターの音が乗り、ドラムが推進力を生み、コーラスとの掛け合いも印象的で、美しくも激しいロックナンバーがさらに美しさを増していた。「フレア」も玉田豊夢(Dr)と宇野剛史(B)のリズム隊の太いビートが体に響いてきて、そこから軽快なリズムに乗り、心温まるメロディーを歌う志帆の伸びやかな歌声が、会場の隅々にまで広がっていく。「SISTER」(back number)ではまさにバンドのボーカル然とした佇まいの歌で魅せた。「13本、一本一本心を込めてやってきたので、ファイナルと思うと切なくなる」と、丁寧に紡いだ音楽を最高の仲間とセッションしてきた日々を振り返り、「彩り」(Mr.Children)へ。志帆の優しさや憂いが楽曲に新たな命を吹き込み、新しい世界を作り出していた。
「果てない空」(嵐)を経て、少し高くなった小さなリビングのような場所にある椅子に座り「メロディー」(玉置浩二)をひと言ひと言抱きしめるように歌う。男性アーティストの歌だけで構成されたカバーアルバムの制作の苦労を吐露するシーンも。「男心というものを自分がちゃんと理解して表現できるのか不安だった。何度も歌ってその不安に向き合ううちに、曲とだんだん仲良くなって繋がっていくことができた。そして男性が書いた曲なのに不思議と母性を感じる曲があったり、自分もこういう大人になっていきたいと思える女性像が見えてきたりする曲があった」と、気づきがあり、得るものが多かった大切な時間になったようだ。
オリジナル曲「輝く月のように」は志帆と鶴谷崇(Key)がアレンジリーダーとして、ブルージーな薫りのアレンジを紡ぎ、志帆のエモーショナルな歌が感動を連れてくる。志帆が「色々な曲が化けていくのを楽しんで」と言っていたように、曲が表情を変える、という表現では足りないほど“鮮やかな変化”で豊潤な曲、歌になっている。
「Ashes」「タマシイレボリューション」「Alright!!」、星野源の「Crazy Crazy」のカバーとアップテンポの曲で「このツアー一番の盛り上がり」(志帆)と語るほどの凄まじい熱気が会場を包む。バンドメンバーのソロも堪能。一気に空気が変わったのは「Charade」だ。志帆と名越由貴夫(G)がアレンジのアイディアを出した、予測不能の展開を見せる本曲は、組曲のような構成の世界観が提示され、客席がグッと引き込まれていくのが伝わってくる。「たしかなこと」(小田和正)、「Wherever you are」(ONE OK ROCK)では、圧倒的な歌の表現力で時に優しく、そして強く引き寄せ全員に深い愛を伝える。「みんなで一緒に歌いましょう」と「愛をこめて花束を」を投下すると、全員が手を横に振りながら大合唱。大きな感動が生まれる。本編ラストは「僕のこと」(Mrs. GREEN APPLE)。前半は語り掛けるように歌い、そして〈ああ なんて素敵な日だ〉と高らかに歌い上げ、その抑揚、コントラストに引き込まれる。
アンコールは「楓」(スピッツ)から。『Amazing』ではスピッツの「渚」をカバーしているが、「以前、テレビの音楽番組で秦基博さんとデェユットして、それがすごく印象に残っている」ため、このツアーでは名バラード「楓」を、志帆と竹本健一(Cho)がアレンジの基点を作りあげ、素晴らしい一曲に仕上げてきた。志帆と竹本健一、稲泉りん(Cho)の3声が交差し、重なると祈りの歌のように、多幸感と切なさを感じさせてくれる。「スキップ・ビート」(KUWATA BAND)では「セクシーなダンスよろしくね」と、志帆のビブラートとバンドのアンサンブルが気持ちいいグルーヴを作り出し、客席をダンス天国に。歌い終わると「めちゃくちゃ楽しいです、私」とバンドとお客さんとのセッションを目いっぱい楽しんでいた。
そしてラストは「人としてかっこよく生きていこう」とSUPER BEAVERの「人として」を披露。歌そのものに光が当たっているような感覚だ。歌詞、メロディーが放つオーラ、バンドメンバーの感情が音に乗り、そして志帆の溢れる思いと重なり、それが光となって歌に降り注ぐ——そんな瞬間だった。取材メモには「名演。」という文字があった。
八橋義幸、名越由貴夫、玉田豊夢、宇野剛史、鶴谷崇、稲泉りん、竹本健一という腕利きミュージシャンと志帆の8人が作り出す美しい極上のアンサンブルが、そこにいた全ての人の心を震わせたはずだ。セッションのおもしろさと尊さを改めて感じさせてくれたライブだった。最後、志帆は感極まって涙を浮かべており、このツアーがどれほど素晴らしく、充実した日々だったのかが伝わってきた。そして深々と長い時間お辞儀をしてステージを去った。その思いはお客さん、カバーをした楽曲のアーティスト、バンド、スタッフ、そして音楽に向けられていた。
Text by 田中久勝
Photos by 渡邉一生 / SLOT PHOTOGRAPHIC
◎セットリスト
【Superfly Hall Tour 2025 “Amazing Session”】
※11月6日(木)東京ガーデンシアター ファイナル公演
1. Beautiful
2. フレア
3. SISTER(back number)
4. 彩り(Mr.Children)
5. 果てない空(嵐)
6. メロディー(玉置浩二)
7. 輝く月のように
8. Ashes
9. タマシイレボリューション
10. Alright!!
11. Crazy Crazy(星野源)
12. Charade
13. たしかなこと(小田和正)
14. Wherever you are(ONE OK ROCK)
15. 愛をこめて花束を
16. 僕のこと(Mrs. GREEN APPLE)
<アンコール>
17. 楓(スピッツ)
18. スキップ・ビート(KUWATA BAND)
19. 人として(SUPER BEAVER)
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