<ライブレポート>ゴスペラーズ、30周年記念フルオーケストラツアー完走 5人とマエストロ、管弦楽、編曲家の美学が結晶

2024年5月21日 / 17:00

 ゴスペラーズにとって2年ぶりのフルオーケストラツアー【billboard classics The Gospellers Premium Symphonic Concert 2024】が、5月19日札幌文化芸術劇場hitaru公演でファイナルを迎えた。

 2度目のシンフォニックコンサート、5人は東京、兵庫、宮城、愛知、北海道の5都市6公演で各地のオーケストラと共演、それぞれの街で生まれる“響き”を楽しみ、客席に大きな感動を届けた。その東京での2公演目、4月30日の東京文化会館公演を観た。

 指揮は全会場とも前回に続き、メンバーからもゴスペラーズファンからも“ゆうこりん”の愛称で親しまれている田中祐子。大きな拍手で迎えられオーケストラと田中が登場し「永遠(とわ)に」などゴスペラーズの名曲が織り交ぜられた「Overture」が奏でられる。美しいメロディにいつもとは違うアレンジが施され、雄大かつ繊細な音が客席を包む。素晴らしい一夜になることを予感させてくれる。

 北山陽一、黒沢 薫、酒井雄二、村上てつや、安岡 優の5人が登場し、鮮烈なビートを刻んだのは今回の公演のために新たにアレンジされた「いろは 2010」だ。酒井の甘い一句に始まり、超絶早口のいろは歌を盛り込んだジャジーな曲はスリル、サスペンス、セクシーさも感じるさながら映画のサントラのようだ。激しいリズムに加え、言葉から生まれるリズムが重なり、疾走感が生まれる。さらにそこにモーツァルト、ベートーヴェン、グリーグの作品のモチーフが組み込まれ、斬新で新鮮、想像を超えるアレンジと演奏によって、完全にクラシック曲に生まれ変わっていた。前回を経て、さらに進化を求めて5人と田中とがまさにがっぷり四つに組んで、細部に至るまで歌と音の“響き”にこだわり、磨き上げてきたことがこの一曲だけで伝わってきた。東京フィルハーモニー交響楽団とは4月15日のツアー初日の八王子公演に続き2回目ということもあり、歌と音の“交差点”が絶妙で、ステージ上の63人の美学が結晶になって、一曲一曲を輝かせていた。

 村上が超満員の客席を見渡し感謝して「素晴らしい街・上野に帰ってきたことを僕が一番喜んでいます。今日は我々5人、田中祐子さん、そして東京フィルの57人、合わせて63人でゴージャスでシンフォニックで、ハートフルで時にソウルフルな音をたっぷりお届けします」とメッセージを贈る。

 広い空に輝く星をイメージさせてくれるイントロ「星屑の街」は、北山がメンバーを指揮しながら歌をまとめ、田中と呼応しオーケストラと完璧なアンサンブルを作り上げる。ホルストの「金星」をマッシュアップさせ、それぞれの歌とコーラスとサウンドが解け合い胸に迫ってくる。続く「永遠(とわ)に」もそうだが、オーケストラはひとり一人の歌にスポットを当てる音を紡ぎながら、コーラスとも完全にシンクロし、楽曲を強い光で包み込む。どこか歌謡曲的なメロディと、それとは全く異質のブラックミュージックが化学反応を起こした「永遠(とわ)に」は、オーケストラが奏でることでスタイリッシュでドラマティックな世界が広がっていく。

 どの曲にもアレンジの妙、という言葉が浮かんできた。初演でも萩森英明と共にアレンジを担当した山下康介は、パンフレットに寄せたコメントの中で「声と楽器のサウンドのブレンド具合がとても自然体で音楽が存在しているような魅力があった」と初演を振り返り、「今回もきっと想像を超えるステージになるでしょう」と語っている通りのコンサートになった。

 続いて披露された「あたらしい世界」は、前回のツアーでは後半の「展覧会のゴスペラーズ」の一つの展示作品として構成されていたが、本ツアーのセットリストでは一部に移動している。前回の流れをくむかのように間奏にムソルグスキー「展覧会の絵」を潜ませ、壮大なアレンジと重厚なコーラスが響き渡る。

 オーケストラサウンドが力強くエスコートして、歌が“飛び込んでくる”ような感覚だ。ここでマエストロ田中祐子が紹介され、ファンが楽しみにしていた5人との丁々発止のやりとりが繰り広げられる。前回のツアーでも、その鋭い観察眼でメンバーをオーケストラの楽器に例えた田中だが、改めて的確な表現で説明すると客席は爆笑し、大いに納得している。メンバーと信頼関係を深めてきた田中祐子。その絆の深さを感じるこの時間もこのコンサートの大きな魅力のひとつだ。

 昨年リリースした「Mi Amorcito」は、ラテンフレーバー香る熱量が高い楽曲。情熱的な歌声と音が響き、第一部最後の「街角 -on the corner-」では優しいメロディが印象的な、メッセージ性溢れる壮大なバラード。そのメッセージを伝える5人の歌に寄り添うようなオーケストラの音がさらに感動を増幅させ、涙を流しながら聴いている人も多かった。

 第二部は歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」の「間奏曲」から。オーケストラのたおやかな音が哀しさと温かさを湛える美しいメロディを、より印象的に描く。この日の田中祐子の指揮は時に穏やか、時にパワフル、しなやかで優雅な動きで、東京フィルをまとめあげる。

 トークセッションでは田中が「5人の歌を聴いていると、まるでオペラをやっているような感覚になる」と、この曲をセレクトした理由を教えてくれる。そしてオペラにも種類があることを丁寧に説明し、その恋愛シーンをテーマに5人とやりとりを繰り広げると、客席は爆笑の連続だ。クラシックをより身近なものにしてくれる時間だ。

 疾走感のあるイントロから始まる「Happy」は、ヴィヴァルディの「四季」が織り交ぜられ、前回とはガラッと違うアレンジで強いグルーヴを作り上げる。一転して美しい弦のイントロで静かに始まった「明日に架ける橋」は、苦境に立たされた友人を見守り、その支えになりながら常に味方でいたいと歌う。この曲を、今歌うべき歌として今年もセットリストに加えたメンバーの思いが、それぞれの歌と感動的な旋律に乗って伝わってくる。

 そして山場は、前回のツアーでムソルグスキーの「展覧会の絵」を大胆に引用したアレンジメドレーで大好評を博した「展覧会のゴスペラーズ」だ。酒井が「絵を鑑賞している時は、どうぞお静かに…」と語り、観客は頭の中で美術館のプロムナードを歩き始める画を想像する。最初の絵は「CENTURY」。ファンが待ち望んでいた一曲が、熱と豊かな色彩を帯び描かれる。そしてプロムナードから黒沢の歌い出しで「ゆくてに」が久々に披露される。酒井が作詞・作曲を手がけたハートウォームな“祈り”を感じる言葉とメロディがスッと胸に入ってくる。再びプロムナードからこれもファンが聴きたかった一曲「星降る夜のシンフォニー」だ。“63人のハーモニー”は圧巻だ。そしてプロムナードからラストの「キエフの大門」へと向かう。オーケストラのメンバー一人一人の気迫が伝わってくるような演奏だ。57人それぞれの思いを丁寧にかつ大胆に、マエストロ田中がひとつの道へと導いていくような演奏は、肚と心に響いてきて、大きな感動を連れてきた。「展覧会の絵」は150年前に作曲され愛され続け、ゴスペラーズの楽曲も30年間愛され続けてきた。色褪せないクラシックとポップスの融合は、心の中に素晴らしい景色を作りだしてくれた。

 村上が「2年前初めてこのコンサートをやった時、またこの音を探す旅に出かけて、必ず皆さんと会える日が来ると約束しました」と語ると大きな拍手が贈られ、「またこの旅がずっとずっと続くように」と、ラストは「約束の季節」を披露した。切ないメロディが広がり、前向きなメッセージと共に温もりを届ける。クライマックス、ラストのサビの5人の歌とオーケストラの演奏の抜群の“ブレンド”に心が昂り、客席は拍手喝采だ。

 アンコールは「一筋の軌跡」。客席は総立ちで手拍子しながら一緒に歌い、<一つになるのさ>と5人と田中、そして全員で人差し指を高く掲げる。5人の歌、ハーモニー、オーケストラの心と体に響き渡る美音、そしてメンバーと指揮者の底抜けに楽しいトーク、最後は立って全員で歌う——こんなに素敵なクラシックコンサートがあるのだろうかと素直に思った。そして全員で手をつなぎマイクなしであいさつし、終演。ステージ上も客席も名残惜しい思いを交感する。

 歌と演奏がそれぞれに“寄せる”のではなく、それぞれを引き立て合うコンサートだということを改めて感じた。そして、コンサートにあたってのインタビューで北山が「豪華なだけじゃない、なにかの置き換えでもない、そこにしかない『ゴスペラーズ音楽とクラシック音楽の間のなにか』を作り出そうと全員でもがきますので、ぜひそこを感じていただきたいです」と語っていたことが、鮮やかに映しだされていた、誰もがそう感じたコンサートだったはずだ。5人がマエストロとオーケストラと共に音を探す旅は、さらに“その先”を求めて続くだろう。

text:田中久勝 photo:石阪大輔

◎公演情報 ※終演
2024年4月15日(月)東京・J:COMホール八王子 OPEN17:30/START18:30
2024年4月20日(土)兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール OPEN16:15/START17:00 
2024年4月27日(土)宮城・東京エレクトロンホール宮城  OPEN16:00/START17:00 
2024年4月30日(火)東京・ 東京文化会館 大ホール OPEN17:30/START18:30
2024年5月10日(金)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール OPEN17:30/START18:30 
2024年5月19日(日)札幌・札幌文化芸術劇場 hitaru OPEN16:00/START17:00

<出演>
ゴスペラーズ(北山陽一、黒沢 薫、酒井雄二、村上てつや、安岡 優)

<指揮>
田中祐子

<管弦楽>
【東京】東京フィルハーモニー交響楽団
【兵庫】京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ
【宮城】仙台フィルハーモニー管弦楽団
【愛知】セントラル愛知交響楽団
【北海道】ビルボードクラシックスオーケストラ with SORA

<編曲監修>
山下康介

<編曲>
山下康介、萩森英明

公演公式サイト:https://billboard-cc.com/gospellers2024

〇セットリスト

<第一部>
M1 Overture
M2 いろは 2010
M3 星屑の街
M4 永遠(とわ)に
M5 あたらしい世界
M6 Mi Amorcito
M7 街角 – on the corner –

<第二部>
M8 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲
M9 Happy
M10 明日に架ける橋
M11 展覧会のゴスペラーズ(CENTURY~ゆくてに~星降る夜のシンフォニー)
M12 約束の季節
EC 一筋の軌跡


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