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新しい時代の寵児──この夜、彼女、Awichはその立ち位置を絶対的なものにした。今年9月末にオープンしたばかりの神奈川・Kアリーナ横浜を埋め尽くした1.8万人のオーディエンスを前に、今できること、やれることをすべて体現した3時間のパフォーマンス。徹頭徹尾、Awichはこの国でまだ誰も纏ったことのなかった、どこまでもリアルでとことん人間味に満ちた威光を放ち続けた。沖縄を出自に持つラッパーとして、ひとりの母として、さらには前例のないエンターテイナーとしても時代の語り部となる。ヒップホップ/ラップミュージックはここまで大衆を歓喜させ、鼓舞できるということを提示する。そのうえでシーンのみならず日本のカルチャー全体をも底上げしながら、時代と自らの音楽を能動的に受け取るリスナー/オーディエンス個々人を新しいフェーズに導く。彼女は、これが自分自身でつかみとり、他の誰でもない自分だからこそ現実のものにできる使命だとはっきり自覚している。
時代の寵児と呼ぶべきアーティストは、何も最初から神に用意されたような道のりを歩む者だけがなるのではない。それを、彼女は証明してみせた。苦悩にまみれ、辛酸をなめ、一度はマイクを手放し表現することをあきらめかけた彼女は、実の娘や仲間に救われながら躍動し、ユースカルチャーの象徴にもなったヒップホップ/ラップミュージックの盛り上がりとともに今、この場所にたどり着いた。だからこそ、彼女はラッパーとして生々しい表現性を一切漂白しないままショウビズとも真っ向から向き合い、世代を越えた地元の盟友やヒップホップを通して出会ったフッドの異なるラッパーやダンサー、民謡歌手や舞踏家、そして愛娘もこの大きな舞台に呼び、総力を結集して「THE UNION」を呼びかけたのだ。
思えばまだパンデミックシフトを余儀なくされながらも自他ともに“伝説”と認めるライブをやってのけた昨年3月の日本武道館単独公演からここまで、Awichはその歩みを一切止めることなく、去る10月25日にリリースしたばかりのニューアルバム『THE UNION』の完成と、このKアリーナ公演を、パラダイムシフトを起こす大きなポイントと見定め走り続けた。
客電が落ち、超満員のオーディエンスによって充満した期待が大歓声となって弾けたオープニング。沖縄民謡を真摯に昇華した演出が施されたアルバムタイトル曲「THE UNION」でライブの幕は上がった。巨大なLEDビジョンにAwichがどこからやってきて、どのような道を歩んできたのかというその軌跡をフラッシュバックさせるようなモノクロのムービーが映し出される。1.8万人の耳目をステージに引き付けたうえで、Awichはまさに“降臨”といった様相でステージに現れ、彼女の口からラップが放たれると、ビジョンに大きな陽が昇る。この曲も含めていくつかの楽曲を生演奏仕様にしたビートの鳴りは至極ダイナミックで、山田健人が手がけたものだろう、映像を含めたステージ演出もまた完全に新しい境地に達していた。
詳しくはセットリストを確認してもらいたいが、序盤から客演ラッパーやダンサーが多数登場し、早くも6曲目でNENE、LANA、MaRI、YURIYAN RETRIEVERを招き入れ(AIはムービーコメントで参加)、2023年の日本における最強のシスターフッド・アンセムである「Bad Bitch美学 Remix」が投下されたことに驚かされたがしかし、そこからさらに忘れがたい場面が続いていった。
彼女の娘、Yomi Jah(Toyomi)は「Call On Me」や「TSUBASA」で時にダンサーとして、時にラッパーとして母のステージにかけがえのない華を添えた。フッドの仲間たちと沖縄という土地で生まれ継承されていく文化の美しさや可能性を迫真的に描いたブロックの最後。DJブースの前でAwichとToyomiが座り、見つめ合い、手と手を重ねながら母が娘に静かに語りかけるように歌った「Wait For Me」はあまりに感動的だった。
ニューアルバム『THE UNION』においても大きな存在感を湛えている、GADOROとともにインターネットの光と闇についてのリリシズムを紡いだ「Burn Down」。同じく『THE UNION』からSTUTSのビートでBIMとメロディアスに孤独な夜を照らした「Twinkle Stars」。ゆりやんレトリィバァがAwichに、ナダル(コロコロチキチキペッパーズ)がKEIJUに扮しYouTube上でバズを起こした『THE FIRST TAKE』のオマージュが生再現され、直後に“ご本人登場”の形でAwichとKEIJUが「Remember」をキックしたのも実に痛快だった。
そこからの流れ──「Link Up feat. KEIJU,¥ellow Bucks」「洗脳 feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS」「やっちまいな feat. ANARCHY」「WHORU? feat. ANARCHY」「SUPER GIRA GIRA feat. JP THE WAVY, YZERR」は、Awichという磁力に集った客演陣と現行のヒップホップシーンの求心力をアグレッシブに見せつけるような圧巻のパフォーマンスだった。AwichはYZERRに、2024年2月に開催されるBAD HOPのラストライブにして日本のヒップホップアーティスト初となる東京ドーム単独公演の成功を願っていること、この日もかけられた「姉さんならもっといける!」という彼の言葉にかつて救われたことに感謝を述べると、「みんなでユニオンし、底上げして、成長していける、そういうシーンにしたい」という揺るぎない思いを語った。
そして、ある予告映像が流れた。それはAwichが2024年から本格的に海外進出することを告げるものだった。現時点ではまだ言えないことがたくさんあるという。しかし、映像の中には「THE UNION」のリリックにも登場するウータン・クランのRZAと思われる姿もあり、どうしたって期待は高まる。
「おまえら全員、パスポート取っとけよ! みんなが見たことのない景色を見せてあげられると思ってる。でも、日本の活動も終わるわけではありません!」
そう彼女は言うと、続けざまに2024年4月から『THE UNION』を携えた国内ツアー、来月の自身の誕生日にはバースデーライブを開催することも発表。つまり、ここから2024年以降、Awichは海外と国内を飛び回ることになる。
ラストにAwichが選んだ2曲は「Queendom」と「Love Me Up」。「Queendom」でこの日のライブの集大成となるパフォーマンスを刻みつけると、「Love Me Up」で彼女は空中ブランコに乗って高く舞い上がった。Awichは会場を埋め尽くすオーディエンスを愛おしそうに見渡しながら、最高に優しくロマンティックな様相でラップし、歌った。彼女がステージを去ると、ビジョンに直筆のメッセージが映し出された。
みんなへ、
私はこれから世界へ向けてみんなが進める道を作っていく!!
怖いと思う時もあるし、不安もあるけど、私はそのために進むよ。
もし、あなたが本当にAWICHのファンなら、あなたは自分自身の大ファンであるはず!!
だからこれからどんなに私の舞台が大きくなっても
遠くなるようで寂しいなんて言わないで、あなたも一緒に大きくなろう!!!
私が生涯そうするように、あなたも自分を信じ、成長してください♥
2023.11 5
またすぐね
PEACE
Awich
この夜、確かにAwichは何かを大きく動かしてみせた。そう、誰もまだ成し遂げたことのない彼女の物語は続く。みんなと続けていくのだ。
Text by 三宅正一
▼セットリスト
1. OKINAWAN OPENING SHOW ※with 琉球舞踊団
2. THE UNION ※with 琉球舞踊団
3. Guerrilla
4. ALI BABA ※with MFS
5. イケメンタル ※with NENE
6. Bad Bitch 美学 Remix ※with NENE, LANA, MaRI, YURIYAN RETRIEVER
7. 口に出して
8. 口に出して 2
9. Shut Down ※with CYBER RUI
10. Call On Me ※with Yomi Jah
~ DJ U-LEE TIME ~
11. 琉球愛歌 Remix
12. NINGEN State Of Mind Ⅱ REMIX ※with RITTO
13. RASEN in OKINAWA ※with 唾奇, OZworld, CHICO CARLITO
14. LONGINESS REMIX ※with SugLawd Familiar, CHICO CARLITO
15. TSUBASA ※with Yomi Jah
16. Wait For Me ※with Patrick Bartley (Sax)
17. Revenge
18. Burn Down ※with GADORO
19. Twinkle Stars ※with STUTS, BIM
20. かくれんぼ
21. Remember -THE FIRST TAKE ver.- ※by ナダル, ゆりやんレトリィバァ
22. Remember ※with KEIJU
23. Link Up ※with KEIJU, ¥ellow Bucks
24. 洗脳 ※with DOGMA, 鎮座DOPENESS
25. やっちまいな ※with ANARCHY
26. WHORU? ※with ANARCHY
27. SUPER GILA GILA ※with JP THE WAVY, YZERR
28. Queendom
29. Love Me Up
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