エンターテインメント・ウェブマガジン
							シンガーソングライターの水咲加奈が、2025年11月2日に東京・渋谷JZ Bratにて、ワンマンライブ【No Cafe, No Life】を開催した。
このライブは、2023年8月から今年7月まで100週連続でリリースされた、実在する喫茶店を題材に毎週新曲をリリースするプロジェクト「水咲カフェ」の楽曲たちを弾き語りで生披露するというもの。「水咲カフェ」シリーズは2023年8月に始まり、毎週リリースを続け700日後の 2025 年7月9日に見事100 週連続リリースを達成。この日の客席も100名限定となっており、早々にソールドアウトしてライブ当日を迎えた。
客席後方から登場した水咲は、大きな拍手に迎えられてステージに上がると客席に向かい一礼してから、「今日は音楽と共に喫茶店にみなさんをお連れするという“喫茶旅ラジオ”をお届けしようと思います」とライブのコンセプトを伝えた。「本当に喫茶店にいるようにリラックスしてお楽しみください。それでは早速、音楽と共に喫茶店の旅、スタートいたします。ナビゲーターは水咲加奈です」とライブが始まった。
SEで電車の音が流れ出し、「次は、下北沢、下北沢」と駅員風のアナウンスから、水咲は「早速、渋谷を抜け出して、鉄道に揺られて数分。サブカルチャーの街、下北沢にやってきました。古着やライブハウス、小劇場など個性あふれるこの街を少し歩くと、植物の生い茂る薄暗い扉を見つけました。中に入るとカチコチ時計が鳴っています。その瞬間、感覚が研ぎ澄まされていきました」との導入から、「うず」へ。流麗にピアノを弾きリズムに乗りながら歌うと、静かな音色から「もう少し歩いて東松原に向かいましょう。ドラッグストアの向かいに素敵な喫茶店があります。2階の大きな窓から人々の生活を見下ろしていると、パラパラと雨が降ってきました」との語りから、雨音を表現したような演奏から「こはく」を声を張って歌唱。雨が上がり、同じく東松原の喫茶店「東亜珈琲店」へ。激しさを増した歌声は、吉祥寺の喫茶店「ロゼ」で、躍動感豊かに1つ目の旅を終えた。
「水咲カフェ」シリーズはすべて1分の楽曲となっており、この日のライブはそれぞれのエリアごとに喫茶店が取り上げられ、水咲はその街や店の情景を1つずつ語りながら、曲を歌っていった。続くセクションでは「さて、ここからは JR に乗り換えて、いろんな駅に降りながら都内を散策してみましょう。まず最初は荻窪駅」と、「邪宗門」からスタート。語りからのゆったりとした演奏と歌で〈軋んだ床が愛しい〉と描かれた曲は、短い時間でもアンティーク調な店の雰囲気が想像できる。パワーポップにも聴こえた「gion」(阿佐ヶ谷)、かわいらしく跳ねた「七つ森」(高円寺)、「大きな窓から差し込む光に、大きな生け花の線形。疲れた心に染み渡っていきます」と鍵盤を鳴らしながら歌い出した「奥の扉」(中野)から、新宿へ。「自分のこだわりって、意味や価値がないのかもしれない。そんな風に思ってしまうことが増えました。しかし、このお店に来ると、こだわりこそがその人の生き様だと思わされます」との語りにハッとさせられた「凡」では、逸脱していく演奏の迫力がアバンギャルドなムードを漂わせた。ソウルフルに歌い上げた「ロン」(四谷)、「華麗なる大円舞曲」を弾いてから紹介されたノクターン調歌い出しの「ショパン」(お茶の水)と、中央線らしく個性的な喫茶店と音楽が並んでいた。JRの旅は両国の「ニューストン」でバラード調からテンポアップして終着となった。
MCでは、「知ってる喫茶店があった方いますか?」と呼び掛けると、たくさんの手が上がった。改めて「水咲カフェ」が100 週連続リリースを達成したことを報告すると、客席から「おめでとう!」と声がかかり大きな拍手が贈られた。
続く地下鉄東京メトロ銀座線の旅は、浅草の「純喫茶マウンテン」からスタート。「ブロンディー」では変拍子の演奏が、「古城」ではハイトーンのボーカルが耳に残る。ピアノと歌だけにも関わらず、語りと織り交ぜているためより想像力を掻き立てて、立体的な音像となってグッと迫ってくる。「サテラ」(渋谷)でメトロ銀座線の旅が終わると、冒頭から電車の音などを出していたポータブルシンセ「OP-1 field」を使った弾き語りコーナーへ。「これを使ってYouTubeでビートルズのカバー動画を投稿してるんですけど、最近それがちょっとだけバズりまして、3週間で 4万回再生という、ミュージック・ビデオよりも再生されちゃってます(笑)」と明かして和ませた。このコーナーでは、「手紙を書ける喫茶店」という共通点のある2店をモチーフにした曲が歌われた。「便箋喫茶」(経堂)では和楽器のような響きが広がり、「天文図館」(阿佐ヶ谷)では対照的にエレクトロなリフが転がるように鳴る。SNS時代に於いて手紙を書くことの楽しさや喜びを、少し思い出させてくれるコーナーだった。
10分間の休憩を挟み、衣装替えをしてステージに戻った水咲が、「次は、東京から少し離れて私の地元、福井県にみなさんをお連れします」と告げると、飛行機の音が流れ福井県越前市へと誘われる。100年以上前に建てられたという「たばき」をイメージした綺麗なメロディを歌うと、「少し歩きましょう。アンティークの箱の中に入り込んだような素敵なお店がこの近くにあります」と長い語りが入った。「ここのジャズ好きのマスターが大好きで、“いつかあなたの曲を作るので聴いてください”と言ったことがあります。“聴きません”と断られました」と語る水咲に客席からは笑いが漏れたものの、「しかし、調子に乗って私はこの曲を作り、お店に伺ったところ、そのマスターは事故で亡くなられていました。この曲を聴かせることはできなかったけれど、親戚の方々が後を継いでお店の歴史は続いていきます」と「シラトリ」を歌い出すと、誰もが静まり返り曲に聴き入った。「ここでいただく自家焙煎コーヒーは個性的な味で酸味が強く、切ない記憶を思い出してしまいます。地元って出会いもあれば別れもあるものですよね」と呟いてピンスポットを浴びながら歌い上げた「モントリオール」(福井市/以下同)、「あの頃から少しは成長しただろうか。いや、私は何も変わっていない」と独白した「BON」など、地元ならではの水咲のルーツを垣間見ることができる曲が続く。この旅の最後は、壮大なサウンドスケープを描く「毛矢珈琲」で締めくくられた。
再びOP-1 fieldを使ったコーナーでは、福井と東京を繋ぐ北陸新幹線で経由する県にある喫茶店の曲が披露された。100曲連続リリースの1曲目でもある「泉」(石川県小松市)ではディレイのかかった幻想的な音で客席を見渡しながら語り掛けるように歌い、「SENJU」(長野県飯田市)では打ち込みのリズムを鳴らし、リアルタイムサンプリングしたトラックをバックにピアノの生演奏しながら弾き語り。圧巻のロングトーンを聴かせると、アウトロでOP-1 fieldを手に立ち上がり、左右に音をパンして聴かせるなど、実験的且つ遊び心のあるパフォーマンスで客席を沸せて拍手喝采となった。
曲間のMCによると、「水咲カフェ」シリーズを始めたきっかけは、曲が書けなくなり音楽も聴けなくなったことだったことだったという。そんなとき、喫茶店に足を運んでみたところ、ボーっとできて自分の精神をチューニングできるような感じがして助けられたそうだ。「喫茶店のために一回リハビリとして曲を書いてみようかなと思って、たった 1 分の曲を書いてみました。そしたらスラスラと曲が書けて。そんなところからいろんな喫茶店を巡って曲を書きたいなと思って」。毎週リリースするようになり、曲も書けるようになりアルバム(9年ぶりのフルアルバム『immersive』)のリリースにも繋がったそうだ。
ここで質問タイムとなり、お客さんの中から水咲に訊いてみたいことが募られた。客席から多くの手が上がり、「喫茶店で、“ここに入ってみようかな”って思うポイントはありますか?」「選りすぐりの曲のロングバージョンを作るみたいな予定はないんでしょうか?」「喫茶店で苦手な食べ物ってありますか?」「喫茶店の曲を作りたいとお店の人に言った分、いろいろ断られたりすることもあったのでは?」などといった質問を受け、100曲を作りリリースする上で苦心した点も赤裸々に話してくれた。お客さんとの快活なコミュニケーションで、ライブの内容がより一層深く感じられたコーナーだった。
ライブ後半の旅は、神奈川県川崎市の「じん」からスタート。静かに始まり、リズミカルに展開していく。続く「山百合」(鶴見)には自分と同じ年のマスターがいて、この日のライブにも来てくれているということで、「いつも元気をありがとう」とメッセージ。力強くピアノを弾きながら、横浜・関内へ。映画のロケ地としても人気だという紹介から「モンレオン」が披露された。躍動感たっぷりに熱唱すると、電車の音に続き「次は神保町」とアナウンスされ、いよいよ最後の旅へ。
多くの老舗の喫茶店が集まる神保町エリアは、向かいで花屋も営んでいるという「メリア」に始まり「まふみ」、「伯刺西爾」と、神保町界隈を案内しながら歌い継いでいく。「伯刺西爾」の紹介では、「帰り際にマスターに話しかけると、いきなり話しかけたものだから驚かれてしまいました。喫茶店巡りをしていると、自然と人も喋れるようになってきたみたいです」と語り、<いつからだろう まっすぐに 瞳と瞳を交わすようになった>と歌うことで、「水咲カフェ」で取り戻した自分らしさが描かれてるように感じられた。
「最後のお店は、神保町公園の向かいにある温かい照明のお店。時間をかけてネルドリップしてくれるこのお店のコーヒーはため息の出る美味しさで、隣に座っていたアメリカ人の青年も感激していました。今日はマスターがライブにも遊びに来てくれています」と紹介された曲は、「on a slow boat to…」。英詞による歌で、そのアメリカ人の青年と交わしたのであろう会話の内容が伺えた。
長い余韻の後、「ごちそうさまでした」と呟いた水咲は、「ありがとうございます」と深く感謝の一礼。「これにて、水咲カフェ【No Cafe, No Life】終了でございます。ありがとうございました!旅の終着点、渋谷JZ Bratに戻ってきました。今夜は 36軒のお店にお連れしました。あと64軒ございます。いつかまた喫茶店巡りしましょう。こんな喫茶店の曲を作りたいという不思議な相談をお受けしてくれた 100店の方々には感謝ですし、喫茶店って本当に1つとして同じお店がなくて、1日として同じ日もなくて。そんな、”絶対に何かの出会いが訪れる”っていうところが大きな魅力だと思っているので、是非足を運んでみてください。No Cafe, No Life。良き喫茶店ライフをお過ごしください。ありがとうございました」。万雷の拍手を受けた水咲は、「旅の思い出には写真も付きものということで」と言いながら、ステージ上から客席を記念撮影。喫茶店ではないものの、渋谷JZ Bratが101店目の水咲カフェになったような温かいムードで終演となった。
Text by 岡本貴之
Photo by Yuma Totsuka
◎公演情報
【No Cafe, No Life】
2025年11月2日(日)
東京・渋谷JZ Brat
<セットリスト>
1. うず
2. こはく
3. 東亜
4. ロゼ
5. 邪宗門
6. gion
7. 七ツ森
8. 奥の扉
9. 凡
10. ロン
11. ショパン
12. ニューストン
13. 純喫茶マウンテン
14. ブロンディー
15. 赤石
16. 古城
17. サテラ
18. 便箋
19. 天文図館
20. たばき
21. シラトリ
22. かくれんぼ
23. ロレックス
24. ニホ
25. モントリオール
26. BON
27. 毛矢珈琲
28. 泉
29. SENJU
30. じん
31. 山百合
32. モンレオン
33. メリア
34. まふみ
35. 伯刺西爾
36. slow boat
J-POP2025年11月4日
SWEET STEADYが、2026年4月4日・5日に千葉・幕張メッセにて単独公演【SWEET STEADY 2nd ANNIVERSARY LIVE】を開催する。 初の全国ツアー【SWEET STEADY JAPAN TOUR 202 … 続きを読む
J-POP2025年11月4日
Aqua Timezが、2025年12月10日にニューアルバム『海いっぱいに降りしきる星』をリリースする。 本作は、2024年7月に再結成を発表し、今年2025年いっぱいまで活動中のAqua Timezの再結成後初となるCD商品。再結成 … 続きを読む
J-POP2025年11月4日
渋谷龍太(SUPER BEAVER)が、2025年12月19日に全国公開となる映画『楓』に劇中歌カバーアーティストとして参加する。 本映画は、スピッツの楽曲「楓」を原案にし、監督を行定勲、脚本を高橋泉(※)、音楽をYaffleが担当する … 続きを読む
J-POP2025年11月4日
UNISON SQUARE GARDENが、2026年1月から放送開始となるTVアニメ『うるわしの宵の月』のオープニング主題歌とエンディング主題歌を担当する。 本アニメは、やまもり三香による同名漫画が原作で、オープニング主題歌は「うるわ … 続きを読む
J-POP2025年11月4日
sumikaが、2025年11月5日に新曲「Beatnik」を配信リリースする。 新曲「Beatnik」は、“抑圧からの解放”をテーマに、片岡健太(vo,g)が作曲・作詞を手掛けた楽曲で、「Beatnik -Bird-」と「Beatni … 続きを読む