<ライブレポート>Helsinki Lambda Club、結成12周年祝う初ビルボードライブ公演 トリプルファイヤー吉田がサプライズ登場

2025年7月16日 / 18:00

 客電が落ちて会場が暗くなると、ステージ上のバンドは、まるで時間を溶かしていくように、ゆったりと甘やかな演奏を始めた。アンサンブルの波にずぶずぶと沈んでいくような感覚に浸っていると、ボーカリストが繰り返しこう歌うのが聴こえてくる――<君は答えを知っていたの?>。恍惚とした恋のフィーリング。僕は君に惹きつけられている。でも、惹きつけられれば惹きつけられるほど、抱きしめ合えば抱きしめ合うほど、僕は君のことがわからなくなる……。近づき、遠ざかる。近づき、遠ざかる。そんなことを繰り返しながら僕らはどこに向かっているのだろう? そんな問いに、バンドは曲の中でひとつの答えを提示する。光だ。<光の方へ/愛に備えて/光の方へ/光の方へ>。そうボーカリストは歌う。暗闇を演出していた照明はミラーボールのように輝き始めて、会場をキラキラと照らし出す。未知なるものは美しい。ああ、なんて素敵な空間なんだろう!

 7月5日、Helsinki Lambda Clubがビルボードライブ東京にてワンマンライブ【12th Anniversary Special Live Men on the Board~A Slow Burn Session~】を開催した。メンバーの橋本薫(Vo. / Gt.)、稲葉航大(Ba.)、熊谷太起(Gt.)、の3人に加え、岡田優佑(Dr.)、石崎元弥(Per. / Banj.)、沼澤成毅(Key.)の3人をサポートメンバーに迎えた6人編成で、この日のステージに立ったHelsinki Lambda Club。稲葉と熊谷のふたりを中心に作り上げたという特別アレンジを施された楽曲たちは、まるで1曲1曲、違った世界を旅するような、豊潤で華やかな世界に空間を誘った。ちなみに、この日はバンドの結成記念日の翌日だったという。没入感のあるサイケデリア、踊り出したくて体がムズムズしてくるような躍動感あふれるダンス、時に血を滲ませ、胸をしめつける歌……この日のビルボードライブ公演は、バンドが結成から12年間の歴史の中で育んだその豊かな音楽性、そして未来へのたくさんの可能性が花開く、素晴らしいパフォーマンスだった(公演は二部制で、私は15時開演の1st Stageを観た)。

 冒頭に書いたのはライブの幕開けを飾った「My Alien」。その後も、稲葉のサックスから始まり、静と動の見事な緩急を描いた「IKEA」へと演奏は続いた。ビルボードライブだからといって、しっとりと聴かせるだけではない。「キリコ」ではヘヴィなリズムセクションの推進力と甘美なメロディの絡み合いで情熱的な空間を生み出すなど、ロックバンドとしてのダイナミズムもしっかりと見せつける。橋本がハンドマイクで歌う「Chandler Bing」では、稲葉が客席にハンドクラップを煽り、さらに合唱も巻き起こるなど、バンドと観客とのコミュニケーションから生まれる幸福な一体感が会場を包み込んだ。橋本がアコースティックギターを、稲葉がウッドベースを、そして石崎がバンジョーを、それぞれ持って演奏された「ユアンと踊れ」はガシガシと体にダイレクトに響いてくるようなリズミカルな演奏が最高に楽しい。続く「Good News Is Bad News」という、モデスト・マウスのアルバムをちょっと思い出させるタイトルの曲でも、稲葉はウッドベース。軽快な演奏の狭間からリリシズムが零れ落ちるような、力強い肉体性の奥からも繊細さが溢れ出てくるような……そんな、Helsinki Lambda Clubの大胆さと品性の両方を感じさせる演奏を堪能する。ニューウェーヴ的なロマンティシズムが響き渡る「Yellow」も最高だった。

 そしてライブ終盤、この日、個人的に最も感動したのが、8曲目に演奏された「パーフェクトムーン」だった。柔軟かつ自由な広がりを見せ続けたバンド・アンサンブルが、ここで一気にタイトに集約され、橋本の歌に寄り添う。始まりは美しいピアノ。<新宿は人が多過ぎて/大事なものが見えなくなる>――そう歌い出されるこの曲は、(新宿ではなく六本木だが)東京のど真ん中にあるビルボードライブ東京で演奏されるに相応しい1曲だった。感傷と祈りが、溢れてくるようだった。まるでこの歌の内容と呼応するように、この日、橋本はMCでこんなふうに話していた。

 「バンドを長いことやっていますけど、福岡の田舎から出てきて、こんな東京のど真ん中で演奏する日がくるとは思っていなかったので、不思議な気持ちです。でも、思いもよらないことが起こる方が楽しいと思うので。今後もこういう機会がどんどんあれば最高だなと思います」

 思いがけないことばかりの人生に、涙と花束と祝福を。<カーテンは開けといて>と歌う「パーフェクトムーン」の後に続き、本編ラストを飾った「Be My Words」の演奏中、ステージ背景のカーテンが開いて東京都心の絶景が広がった瞬間は、まるでよくできたドラマのようで、でも「人生には、こういうことが起こり得るんだ」ということを、Helsinki Lambda Clubはその身をもって教えてくれた。「Be My Words」の最後で歌われる<無駄なことは何一つないさ>というフレーズは、Helsinki Lambda Clubがその12年間の歴史から掴み取ったメッセージのように、強く、確かに、響き渡った。

 アンコールではトリプルファイヤーの吉田靖直がサプライズ登場し、1曲目に新曲「Supernice(feat. トリプルファイヤー吉田)」を披露。リズミカルでパーカッシブなバンドの演奏と、ジャケット姿で登場した吉田のポエトリーが見事な化学反応を生み出して会場は大盛り上がり。そしてライブは最後、「THE FAKE ESCAPE」の豊潤なメロウネスに浸りながら締め括られた。アンコールのMCで橋本は、「今日みたいな日が来るなんて全然思っていなかったし、この先もワクワクすることがたくさんあるので。ぜひ、僕らと一緒に過ごしていっていただければ嬉しいです」と観客たちに告げた。未来に何が起こるかなんて誰にもわからないけど、ただ、ワクワクする方へ――そうやってHelsinki Lambda Clubはここまで歩んできたし、この先も歩んでいくのだろう。そんなことを感じさせる豊かな時間の流れだった。自由に羽ばたく音楽と、説明書も設計図もない人生を祝福する、素晴らしいライブだった。

Text:天野史彬
Photo:シェイク ソフィアン

◎セットリスト
【Helsinki Lambda Club 12th Anniversary Special Live
Men on the Board~A Slow Burn Session~】
2025年7月5日(土)東京・ビルボードライブ東京
1. My Alien
2. IKEA
3. キリコ
4. Chandler Bing
5. ユアンと踊れ
6. Good News Is Bad News
7. Yellow
8. パーフェクトムーン
9. Be My Words
En1. Supernice (feat. トリプルファイヤー吉田)
En2. THE FAKE ESCAPE

◎リリース情報
シングル「Supernice(feat. トリプルファイヤー吉田)」
2025/7/16 DIGITAL RELEASE

アナログ盤『月刊エスケープ』
2025/7/16 RELEASE


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