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aikoが、9月28日に【Love Like Pop vol.23】ファイナル公演を東京・NHKホールにて開催した。
何度も繰り返された「もう1曲」が終わって、かなり忙しない挨拶を終えてaikoがステージを後にした瞬間、なんてチャーミングな人なんだろう!とすっかり魅了されてしまった。その自然体かつキュートな姿は以前からメディアで目にしていたけれど、ライブでの“お花ちゃん”(aikoがファンを呼ぶ際の呼称)たちとのコミュニケーションを目の当たりにして、彼女がどれだけ周りから愛される人なのか、そしてどれだけ愛情深い人なのかを、深く実感したのだ。
開演直後。まず驚いたのが、観客の全力の「aiko」コールだ。全員が腹の底から声を出して、小学生くらいの小さい子だって、「aiko~!」と彼女の名前を呼び捨てで叫んでいた。この時点で、集まった観客がこのライブを全力で楽しもうとしていること、そしてaikoの人懐っこい人柄が老若男女に受け入れられていることが伝わってくる。
最新アルバム『今の二人をお互いが見てる』より「荒れた唇は恋を失くす」のイントロが流れ出すなか、紗幕が一気に落とされ、満を持してaikoがステージに姿を見せると、客席からは割れんばかりの大歓声が。1曲目からすでに両手を高く挙げてジャンプし、曲に乗る観客たち。眩しく輝くステージの照明、そしてそれに負けないほど煌びやかなサウンド。そしてそれに合わせて、観客の誰よりも高く飛び跳ね、楽しそうに歌うaiko。彼女のライブのスタンダードを、1曲目から示してもらった気がした。
一転、ゆったりとしたリズムと暗めの照明で、ディナーショーのようなムーディさを醸し出した「さらば!」を挟むと、「雲は白リンゴは赤」ではイントロが流れた瞬間、力強い手拍子が巻き起こる。恋の終わりを描いた悲しい曲なのに、音源よりBPMを上げた軽快なサウンドには踊らずにはいられない。「夢のダンス」はジャジーで、どこか歌謡曲チックな懐かしさが漂うが、aikoの柔らかく清涼感のある声がそれをけばけばしくさせないのがさすがだ。「果てしない二人」では両手でハートをつくってみせるファンサービスも飛び出し、そして「磁石」はN極とS極を想起させる赤と青のレーザーがぐるぐると会場内を駆け回る。重量の増したエレキのサウンドとともに、目まぐるしく動く感情を表現しているようだと思った。
MCでは、「最終日、記録にも記憶にも残るライブを作りましょう!」と宣言したあと、「さみしいよ~!」とステージ上で横になり駄々をこねてみせるaiko。「みんな、平日やのに来てくれてありがとう!」と何度も感謝を告げつつ、観客からの言葉を一つひとつ拾い、コミュニケーションをとっていく姿(席が遠くてaikoが見えづらい、という観客に「心はいつもあなたの隣にいます」と全身を使って伝えた姿のお茶目なことといったら!)からは、ラジオDJ時代から培ってきた彼女のトークスキルと、飾らない気持ちをそのまま表現できる天性の人懐っこさが伝わってくる。
「ぶどうじゅーす」では、ステージ背面のモニターで視覚的にも甘酸っぱさを演出。「ワンツースリー」でサックスと共鳴するようなハイトーンのフェイクを決めてみせ、「号泣中」では、ささやくようなバンドの伴奏がaikoの歌声をいっそう引き立てる。そして、水分補給タイムを観客との“乾杯”で彩ると、ピアノでの弾き語りスタイルで「のぼせ」「ハニーメモリー」を続けて披露した。その後のMCで、弾き語りは苦手、と正直な感想で笑いを誘いつつ、「曲を作った時の形で聴いてもらえるのは、すごく嬉しい」と素直な気持ちを笑顔で明かす。
「キーが高くて、自信がない時は歌えなかった」曲という「マント」「アンドロメダ」「ポニーテール」の、約20年もの間歌い続けてきた3曲を重ねた後は、久しぶりの披露となったバラード「気付かれないように」へ。そこから、一気に楽しいクラップが巻き起こった「アップルパイ」では、メンバー紹介を兼ねたソロ回しで大歓声が。その爆発力を汲んだように、ラストサビでは銀テープがまばゆく会場を舞う。
このテンションのまま続いた「あたしの向こう」では、バンドの演奏とaikoの声量、そして観客の手拍子の音量が同じ大きさに聴こえて、今この会場にいる全員が、等しい熱量でこの瞬間を楽しんでいることがひしひしと伝わってきた。そして、「ハナガサイタ」で会場をハッピーなムードで包み込み、本編を締めくくった。
一旦会場が暗転すると、自然と客席からは大音量の「aiko」コールが巻き起こる。観客たちもまだまだこれでは終われない!という様子だ。そんななか、アンコールは「玄関のあとで」からしっとりとスタート。しかし曲が終わってのMCで、おもむろに「最近(ライブに)『長生きしてね』ってプレートを持ってきてくれる人がいる(笑)」と語り出し、会場はどっと笑いに包まれる。「ライブに来てくれたからには、楽しい、面白いとか、嬉しいとか、前向きでポジティブな気持ちを、みんなに持って帰ってほしい」「いろんなことを抱えながら会場にきてくださった方もいると思うけど、それはいったん置いておいて、今は自分のためだけに、このライブを受け止めてください! よろしくお願いします!」と笑顔で告げると、大きな拍手が。そして「会えなくても、私はみなさんに念を送っています……!」と「telepathy」へ続く。
その後の「58cm」でアンコールも終わり……のはずだったのだが、ファイナルならではの特別“感謝デー”として、もう一曲「夏服」を歌うと発表し、客席からは「おおーっ!!」と大歓声が。そしてこの曲も終わり……と思いきや、そこから「未来を拾いに」「愛の病」「夢見る隙間」「エナジー」「be master of life」と、まさかの6曲をノンストップで披露。新旧織り混ざった選曲で盛り上げつつ、「エナジー」からはなんと客席に降りるサプライズが。より近い距離で観客と触れ合って、最後は観客に胴上げしてもらうユニークなスタイルでステージ上へ帰っていく。
ここで、11月22日に新曲「星の降る日に」をリリースすることを発表しつつ(告知前には、まさかの「社会の窓が開いていた」ことに気づき、それをバンドとともに笑いに昇華する一幕も)、aikoはまだまだ歌い足りない!という様子。期待しつつも、会場完全撤収の時間に間に合うか心配する観客に「やばい!」と返しながら、「キラキラ」「ボーイフレンド」とキラーチューンを重ねていく。そしてアンコール12曲目、先のMCで語られた「ポジティブな思いを持って帰ってほしい」というaikoの愛情を凝縮したような、〈君にいいことがあるように〉とおまじないのように繰り返す「ストロー」で、今度こそライブの幕を下ろした。
「aiko節」と呼びたくなる独創的なメロディーもそうだが、彼女の人柄だってそれに負けないくらい、他に類を見ないものだと思う。いつも近くでたわいもない話をして笑ってくれる友達のようで、それでいてファンを“お花ちゃん”と呼び愛でる、母性にも近い包容力もあって……。確かなキャリアを築きながらも、変わらず聴く人のどこまでも近い距離に居続けていて、心からの愛を届け続けている人。この平日ど真ん中のライブに老若男女3,800人が集まり、3時間超のあいだ熱狂しつづけていたことだって、その大きな愛とチャーミングさの底知れない求心力の表れだろう。来年1月からは、じつに約5年ぶりのアリーナツアー【Love Like Pop Vol.24】の開催も決定しているaiko。彼女の歌う愛の大きさには、きっとアリーナだって敵わない。
Text by Maiko Murata
Photo by 岡田貴之
◎公演情報
【Love Like Pop Vol.23】
2023年9月28日(木) 東京・NHKホール
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