<ライブレポート>なるみや、“誰かを想う力”が垣間見えた1stライブツアー「自分が幸せになれる選択をして大丈夫」

2025年6月14日 / 18:00

 2025年6月7日、KANDA SQUARE HALLで開催された、【なるみや 1st ライブツアー “まどろみの記憶”】の東京公演を観て、たったひとつ確信したことがある。

 心の奥底で渦巻く劣等感、他人との比較から生まれる焦燥、ふいに湧き上がる僻みや嫉妬が楽曲に蔓延っている。そんなネガティブな印象で黒く塗りつぶされたなるみやの曲だが、TikTokを通して広がっていったその人気は、“暗いから共感される”という単純な話ではなかった。

 キーボード、ギター、ベース、ドラムのアンサンブルとともに、薄く揺れる白いカーテンの向こう側でうっすらと姿を覗かせる。今回は初のバンドセットのステージで、1曲目の「だって、優等生」から本人の緊張感が伝わってくる展開だった。空中を泳ぎ出す甘くて可憐な歌声にじっと耳を傾ける客席の姿も会場がホールであることが作用したのか、控えめでやけに印象的だった。

 儚さと危うさが歌声を伝い心に染みわたった「永眠のすゝめ」で、白いカーテンに浮かぶ、なるみやのシルエット。照明の加減で、右へ現れては瞬時に消え、左に現れてはまた消える。この繰り返しは、制作部屋を背景に見事な指さばきでピアノを弾くなるみやを映したショート動画のリズミカルなカットワークを思い出させた。なるみやの映像における美意識まで、再現性高く表現されていたシーン。スクリーンの演出がないこの会場で、こんなにも映像的な体験が成立してしまうことに驚かされた。ファンを想う気持ちは、コール&レスポンスで沸いた「可愛いあの子が気にゐらない」、「乙女的ストーキング」という執着心を表現した和楽器縛りのパートやMCでしっかりと表れていたと思う。例えば、骨太なベースラインが響いた「リードコントロール」は、独占欲が強く表れた1曲で、なるみやがただものではないことを語る。ミュージック・ビデオの視覚的インパクトもかなり強めだ。

 そうしたなるみやの楽曲イメージに直結するぐるぐるとまわる青い感情の形を、180度変化させたのが、この東京公演だった。言葉にできない切なさが流れる「夏の悪夢」から、歌い手やボカロP、絵師などが一体となって曲を完成させる企画『ボカデュオ』にて、作詞・歌を手がけた「いまひとりです」に、「月夜の庭にて」へと続いた比較的静寂な楽曲たち。なるみやのレパートリーの中では珍しく、まっすぐな愛が素直に伝わり、自然と頷くように、身体がそっと横に揺れていくのを感じる。今回のツアーのために書いてきたと告げたリリースの予定もない未発表の新曲も、水沫が煌めく今の季節に似合う温度感のナンバーだった。ここで知ったのは、なるみやが描く夏は、決して炎天下を彷彿とさせる曲ではないということ。どちらかといえば、なるみやは、憂い交じりのチルな夏を歌うシンガーだ。メランコリックな感情をやんわりとした曲調で包む大人なシティ・ポップにも似合う。

 1st EP『まどろみの記憶』に収録された基本的に暗い歌詞を、キラキラとした音で纏っているのは、みんなが聴けるための工夫だという。なるみやの人柄が一層輝いたのは、後半パートのMCから。個人的には、歌以上に刺さった。

 「みなさんが、もし私の暗い曲を聴いて共感してしまうのなら、同じ気持ちになってしまうのなら、みんなには共感できないくらいに、いつかちゃんと幸せになってほしいと思っていて。『なんでこんな曲を聴いてたんだっけ?』とか『こんな暗いアーティストいたな(笑)』とか、いつかぼんやり思い出してもらえるくらいで、私はちょうどいいなと思っています。だからみんなは、自分が幸せになれる選択をして大丈夫」。

 みんなと繋がるきっかけを最初にくれた曲と前置きした「醜形恐怖症」に続いたのは、10代最後に制作した「不純喫茶」。そして、ラストは、1st EP『まどろみの記憶』を締めくくる「死が僕らに恋してる」だった。

 この日、もうひとつ、なるみやの言葉が煌めいていた。(自分の曲を聴いてくれる人たちが)誰でも良かったわけではなく、あなたたちだから良かったと感謝した際のMCで放たれた「一人ひとりに言ってるんですよ!」という言葉だ。活動初期に築いてきたTikTokでリスナーのコメントをもとに楽曲を作るという一見変わったインタラクティブな創作過程は、楽曲が自身の感情を吐露する場所にとどまらず、深くリスナーの視点とリンクしている印象を強く受ける。なるみやは、当初から今もファンを置いていかない。いつも対等な視点に立っている。歌声がかわいいから、才能があるから、暗い歌詞に共感できるからーーそれだけではここまでの愛は生まれない。そこで初めて、暗い歌詞を飾るキラキラとしたサウンド自体が、なるみやの“誰かを想う力そのもの”なのかもしれないと、ふと思った。そう、温かくて優しいキャンドルの灯に似た青い光に、ここで出会えた。

Text by 小町碧音
Photo by piso

◎公演情報
【なるみや 1st ライブツアー “まどろみの記憶”】
2025年6月7日(土)
東京・KANDA SQUARE HALL
<セットリスト>
M1. だって、優等生
M2. 永眠のすゝめ
M3. 可愛いあの子が気にゐらない
M4. 乙女的ストーキング
M5. リードコントロール
M6. 夏の悪夢
M7. いまひとりです(ボカデュオ楽曲)
M8. 月夜の庭にて
M9. 未発表曲
M10. 醜形恐怖症
M11. 不純喫茶
M12. 死が僕らに恋してる


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