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2024年9月で15年目を迎えるJMS主催ライブイベント【REDLINE】。そこから派生した【REDLINE ALL THE FUTURE Ⅳ】に、KOTORIとw.o.d.が出演した。
【REDLINE ALL THE FUTURE】は2022年、HEY-SMITHの猪狩秀平のYouTubeチャンネルで「コロナ禍のライブハウスシーンについて語る」をテーマにした座談会がきっかけで生まれた単発ライブシリーズ。第4回目となる今回は、【REDLINE TOUR 2023】の下北沢Daisy Bar公演で開催されたKOTORIとw.o.d.のツーマンライブが好評だったことを受けセッティングされた。同世代でありながらも対バン経験がほぼないバンドのツーマンを実現できるのは、インディーズレーベルとディストリビューションを司るJMSならではだろう。しかも会場は「若手ロックバンドの登竜門」として周知されている渋谷CLUB QUATTRO。今の日本の若手ロックシーンを牽引する両者のツーマンに相応しい舞台だ。
先攻はKOTORI。前回のツーマンで後攻を務めたため、横山優也(Vo./gt.)が「酒を飲みながら最高のバンドw.o.d.を観たい」と先攻を申し出たという。ステージに登場した4人がおもむろに演奏を始めると、横山が「REDLINEでヤバい景色しか観たことないんで」と挨拶をし、そのまま初期曲「4号線」に入った。歌い出しからフロアは合唱し、横山も観客の歌声を尊重するように優しいボーカルを響かせる。中盤からテンポアップすると、フロアにはダイバーが続出。観客とコミュニケーションを取りながらライブを作り、クライマックスのような高揚感を生み出した。
地に足のついた演奏で「FOREVER YOUNG」を届けると、「w.o.d.に“1994”という曲があるんですけど、俺たちは“1995”!」と告げ「1995」へとなだれ込む。KOTORIの音楽はどれも、不満などに対して牙をむくというよりは、目の前に広がる景色を賛美するおおらかさがある。豪快かつアグレッシブな音を鳴らしながら「時代を超えてゆけ」と歌う様子には、眩しい太陽や水しぶきにも似たきらめきが隅々にまで通っていた。まさに同曲の歌詞にある「青春」そのものだ。瑞々しいロマンチシズムがフロアを巻き込んでゆく。
横山が「w.o.d.が最高のライブをして締めくくるのがイベント的には正解なんですけど、俺らもカマそうと思ってるんで。俺らがカマせばカマすほど、w.o.d.の良さが上がっていくシステムですね」と笑うと、続いて披露したのは最新曲の「HeartBeat」。佐藤知己(Ba.)と細川千弘(Dr.)による繊細で巧妙なリズムワークと上坂仁志(Gt.)の耳に残るギターリフが織りなすアレンジは彼らの新境地で、リズムに特化したサウンドメイクはメロディの良さをさらに際立たせる。ライブで演奏するのはこの日で2回目とのことだが、今後さらにバンドのキー曲として成長していくことを予感させた。
そこから「秘密」「Masterpiece」と昨年下半期にリリースした楽曲を立て続けに演奏し、あらためてこのバンドが常にグッドメロディを生み出し更新し続けていることを思い知る。人懐っこさとほのかな切なさを併せ持つ、忘れたくない感情が刻まれているであろう素直なメロディは、聴き手の心に直接染み入る。フロアにここまで活力あふれるシンガロングが巻き起こるのも、メロディの力が大きく関係しているのではないだろうか。それにスポットライトを当てるような楽器隊の緩急が効いた演奏も、真摯な情熱に満ちている。
【REDLINE】と掛けて「RED」でグラデーションを描くようにギアを上げると、「素晴らしい世界」「Dive into your Dreams」と観客と一丸となりグルーヴを育んでいく。「いままででいちばん自由に踊っている【REDLINE】が観たい」と呼びかけて披露した「We Are The Future」は、ステージとフロアの隔たりを吹き飛ばすような鮮烈な歌声が響いた。「トーキョーナイトダイブ」でピュアに締めくくるかと思いきや「めっちゃいい感じに締めたけど、爆発してもらっていいですか? w.o.d.がライブしたくなくなるくらい最高にして終わります」と告げ短尺パンクナンバー「遠き山に陽は落ちて」を投下する。荒々しい演奏を痛快に鳴らし、終盤には上坂がフロアにダイブするなど、持ちうる力をすべて解放するラストだった。
宣戦布告とも解釈できるバトンを受け取った後攻w.o.d.は、ハードナンバー「リビド」でライブをスタート。3ピースならではの一人ひとりの強靭な音がぶつかり合う演奏に、会場の空気が一変する。Ken Mackay(Ba.)の歪んだベースで幕を開ける「イカロス」ではさらに音の威力が増し、中島元良(Dr.)のドラムの妙が光るグルーヴが心地よい「lala」ではサビでフロアからシンガロングが起きた。ただただ愚直に自分たちのロックを突きつけ、それを全身で受けた観客が思い思いにその音を愉しむ。非常にプリミティブな空間だ。
サイトウタクヤ(Vo./Gt.)が「KOTORIの曲に“1995”という曲があるんですけど、俺らの曲(の読み方)は(横山の言っていた)“ナインティーン・ナイティフォー”じゃないんですよ。“イチキュウキュウヨン”」と言い「1994」へ。血が噴き出すようなスリリングなギター、甘みのあるメロディ、シャウト混じりの気魄に満ちたボーカル、軽快でありながら重量感のあるリズム隊が、絶妙な均衡を保ちながら走り抜ける。その危うさに一時たりとも目が離せない。
KOTORIのライブに敬意を払うサイトウは、前回よりも大きな会場で再度ツーマンが実現したことへの喜びを語る。「勝手に遊んでください。よろしく」と告げ、ニルヴァーナ直系の初期曲「スコール」、切なさと爽やかさを併せ持つ最新曲「陽炎」、ノスタルジックな「オレンジ」とポップナンバーを連続で披露した。淡白でありながら奥行きを感じさせるサイトウの歌声は、聴き手を楽曲に描かれた物語の世界へとしなやかにいざなう。彼のボーカルの力をじっくりと噛み締められるセクションだった。
サイトウは「あいつ(横山)あんなしゃべってて。(あんなふうにMCで煽ったり盛り上げられたらみんな)テンション上がるやん。俺もあんなふうにしゃべりたいわ。でも無理なんですよね。そういうやつなんですよ」と続ける。彼の言うように正反対の素質を持つKOTORIとw.o.d.であるが、自分たちの人間性に忠実な音楽を作り続けているという意味では共通だろう。その後の「STARS」は3人が3人の力を信じていることをひしと感じた。迷いなく音を鳴らす彼らだからこそ、シンプルな楽曲も高い濃度でもって鳴らすことができる。
「楽園」「踊る阿呆に見る阿呆」とユーモラスかつアンニュイなムード漂うハードナンバーをたたみかけ、ラストの「My Generation」ではさらに観客がジャンプとシンガロングに興じ、熱狂のなか幕を下ろした。急に魔法が解けたような寂寥感を覚えた観客がアンコールを求めるも、w.o.d.は普段アンコールに応じないバンドだ。終演後のアナウンスも流れ、会場を後にする観客がいるなか、再びw.o.d.の面々がステージに現れた。
予想だにしない展開に観客が驚きを隠せないなか、「みんなの熱量に負けてる気がしたんで(アンコール)やります」とサイトウが言い「Fullface」を演奏する。「丸い真理を蹴り上げて、マリー。」では照明トラブルで一瞬暗転したのを面白がったサイトウが「照明を全部落として」と求め、真っ暗闇のなかで爆音を鳴らした。暗闇で完璧な演奏をし、音だけで観客を興奮させる3人も、予期せぬ状況を面白がる観客やイベントを支えるスタッフ陣も、誰もがロックを極限まで愉しむプロフェッショナルだ。最後に「KOTORIみたいに俺らもみんなで歌えるのやりたい。同じ曲もう1回やっていい?」と言い、再度「lala」を届ける。 “lalala”のサビで盛大な合唱が起こり、それをエネルギーにした3人の演奏はまさに水を得た魚のようにたくましかった。
終演後に、KOTORIとw.o.d.の共通点がもうひとつ見つかった。それは両者とも負けず嫌いということだ。横山は冗談めかした様子ではあったがしきりにw.o.d.を煽っていたし、サイトウも「自分たちもああいうことがやりたい」とクールながらに対抗心をあらわにしていた。今までさほど交わる機会がなかった同世代同士、2回目のツーマンだったからこそ、遠慮なくお互いを意識しながら、自分本位なライブができたのかもしれない。タイトル通り、ロック/ライブハウスシーンの未来を切り開く一夜だった。
Text by 沖さやこ
Photo by Masanori Fujikawa
◎公演情報
【REDLINE ALL THE FUTURE】
2024年5月14日(火)
東京・渋谷 CLUB QUATTRO
【w.o.d. presents “スペース・インベーダーズ VI”】
2024年6月29日(土)
愛知・DIAMOND HALL
GUSET:go!go!vanillas
2024年7月12日(金)
東京・Zepp DiverCity TOKYO
GUEST:キタニタツヤ
2024年7月15日(月・祝)
大阪・GORILLA HALL
GUEST:ハルカミライ
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